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    炉妻さとり

    @AM_10932

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    炉妻さとり

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    ロスナイ後、手錠が羨ましかったオスカーの話。

    #オスブラ
    zebra

    手錠「ブラッドさま、お願いがあるんです」
     シャワーを浴び、後は眠るだけという時間にオスカーが切り出してきた。俺のベッドに肩を触れ合わせながら座り、いつものように今日の報告を受けていた時間だった。仕事の話ではないのは明らかだ。
     何も言わない俺をオスカーが待っている。もじもじと、それでも決意を秘めた瞳が俺を離さない。これは――期待してもいいのだろうか? 
    「言ってみろ」
    「これを付けていただけませんか?」
     差し出されたのは手錠だった。俺とキースを繋いでいたあの厄介な手錠ではない。プラスチックにメッキをしたような――いわゆるプレイ用の手錠だ。
    「オスカーは俺にこれを付けてほしいのか?」
     鸚鵡返しに言葉を返すと、オスカーの顔がぱぁっと輝いた。コクコクと何度も頷きが返ってきた。
    「構わない」
     できるだけ無関心を装い、さもオスカーが望んだから仕方なく付き合っている風に取り繕った。頭の中はこの先の艶めいた想像でいっぱいだった。手錠で自由を封じられ、一体何をされてしまうのだろうか。
    「ありがとうございます!」
     淑女にするように左手を取られる。まるでこれからプロポーズを受けるようだ。
     左手首にカシャ、と軽い手錠が掛けられた。オスカーの口から恍惚としたため息が漏れる。
    「そんなに楽しいものか?」
    「はい!」
     オスカーに加虐趣味があったとは。意外な一面だ。
     右手を差し出したが、その手が取られることはなかった。手錠のもう片方の輪はオスカーの右手にかけられた。
    「俺には少しきついようです。ブラッドさまは大丈夫ですか?」
    「あ、あぁ……」
     オスカーが自分の手首をさするのに合わせ、自分の手首が揺れる。理解が追いつかない。呆然とそれを見ているしかできなかった。
    「ベッドに入ってから繋げばよかったですね。申し訳ありません」
    「いや……」
     触れ合う距離の左手を握られ、そのままベッドへ誘導される。まさかこの状態で? 正しい手錠プレイについて教えるべきなのか?
     動きが制限される分、やや強引にベッドに押し込まれ、布団を掛けられた。
    「おやすみなさい、ブラッドさま」
     いつもより浮かれている声と、おやすみのキスが額に落とされた。本当に何もしないつもりなのかと詰め寄りたい気持ちと、オスカーが楽しそうだからいいかという気持ちがせめぎ合い、後者が勝った。
    「おやすみ、オスカー。いい夢を」
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    まぶたの隙間 橙色にきらめく髪が視界に入ると、ひっそりとゆっくりとひとつ瞬きをすることにしている。
    そうしている間に九割以上向こうから「ベスティ~!」と高らかに響く声が聞こえるので、安心してひとつ息を吐き出して、そこでようやっと穏やかな呼吸を始められるのだ。
    それはずっと前から、新しくなった床のビニル独特の匂いを嗅いだり、体育館のメープルで出来た床に敷き詰められた熱情の足跡に自分の足を重ねてみたり、夕暮れ過ぎに街頭の下で戯れる虫を一瞥したり、目の前で行われる細やかな指先から紡がれる物語を読んだり、どんな時でもやってきた。
    それまでの踏みしめる音が音程を変えて高く鋭く届いてくるのは心地よかった。
    一見気性の合わなさそうな俺たちを見て 、どうして一緒にいるの?と何度か女の子に聞かれたことがある。そういう時は「あいつは面白い奴だよ」と口にして正しく口角を上げれば簡単に納得してくれた。笑みの形を忘れないようにしながら、濁った感情で抱いた泡が弾けないようにと願い、ゴーグルの下の透明感を持ったコバルトブルーを思い出しては恨むのだ。俺の内心なんていつもビリーは構わず、テンプレートで構成された寸分違わぬ笑みを浮かべて大袈裟に両手を広げながら、その後に何の迷いもなく言葉を吐く。
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