『もう〆切に間に合わないからなんとか時間作ってアシに来て欲しい、無理言って本当にスマン、これを聴いたら折り返してくれ頼むミッキーがいないとダメだお願い』と神センセが泣きながら助けを求めてくる留守電を聴いた後、折り返して時間調整して行く旨伝えてから魔が刺して留守電保存するミ。
いやいや何やってんだ俺。内容ならさっき聴いたしもう用は済んでるんだから保存しておく必要なんてないだろ、と冷静になるけどなぜだかどうしても録音を消せないミ。
弟の仕事が軌道に乗り出してもう仕送りは必要ないと主張され始めた頃、神センセに連絡を取ろうとしてふと留守電の録音の存在を思い出して再生するミ。
必死にミッキーが必要だ助けてくれと訴えてくる神センセの声で心臓が高鳴るのを感じ、何度も何度も再生しては、自分を強く求める神センセを思って薄く笑みを浮かべる。
それから留守電にアシの応援要請が入るたびに録音しては繰り返し聞くことが習慣づく。
神センセからの不在着信が来ていないか、仕事の合間にスマホを確認するのを心待ちにするようになった。
ある時、ミの仕事の入ってないタイミングで神センセからの電話が鳴る。夜も遅いこんな時間に電話で連絡をよこすなんて、おそらくは原稿の進捗に焦り始めたからアシに来て欲しい、だ。
今は別に何もしてないし、電話に出るため画面を操作しようとしてふと考える。
今俺がこの着信に出なければ、シンジはまた留守電を残して俺からの連絡を待つだろう。なら、今すぐに取らずにいれば、また新たにシンジの音声が手に入る。シンジには悪いが、仕事があって出れなかったと少ししてからかけ直せばいい。
そう考えて電話を取らずに留守電につながるのを待つミ。
『ミッキー、寝てるか仕事中...だよね。あのさ、原稿とかじゃないんだけど、なんとなくかけちゃった。全然急ぎとかじゃないし、掛け直す必要もないから。
...あははっ。どうしたんだろうね俺。急にこんなよくわかんない連絡しちゃってスマン』
じゃあそろそろ切るね、と神センセがいい終わらないうちに通話を押すミ。
「もしもし、どうした?」
『あ、あれ?ミッキー? スマン、取り込み中じゃなかった?』
「......お前、薬飲んでるか?」
『薬? ...ああ血液錠剤なら、買いに行く時間なくてここ数日飲んでないや』
「今から買って行って届けてやる」
『いや、こんな時間にそんなことしなくても』
「いいからおとなしく待ってろ。で、飲んで寝ろ。原稿やばいならいくらでも手伝ってやるから。わかったな」
『...ハイ』
「......俺も、本当に悪かった」
『...え? どうかした?』
「......とにかく行くから、何か他に要るものあるか?」
『...大丈夫。ミッキーが来てくれるならそれだけで嬉しい』
「...わかった。待ってろ」
通話を切って急いで薬局に寄ってセンセに会いに行くミ。
薬を飲んで眠る神センセの寝顔を見て、スマホに保存してあった留守電の録音を全て削除して原稿作業へと向かう。
この一件以降、ミは神センセからの留守電を録音することは一切やっていない。