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    狂骨の夢、例えばこんな幕間があったらいいなという願望。ネタバレ注意

    #百鬼夜行シリーズ
    theHyakkiYakkoSeries

    夢の境目女が、泣きながら男の首を切っている。
    鉈と鋸で切っている。

    ついに千切れた首が、ころころと
    私の足元に転がってきた。

    気がつくと、もう女はいない。
    胴体もない。
    血だまりだらけの庭の真ん中に井戸がある。

    その井戸が、
    その井戸から、

    何かが這い出してくる。
    首のない、男だ。
    一人ではない、何人も。

    私は足元に転がっていた首を抱え
    逃げ出した、男達が追ってくる。
    首を返せとばかりに追ってくる。

    私は逃げる。
    この首を返してしまえば、
    また女は首を切らねばならぬ。
    泣きながら、切らねばならぬ。

    どれだけ走っただろう。
    足が縺れて倒れこむ。
    首のない男達の手がぬうと伸びてくる。

    …やめてくれ!



    見慣れた天井だった。
    夢の中で走っていた分と同じだけ
    息はあがり、きれていた。
    ゼエゼエと、忙しなく胸が上下する。
    夢の終わりで叫んだ気がするが
    隣の雪絵はすやすやと寝ていた。

    宇多川の話を聞いてから、同じ夢を見続ける。
    その訃報を触れてから、より生々しいものとなった。
    血みどろの庭の生臭さも、胸に抱える首の重みも
    最後に男達に腕を掴まれる感触すらも。

    夢と現実の境が胡乱になってくる、
    吐き気を催し、布団を抜け出て洗面所に急ぎ来たが
    出てきたのは胃液だけだった。酷い顔色だ。


    ふと、洗面台の横に引っかけてある
    洋袴のポケットにあるものを思い出した。

    京極堂の宿泊している旅館の連絡先である。
    彼の細君から「関口さんにも渡しておけと」と
    差し出された紙切れだ。既に敦子嬢が何回か
    連絡をとっているはずである。

    だから、私なんかが、こんな深夜に
    なんの連絡をする必要があるというのか。
    ただもう私の手にはその紙切れが握られ、
    目の前には黒電話が鎮座している。

    かけても取り次いで貰えないかもしれない、
    もう寝てしまっているかもしれない。
    常識的に考えれば、明日にかけるべきだろう。

    しかし限界だった。
    京極堂の声を聴かねば、今、聴かねば
    私は壊れてしまうかもしれない。
    焦燥感に駆られながらダイアルを回した。


    旅館に繋がり、部屋番号と名前を告げると
    あっさりと取り次いで貰えた。
    内線音に胸が高鳴る、でももう寝て…

    がちゃり


    「もしもし」


    京極堂だ。


    「関口君だね?」


    失語しているうちに、
    向こうから確認をとってくる。
    それでも口をきけずにいると
    軽くため息を吐かれた。

    「こんな時間に僕に無言電話をかけてくるような
     人間の心当たりは、関口君しかいないんだがね」

    酷い言われようである。
    「…君の所に無言電話をかけた覚えはないよ」
    「だったらさっさと返事をしたまえ、
     また何かあったのかい」

    言葉に詰まってしまう、
    声が聴きたかったなどとは死んでもいえない。

    「夢が…」
    「夢?」
    「血腥い夢をみるんだ」

    先ほどまでみていた夢を訥々と語る。
    京極堂は黙って聞いていた。
    やがて、今度は盛大にため息を吐くと
    「君は本当に困った奴だ」
    と呆れたように言った。

    「困ってるのはこっちだよ、夢のせいで
     …調子が悪いんだ」
    「君があちらに拠っているからさ、全く
     一寸前まで久保と匣の夢をみるのだといって
     いつまでもふらふらとしているから仕方なく
     終いを請け負ってやったのに、一晩も経たぬ
     うちに今度は別件で誘われていくだなんて、
     どれだけ君は忙しないんだ」
    うんざりしたように言われたが、身に覚えがない。

    「待ってくれ、久保と匣の夢なんかみてないぞ」
    「ああ、それは君の中で消化されたのだったね
     それならいいんだ、とりあえず今はその井戸の夢か」
    消化?どういうことなのだろう、頭がまるで働かない。

    「明日東京に帰ったら、それぞれから話を聞こうと
     思っててね。君の話は大体敦子から聞いているから
     呼ばなくてもいいかと思ったのだが、その様子なら
     一緒に聞いたほうがいいだろう。君に似て夢に悩む
     青年も来るらしいからね」
     知らない人がくるのだろうか、漠然と不安になった。

    「真相の全てはわからなくとも、それで概要はわかるだろう。
     だからね、もう君が、そんな夢を見る必要はない」

    耳の奥に京極堂の声が染みわたる。
    もう、この夢を、みる必要はない。

    「も、もういい、のか」
    もう首を抱えて逃げ回らなくていいのか。
    「もういいよ、君から僕が、確り聞いたからね」

    「もっと早く、電話してきたまえよ」

    眉根をよせて、苦笑いをしているさまが浮かぶ。
    胸に安堵がじんわりと広がっていく。

    「明日、寝過ごすなよ?」
    「わ、わかってるよ」
    「僕も早いから寝ることにするよ、
     もう大丈夫そうだね」
    「あ、うん、夜分すまなかった。
     あと、それから」
    「まだ何かあるのかね」

    「その…ありがとう」
    「…ああ」
    「おやすみ、また明日」
    「…おやすみ、関口君」



    次の日、久しぶりにぐっすり眠れた気がする。
    今日は眩暈坂を登って、京極堂に行かねばならぬ。
    顔を洗い、伸び散らかした髭をあたっていると
    雪絵が横から新しい手拭いをだしてくれた。

    「タツさん、今日は随分顔色がよくなりましたね」
    妻の顔からはほっとした表情が浮かんでいた。

    「最近そんなに酷かったかい」
    「それはもう!酷い悪夢をみるって…辛そうでしたよ」
    「そうか…」
    「一体どんな悪夢だったんですか?」

    問われて応えようとして、はたと気づく。
    「えっと…あれ、どんな夢だったかな」
    「まあ、忘れてしまったのですか…?」

    夜中に京極堂に夢の話をした記憶はあるのに、
    自分が話した夢の内容がちっとも思い出せない。

    「う、うん、そうみたいだ」
    雪絵は不可解そうに首をかしげたが
    「悪い夢は早く忘れてしまったほうがいいですものね
     良かったですわ」
    と軽く背中を叩き、綺麗な靴下と襯衣もお出しますねと
    出ていった。一人になっても夢は思い出せず仕舞いだった。



    冬空の眩暈坂を登る。


    一体京極堂は、骨と首と死霊の事件を
    どうやって解決するつもりなのだろうか。

    久しぶりに体を動かしているので息が上がる、
    胸がゼイゼイと上下する、何やら嫌な予感がして


    何故だか、坂の途中で後ろを振り返った。
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