兄弟旅行「おはよう兄ちゃん、準備はできてる?」
「...おはよう。俺はいつでも行ける」
「そっか。そしたら車乗って」
「なあ、本当にずっとお前の運転でいいのか?疲れるだろうし途中で交代すれば...」
「僕は運転慣れてるから、兄ちゃんは助手席でのんびりしてて。途中で道案内頼むかもしれないから、その時はお願い」
「...! わかった、まかせろ!」
「(まあ、行くところのルートは頭に入ってるから迷うことないんだけどね...)」
「サービスエリア寄ろうか。トイレ行ってくる」
「...俺も」
「それにしても結構賑わってるね。中の飲食店とかお土産屋さんも充実してる」
「夕飯までまだ時間あるし、何か食うか? 焼きたてのメロンパンが人気らしいが、腹減ってるならラーメンとか、軽めにしたかったらソフトクリームとかいろいろ」
「...ああそうだった忘れてた。兄ちゃん、財布出して」
「ん? ああ」
「ハイ没収。明日の解散まで兄ちゃんはお金使えません。言ってたでしょ?基本僕が払うからね」
「え、あ、いやでも...」
「あとスマホも...いや、仕事の連絡とかもあるか。とにかく電子マネーとかでこっそり買ったりするのも駄目だから」
「うぅ......」
「食べたいものとか買いたいものあったら教えて。じゃあお店見に行こう」
「...これ、すごく美味そうだな。家の土産にしたらヒカリさんとコダマも喜ぶだろう。俺が買」
「僕の家のは自分で買うから大丈夫。兄ちゃんはご近所さんとか友達とか自分に買う分選びなよ」
「...一つくらい駄目か?」
「駄目です」
「...わかった」
「...け、景色綺麗だな。写真撮ってやろうか?ほら、そこに立って」
「せっかく二人で来たなら二人で撮ろうよ、セルカ棒あるし」
「...!わ、わかった」
「もうちょっとこっちに寄って。見切れちゃうよ」
「あ、ああ」
「いや動きロボットかって。...笑って、兄ちゃん」
「客室露天風呂...!?こんな部屋予約してたなんて聞いてないぞ、高かったんじゃ」
「大浴場もいいけど、今回は兄弟水入らずで入ろうってこと。お金の話なんてしなくていいから。返事は?」
「...ハイ」
「...旅館の部屋ってくつろぐ場所だよ?座ってゆっくりしよう。お茶は僕が淹れるからね」
「...飯美味いな」
「うん。なんだかばあちゃんの料理思い出すな。今考えるとよく凝ったもの作ってくれてたよね」
「...端によけてあるけど、いまだに椎茸苦手なのか? 食わないなら俺が食う」
「めざといなぁ」
「残してると怒られるからって俺の皿にのせたりしたよな、子供の頃のお前」
「結局見つかるんだけど、俺のだって言い張ってくれたよね兄ちゃん。...どう見てもバレバレだったのにさ」
「ほ、本当に入るのか、ここに、二人で」
「そうだよ、ほら服脱ぎなって」
「...見られると脱ぎづらいんだが」
「わかったよ、じゃあ僕先に入ってるから」
「なんでそんなタオルの巻き方で来るんだよ」
「そ、その...」
「...傷増えたりしてても怒ったりしないって」
「......痛かったでしょこれは」
「見た目だけだ。大した怪我じゃなかったし、痛くなんてなかった」
「本当にそうならこんな跡の残り方しないだろ。...本当に無茶させてきたんだな、僕は」
「お前は何も気にする必要なんてない。俺がもっと強かったら怪我なんて負わなかったし、お前にそんな気を遣わせることも...」
「ねぇ、兄ちゃん」
「なんだ?」
「兄ちゃんの身体も、僕の大切な兄ちゃんの一部なんだ。だから、どうか優しくしてあげて。これは僕の大切な、叶えて欲しい望みなんだ」
「......わかった。他に俺に望むことはあるか?」
「...今日一日で充分叶えてもらったよ」
「俺は特に何もしてないだろう...。何だったんだ?」
「...僕は、いつからかずっとこんな時間が欲しかった。お互いの日常からちょっと抜け出して、僕と兄ちゃんの二人だけで過ごすような、こんな時間を」
「仕事とかお金のこと気にしないで、綺麗な景色見て美味しいもの食べて、二人で穏やかに話をしたいと思ってた。だから、今すごく幸せだよ。僕の望みを叶えてくれてありがとう、兄ちゃん」
「...俺は、お前が全額出す旅行の誘いに断腸の思いで乗っただけだが」
「今までだったら絶っっっ対実現しなかっただろうから随分進歩したってこれでも。また計画して年一とかでやろうよ。次はどこにする?」
「次回があるなら頼むから俺にも金出させてくれ」
「...ははっ」
「なんだ急に」
「兄ちゃん、浴衣よく似合うなって。この歳になってもまだ新しい発見ってあるもんだね。あんなに長いこと一緒に過ごして来たのに」
「俺からしたらお前が強い酒飲めることがかなり衝撃的な発見だ。いつのまに焼酎なんて飲むようになって...」
「美味しいよ?ちょっとだけ飲んでみなって」
「缶ビール一缶で充分酔うくらい弱いんだぞ俺は」
「ほんとにちょっと、一口だけ」
「溶けたアイスかよ」
「......んん、テーブルひんやりして気持ちいい...」
「布団行こう布団。...ああ、体格の違いを感じさせられるな、こういう場面だとっ、重い...」
「小さい頃は立ち止まってもらわないと後ろについていくことすら難しかったのにな...。酔い潰れた兄ちゃんに肩貸す日が来るなんて思わなかったよ」
「...」
「これは僕が悪いな。大丈夫? 水よく飲んでいっぱい出してアルコール抜こうか、ほら」
「...んっ」
「はい、よく出来ました」
「...」
「目がすわってるな...僕が誰かわかる?」
「...のぞみ、だろ?すごくだいじな、おれのおとうと」
「...そうだよ、僕の大事な力ナエ兄ちゃん」
「ははっ、あってた」
「...そんなに幸せそうに笑うことかよ」
「......とい、れ」
「オッケー...。 よい、しょっ! 僕も筋トレとか、してみよっ、かな! 最近コダマのことっ、持ち上げるのも大変になって、きてるしっ!」
「...ん、おはよにいちゃ、うわ何?!」
「...悪い。昨日焼酎飲んでからの記憶がないんだが、俺お前に何か迷惑かけなかったか?」
「机の上に頭のっけて溶けてたから布団に運んだりしたくらいだって。頼むから土下座やめて」
「重かっただろ...。本当にすまん」
「それくらいで謝らないで。弱いの知った上で軽い気持ちでお酒勧めたの僕の方だし。こっちこそごめん」
「いや、俺が弱いのが悪い」
「ああもう!お互い悪いからこの話終わり!朝飯行こう」
「あ、ああ...。なあ、宿出たら帰りに寄りたいところあるんだがいいか?」
「...神社か。そういえば来る前に周辺調べたときにあったな」
「...あの、金使いたいんだがいいか?」
「何か買おうとしてる?お参りしたかったとか?」
「できたらと思ってたが、並んでて時間かかりそうだしそれはいい。...お前がよければ、互いに御守り買って交換するのはどうだ?」
「僕が兄ちゃんのを買って、兄ちゃんが僕のをってこと?」
「...どうだ? お前に渡す分は、ちゃんと俺が金払いたい」
「...わかった。財布は返すね。じゃあ兄ちゃんにあげるやつ買ってくる」
「決めるの早いな...。俺も買うか」
「はいこれ、兄ちゃんのやつ」
「...無病息災、な」
「説明はもう要らないね?昨日も話したから」
「ああ。...これはお前の分だ」
「家内安全?」
「健康祈願と迷ったが、お前もそうだしヒカリさんにもコダマにも、お前の家族には平穏に過ごしてほしいからな」
「...僕の家族には、ばあちゃんも兄ちゃんも含まれてるよ」
「...えっ?」
「当たり前でしょ? 確かに僕に家庭は出来たけど、これまでもこれからも、兄ちゃんとは家族だから。勝手に外れてるような認識されちゃ寂しいよ」
「...そう、だな」
「ははっ!兄ちゃん、御守り二個分のご利益あるかもね」
「......ああ」
「常に持ち歩くのは難しいかもしれないけど、大事にしてね」
「当たり前だ。これは、俺に対するお前の望みだから」
「うん。...だから、ちゃんと叶えてね。兄ちゃん」
おまけ
「お土産です。召し上がってください」
「おお、温泉饅頭。美味しそうですね」
「部屋の茶請けにあったやつなんですが、美味かったのでぜひお二人にもと思って。半分ずつどうぞ」
「十二個アルナラ、三木サンモ食ベマショウ。三人デ、ソレゾレ四ツ」
「え? ああいや俺の分はなくても...」
「三木さんも美味しいと思ったんでしょう?せっかくこんなにあるなら、また僕たちと食べましょう」
「遠慮ハイリマセン」
「......はい、ありがとう、ございます」
「お疲れミッキー。ノゾミ君とはゆっくりできた?」
「...ああ、行ってよかった」
「それは何より」
「これ、土産な」
「わあ、瓶入りプリン! と、あと...温泉の入浴剤?」
「ゆっくり湯船なんて浸かる時間ないかもしれないが」
「嬉しいよ。なかなか遠出難しいからさ、俺。ありがとね」
「......で、俺のやる分の原稿は?」
「あと一時間ほどお待ちいただければ幸いです」
「...さっきのプリン食うぞ」
「アア! それはいやだ! 勘弁して!!」