パーティはおしまいお題「パーティ」
どうしてこんなことになってしまったんだろう、とタキシードに身を包んだオスカーは思った。
サブスタンスの違法取引が行われるという噂のパーティに、ブラッドと共に客として潜入してほしい。特別任務の話が来たとき、特に何も考えずに承諾した。貴人のブラッドとその従僕という役割だろうと勝手に解釈していた。
それがどうだ。オスカーの右腕には、東洋風の美女と化したブラッドが腕を回していた。サブスタンス事業を立ち上げようと出資者を募りに来た青年と、その恋人の東洋系女性。それがオスカーとブラッドの設定だ。
流石にブラッドを女性として送り出すのには無理があるのではないか、とブラッド本人も危惧していたが、エリオス衣装部が全面協力の姿勢を見せた。
喉仏を隠すため首元まで詰まった中華風の襟と、錯覚を利用して華奢に見せるために肩だけ露出されたタイトドレス。黒にも見える深い紫色の布地は同じ色の糸で刺繍が施されており、この任務のためだけに用意されたとは思えないほどの力の入れ方だ。アップスタイルに結い上げられた黒髪のウィッグはブラッドの首筋の白さを際立たせていた。
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できるだけ多くの人と交流し、小型検出機でサブスタンス反応を探ること。そして別部隊のアキラ達がサブスタンスの現物を見つけ次第、犯人の身柄を確保すること。それがオスカー達の任務だ。
オスカーがわざわざ話し掛けに行かずとも、ブラッドを目当てに声を掛けてくるものは多くいた。言葉が分からない、とでも言うように小首をかしげて対応するブラッド。
あとは主催者だけだ、と会場を見渡していると、インカムからアキラの声が割り込んできた。
『ごめん、ブラッド! 見つかっちまった!』
追われているらしく、雑音が大きい。声の出せないブラッドの代わりにオスカーが口を開きかけると、どこか遠くで発砲音が聞こえた。数秒遅れてインカムから同じ音が聞こえる。
『証拠! あったから――』
続いて数発の銃声の輪唱が聞こえ、インカムは沈黙した。声もなくオスカーとブラッドは顔を見合わせた。
テロだ、強盗だと憶測が憶測を呼び、人々が出入り口に殺到する。その人の流れとは逆に、主催者の男が裏口へ逃げ出すのが見えた。
「パーティは終わりだ、追うぞ」
ブラッドが屈んだかと思うと、躊躇なくタイトドレスのスリットに手をかけた。ビッ、と黒紫のドレスが悲鳴をあげる。歩くたびに見え隠れし、人々の目を釘付けにしていた白い脚が全て曝け出された。
躊躇なく蹴り脱がれたヒールが足元を転がるのを見て、オスカーは我に帰った。