ブラッドさまは石鹸の匂い?お題「香水(香り)」
「オスカー、待たせたな。次はお前の番だ」
先にシャワーを浴びてきたブラッドがオスカーを呼ぶ。まだ濡れ髪のブラッドからは風呂上がり特有のふわふわした暖かい香りがした。
ブラッドは石鹸の匂いがする、という誰かの言葉をオスカーは思い出した。清廉なイメージのある彼には相応しいように思える。だが本当にそうならサウスセクター研修チーム全員が同じ匂いをしているはずだ。
「オスカー?」
ぼんやり考えごとをしているとブラッドに呼び戻された。手の届く距離に近づいてきた彼からする匂いはそれこそ石鹸の匂い、シャンプーの匂いなのだろう。だが風呂上がりでなくとも、いつもブラッドからはいい匂いがする気がする。
「ブラッドさまはいい匂いがします」
唐突なオスカーの言葉に、慣れたようにブラッドが返す。
「どんな匂いだ?」
「どんな……?」
いい匂い、と言っても香水のようなはっきりした言葉で表せるようなものではない。石鹸の匂い? いや、それよりもっと甘く暖かいような。優しい匂い、では抽象的すぎるだろうか。
「確かめてみてもよろしいですか?」
「……好きにしろ」
首筋に顔を埋め、すんと鼻を鳴らす。風呂上がり特有の湯気の立つような匂いに混じっていつものブラッドの匂いがした。
何の匂いだろう? 一言で言い表せるものではない。
犬のようにすんすんと鼻を鳴らすオスカーに、ブラッドは身体を捩らせる。
「オスカー、もういい」
もう少しで何か掴めそうな気がする。そうだ、口に入れてみれば分かるかもしれない。
ブラッドの首筋に舌が伸ばされる。確認するとき何でも口に含んでしまうのはオスカーの悪い癖だ。
「オスカー!」
「すっ、すみません! あっ、せっかく風呂に入ったのに汚して――」
「オスカー、もういい。少し驚いただけだ」
急に舐められた首筋を抑えながら、ブラッドが続ける。
「舐めてみて分かったか?」
少し意地悪な問いかけに、恐る恐るというようにオスカーが答えた。
「安心する匂いです」
「安心……」
嗅いでみて、そして舐めてみても答えは出なかった。オスカーの拙い答えに、ブラッドが笑みを浮かべる。
「それはお前の方だろう?」
仕返しのようにブラッドがオスカーの胸元に顔を寄せ、息を吸い込む。
「ブ、ブラッドさまっ」
「俺は舐めないから安心しろ」