手錠「ブラッドさま、お願いがあるんです」
シャワーを浴び、後は眠るだけという時間にオスカーが切り出してきた。俺のベッドに肩を触れ合わせながら座り、いつものように今日の報告を受けていた時間だった。仕事の話ではないのは明らかだ。
何も言わない俺をオスカーが待っている。もじもじと、それでも決意を秘めた瞳が俺を離さない。これは――期待してもいいのだろうか?
「言ってみろ」
「これを付けていただけませんか?」
差し出されたのは手錠だった。俺とキースを繋いでいたあの厄介な手錠ではない。プラスチックにメッキをしたような――いわゆるプレイ用の手錠だ。
「オスカーは俺にこれを付けてほしいのか?」
鸚鵡返しに言葉を返すと、オスカーの顔がぱぁっと輝いた。コクコクと何度も頷きが返ってきた。
「構わない」
できるだけ無関心を装い、さもオスカーが望んだから仕方なく付き合っている風に取り繕った。頭の中はこの先の艶めいた想像でいっぱいだった。手錠で自由を封じられ、一体何をされてしまうのだろうか。
「ありがとうございます!」
淑女にするように左手を取られる。まるでこれからプロポーズを受けるようだ。
左手首にカシャ、と軽い手錠が掛けられた。オスカーの口から恍惚としたため息が漏れる。
「そんなに楽しいものか?」
「はい!」
オスカーに加虐趣味があったとは。意外な一面だ。
右手を差し出したが、その手が取られることはなかった。手錠のもう片方の輪はオスカーの右手にかけられた。
「俺には少しきついようです。ブラッドさまは大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……」
オスカーが自分の手首をさするのに合わせ、自分の手首が揺れる。理解が追いつかない。呆然とそれを見ているしかできなかった。
「ベッドに入ってから繋げばよかったですね。申し訳ありません」
「いや……」
触れ合う距離の左手を握られ、そのままベッドへ誘導される。まさかこの状態で? 正しい手錠プレイについて教えるべきなのか?
動きが制限される分、やや強引にベッドに押し込まれ、布団を掛けられた。
「おやすみなさい、ブラッドさま」
いつもより浮かれている声と、おやすみのキスが額に落とされた。本当に何もしないつもりなのかと詰め寄りたい気持ちと、オスカーが楽しそうだからいいかという気持ちがせめぎ合い、後者が勝った。
「おやすみ、オスカー。いい夢を」