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    bare_nyan

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    bare_nyan

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    DLC2のネタバレを含みます/ロゴスヴくん/時系列はクリア後/後半はバルクラ

    御伽噺のその後で魔法が御伽噺となったのは、今から五十年ほど前のことだ。それまでは火や飲み水、洗濯物を乾かすことにすら魔法を使っていたという。生活の基盤が一気に失われたのだから、当然世界はそれなりに混乱したらしい。らしいというのは、この水の民の里では元から生活における魔法の依存度が少なかったことと、外界から隔絶された環境に置かれていたためだった。
    幻影魔法、ミラージュ。魔法が失われた日に当然消え去るはずだったが、どうしたことかそれは残り続けた。おかげで今日まで暮らして来れたが、外の世界も徐々に落ち着いてきたという。里を開き、少しずつ外と交流してもいいのではと言う意見も増えてきたが、何故ミラージュが未だ機能しているか分からない以上どうしようもない。記録によると魔法が失われた日に里の子供にお告げがあったらしいが、それも「必要ないと思う日が来たら合図をしてくれ」という曖昧極まりないもので里の皆で頭を抱える羽目になった。結局、祭を催して今まで守って下さってありがとうございますと名も正体も分からぬ存在に祈りを捧げたのだった。
    その黒髪の男が里を訪れたのは、その翌日のことであった。

    「この地に残る幻影を祓いに来た」
    群青を基調とした装束に身を包んだ男は眼光鋭く、睨まれただけで寿命が縮みそうだと思ってしまう。声は思わずひれ伏してしまいそうになるほど威厳に満ちていて、只者ではないと誰もが感じ取っていた。
    長は、と問われ気は進まないが前に出る。
    「……ほう、お前がリヴァイアサンか。最古にして最後のドミナント」
    「なぜ、その名を」
    私はかつて召喚獣リヴァイアサンのドミナントだったのだと……育ての親がよく話してくれた。その力を引き受けてくれた人がいるとも。もっとも私がまだ赤ん坊の頃の話なので、記憶は全くないのだが。
    「我が神はお前に特別目を掛けておいでだった。赤子だからといって過保護が過ぎると申し上げたのだが、あれも誰かと同じくきかん坊でな」
    口元の髭に手をやり何事か思案するように目を閉じる。ふ。と、たまらずといったように溢した吐息には微かに喜色が乗っていた。本当に微かだ。一拍置かなければそれが笑みだとは気付けないほどに。
    「まあよい。私は私の勤めを果たすとしよう。幻影を解除すれば二度と元には戻せぬが、よいのだな?」
    「ええ。皆で話し合って決めたことです」
    問いに頷くと、男は瞬きの後に跡形もなく姿を消してしまった。夢なのでは、とも思ったが、ほどなくしてミラージュも男と同じように消え失せたので現実、ということになる。どうにも実感は湧かないが。
    しかし、男の黒髪を懐かしいと思ったのは何故だろうか。里の皆は白い髪をしているから黒髪の人間は初めて見るはずなのだけれど。記憶にも残らないほど幼い時分に会ったことがあるのだろうか?思考の海に浸るうちに遠い記憶の中で黒髪の誰かが自分に笑いかけていた気がしてますます分からなくなる。けれど不思議と、嫌な気持ちはしなかった。



    *****



    かつてフリーズが放たれていた時の祭壇。今は魔法の残滓すらも消え静かなものだ。今日のミシディアは天気がいい。海も凪いでいて、ネプトの波浪壁なんて呼ばれる大波があったとは思えないほどだ。けれどあの壮大な光景はたしかに存在していて、今も脳裏に鮮やかに焼き付いている。その光景を見た大事な人たちと共に。
    「ありがとうバルナバス。これで彼らは一歩を踏み出せることだろう」
    背後に感じた気配に声を掛けると、露骨に溜息を吐かれた。一国の王であった彼にとっては雑用に感じられたのかもしれない。
    「拗ねるなよ。お前が一番向いてたんだ」
    「……我が神よ」
    この身に宿る力から生み出した彼は、己が一部にも関わらず何を考えているのか分からない。見下した言動を取ることもあれば、今のように崇拝を向けることもある。やりづらいことこの上ない。他の力は具現化してもかつてのドミナントの形をとることなどないというのに、彼は「バルナバス・ザルム」として現れた。記憶も、自我も有した状態で。
    恐らくは、未練なのだろう。あの日、雨の中力を明け渡して消えた彼がどうにも勝ち逃げのようで、悔しくて。だから今の世界を見てほしかったのかもしれない。お前のやり方とは違う。これが俺たちの選んだ世界だと……言ってやりたかったからなのかもしれない。

    「御身は、これからどちらへ」
    「ついでだから北部を見て回ろうかと思ってる」
    「足を使わずとも、御身であれば大地の状態を把握するのは容易いでしょうに」
    バルナバスの姿をしたものに敬語を使われるのは、未だに慣れない。俺にとって彼は尊大な「王」であったから。けれど今ここにいるのは、彼であって彼ではない。だから俺は努めて、友にするように語りかけるのだ。
    「お前に見せたいんだよ」
    「……それが、我が神の御意思ならば」
    行こう、と差し出した手を、彼は取ることもしないが払いもしない。目を伏して綺麗に礼をするだけだ。それが嫌味なのか、彼の信仰によるものかは相変わらず分からないままだが、一方的に掴まれるよりはずっといい。
    「ああ、いい天気だ」
    いつかこの世界が完全に俺を必要としなくなって眠りにつくときも、このような天気であればいい。そして我儘が通るなら、隣にいる彼が「いい旅だった」と満足していればいい。そう思った。
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    bare_nyan

    SPOILERDLC2のネタバレを含みます/ロゴスヴくん/時系列はクリア後/後半はバルクラ
    御伽噺のその後で魔法が御伽噺となったのは、今から五十年ほど前のことだ。それまでは火や飲み水、洗濯物を乾かすことにすら魔法を使っていたという。生活の基盤が一気に失われたのだから、当然世界はそれなりに混乱したらしい。らしいというのは、この水の民の里では元から生活における魔法の依存度が少なかったことと、外界から隔絶された環境に置かれていたためだった。
    幻影魔法、ミラージュ。魔法が失われた日に当然消え去るはずだったが、どうしたことかそれは残り続けた。おかげで今日まで暮らして来れたが、外の世界も徐々に落ち着いてきたという。里を開き、少しずつ外と交流してもいいのではと言う意見も増えてきたが、何故ミラージュが未だ機能しているか分からない以上どうしようもない。記録によると魔法が失われた日に里の子供にお告げがあったらしいが、それも「必要ないと思う日が来たら合図をしてくれ」という曖昧極まりないもので里の皆で頭を抱える羽目になった。結局、祭を催して今まで守って下さってありがとうございますと名も正体も分からぬ存在に祈りを捧げたのだった。
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