好き与謝野side
数日前の依頼の時に使った車いす。それを片付けているときだった。
ふと思い出したのはあの日のこと、社長と乱歩さんが妾を森医師から離してくれた時のことだった。
『君の優しさが欲しいんだ』
その言葉にどれほど救われたか。数えきれないくらいだ。でも、そのことを彼がしっかり覚えているかはわからない。妾にとって車いすは、乱歩さんとの出会いが詰まっていると言っても過言ではないが、彼にとったらそんなこと、覚えていないかもしれない。
「はぁ、」
「与謝野さーん!ため息なんてついて、どうしたの?」
今日も今日とて手に棒付きキャンディーを持った乱歩さんが声をかけてくる。
「ん?あぁ、何でもないよ。乱歩さんこそどうしたんだい?もしかして怪我でもしたとか…」
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