名探偵はお見通し追っていた文字が、滲み出した。隣の頁の図解はぼやけて人の形が辛うじて認識できるくらい。
やり過ぎたか。
眉間に手を当て、目を閉じるとズシンと目蓋に漬物石でも置かれたようだった。目薬をお気に入りの巾着から取り出す。その一滴は突き刺すように沁みた。
集中力がすっかり飛んでいった。背もたれに体重を預ける。
次に助けを求めてきたのは脳だ。圧倒的に糖分が足りない。少し考え、分厚い医学書を閉じて立ち上がった。
「おや、乱歩さん。珍しいねェ」
探偵社の扉を開くと其処には乱歩さんしかいなかった。買い物に行くときは絶対にいない乱歩さんがいる。なンだい、お見通しか。まあ、医務室に籠もっていたから当たり前か。
「難解事件が起きてなきゃ僕は自由だからね」
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