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    aiiro_94

    @aiiro_94

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    aiiro_94

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    いい「兄さん」の日ってことで三木兄弟話。カプ要素はなし。
    明るい話ではないです。

    夢の足跡「これ、思い出に取っておかなくていいのか?」

     カナエとノゾミの祖母が施設に入所することが決まり、住んでいた団地を引き払うため、二人で部屋のものを整理していたときだった。
     かつて兄弟で使用していた部屋の真ん中に置かれた、大きな二つの段ボール箱のうち、カナエは『捨てるもの』と外側に書かれた方の中から、何冊かのスケッチブックを見つけて取り出した。
     絵を描くのが好きなノゾミのために、新聞配達のバイト代で得た金で過去にカナエが与えたものだ。
     スーパーのチラシの裏面とは違い、すっと線が引ける描き心地の良さに、ノゾミが喜んで鉛筆を動かしていたのをカナエはよく覚えていた。

    「それは・・・・・・いいんだ。だからそっちに入れた」

     押入れのものを取り出すべく背を向けていたノゾミは、カナエの言う『これ』を確認するため振り返り、兄の手元を確認して再度押入れに向き直った。

    「そうか・・・。勿体無いな」
    「今更見返したりしないし、家に持って帰ったってしょうがないから」
    「・・・わかった」

     ノゾミが見ていないことを確認して、カナエは数冊あるうちの一冊をこっそりとめくる。
     最初の方に書かれているのは、通っていた中学校の内部を表した地図。そこから図書館で資料を借りてきたのか、中世の城や潜水艦の断面図と、描く題材の難易度がページを追うごとに上がっている。
     どれも余白がないほどに建築物や乗り物の内部が書き込まれているのを確認した後、音を立てずに閉じた。

     これはノゾミが、夢を叶えるために積み重ねた努力の足跡だ。やっぱり捨ててしまうのは惜しい。
     カナエは反射的に、既に仕分けを終えて隅に置いていた『要るもの』と書かれた複数個の段ボールのうち、まだものが入る余裕が残っている一箱に、持っていたスケッチブックを静かに全て入れた。


    ───



    「なんでこれ、こんなところに・・・。あのとき処分したと思ってたのに」

     カナエの部屋へ遺品整理に来たノゾミは、クローゼットの棚から過去に捨てたはずのスケッチブックを見つけた。それも一冊ではなく、複数冊。
     ワンルームの限られた収納スペースすらも持て余すほどに物を持たないカナエの私物の中で、友人の連載作という漫画の単行本と並べられていたそれらは、一切の埃も被らず綺麗な状態で置かれていた。
     記憶にある限り、自分が兄に買ってもらったスケッチブックに描いた絵の全てが、預かり知らぬところで保管されていたことになる。
     わざわざ取っておいて見返すほどの価値も執着もなかったから捨てたはずが、今となっては兄の遺したものの一部となってしまった。
     ノゾミはその事実に、どこか妙な笑いが込み上げてきた。全て棚から取り出して床に置き、一番上の一冊をめくる。
     この絵は覚えがある、ある、・・・こんなもの描いたっけ? これは自分でもなかなか気に入っていたジェット機だ。・・・これは確か難しすぎて途中で投げそうになったけど、諦めずに仕上げてすごくうまいと褒められた城だ。

     きっと当時の俺はいろんな思いを込めて描いたんだろう。全ては思い出せはしないけど、どれもひどく懐かしい。
     思い出に浸りながら次々と手に取ったスケッチブックは、いつしか最後の一冊になっていた。ノゾミはその中の、ある建築物を描いたページに差し掛かった時、思わず息を呑んだ。

     既存のものではない、自分で設計して描いた一階から十階までが滑り台で繋がっている大きな家の絵。
     これだけ広かったらどんな部屋にだって出来るし、何でも好きなものを置ける。我ながら会心の出来だと興奮しながら、この絵を見せて聞いたんだ。それで、あまりに見当違いの答えが返ってきたから、その時俺は。

     最上階の部屋に、『僕たちの部屋』と書かれた自分の字を見つけた。何度もなぞったのか、その文字列だけ不自然に濃く書かれている。強く消しゴムをかけて紙がよれるのが嫌だったから、絵や字は全て薄く描くようにしていたのに。

     あのとき俺は、確かこの六文字を絶対に消したくないと思ったんだ。悔しくて、やるせなくて、何度も何度も。決して勝手に消えてしまわないように。

    「・・・・・・会いたいよ、兄さん」

     涙を流しながら小さく呟いたノゾミの声は、伽藍堂の八畳間に虚しく反響した。
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