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    bare_nyan

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    bare_nyan

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    1815バルクラの何らかのパロです。正直1行目でバレバレなのですが、なんとなく隠したい気分だったので何らかのパロです。

    群青のシレーヌ小さい頃から気分が落ち込んだ時に海を見たいと思うことがよくあった。けれど最近はそれが顕著になってきている気がする。海に呼ばれる感覚、とでも言うのだろうか。特に酷い時は、気付いたら海に向かって崖から落ちそうになったこともあった。自殺願望はないはずなのだけれど。逃げたいという己の弱さの表れかもしれないな、と海を眺めながらクライヴは自嘲した。
    「また母親に何か言われたのか?クライヴ」
    「バルナバス」
    声をかけてくれた青年は、崖から落ちそうになった時に助けてくれた恩人だ。この近くに住んでいるらしく、この海岸に来ると顔を合わせることが良くあった。
    「別に……大したことじゃないよ」
    「お前のそれは当てにならないからな」
    頭をぽんぽんと撫でられ、わしゃわしゃと整えた髪を乱される。バルナバスはいつも小さな子供にするような扱いをしてくるが、不思議と嫌ではなかった。こんな風に接してくれるのなんて、他には年に一、二度会えるかどうかの叔父くらいのものだ。俺は落ちこぼれでもロズフィールド家の嫡男で、ジョシュアを支えて守ってやらねばならないのだから。甘えなんて許されるはずもない。
    「また何かろくでもない事を考えているな」
    額を指で弾かれる。
    「ここにいるときぐらい大人しく子供扱いされていればいいんだ」
    「そんなに変わらないのに何言ってるんだ」
    詳しく年を聞いたことはないが見た目は十七、八といったところで、十五のクライヴとさほど年は変わらなさそうなのにバルナバスは態度も知識も大人びていて、素直に羨ましいと思った。きっと家族にも、友人にも頼りにされているんだろう。それに比べて……、
    「クライヴが私の弟だったらいいのに」
    そうすればずっと守ってあげられる。肩を抱き寄せられながら囁かれた言葉は、こうして海辺で彼と言葉を交わすようになって少なくない回数繰り返された言葉だった。
    「バルナバスが、俺の兄さんだったら」
    夢想して見えた温かな光景に、けれど首を振る。それは家族を……弟を捨てるということ。決して許されない夢だ。
    「ありがとう。その気遣いだけで、充分だよ」
    本心だ。挫けそうな時に、バルナバスはいつも温かい言葉をくれる。贅沢すぎるほどだった。

    そんなささやかな支えすら、取り上げられる時はあっという間だった。
    「全寮制の学校に入ることになったんだ」
    だからもう、ここには来られない。
    卒業まで帰ってくるなと母に言われたのは、車でも半日かかる遠くの学校だった。得意な水泳は続けたかったけれど進学先にクラブは無いらしい。そういう学校を意図的に選んだに違いなかった。そんなに疎まれていたのかと……少し驚いただけで、悲しくはなかった。
    「今までありがとう、バルナバス。最後にこうして挨拶が出来て、良かった」
    別れの握手のつもりで手を差し出すが、彼は手を見つめたまま動かない。
    「出来れば自分から来てほしかったが。仕様がないな」
    「……バル、ナバス……?」
    頬を両の手で包まれる。どうかしたのかと声を掛けようとして、口が上手く動かない。バルナバスの瞳、冬の海のようなその色が金色に輝いている。頭がぼんやりして、目が離せない。
    「いい子だ。さあ、帰ろう」
    「うん」
    バルナバスに手を引かれ海に入る。春を前にまだ冷たいはずなのに、何故か心地良い。足が勝手に波を掻き分けて、深みへ、深みへ。膝、腰、胸……せりあがる恐怖に比例するように身体が海に呑まれていく。
    「……い、やだ、バルナバス、やめて……くれ、」
    ついに足が砂浜につかなくなった。先を行くバルナバスがざぷりと音を立てて潜り、なんとか海面に顔を出そうと藻掻くクライヴの手を下から引いた。強い力に抗う術もなく、体が完全に沈む。そこで見たバルナバスの姿に、クライヴの口からごぽりと思わず空気が漏れる。
    黒髪と同じ色の、艷やかな鱗。
    青い海にあってもなお映える、群青の美しい鰭。
    ───人魚。それがバルナバスの、正体であった。
    「お帰りクライヴ、私の弟。海と、我ら海の遣いはお前の帰還を歓迎しよう」
    水中なのにはっきりと聞こえる声。欠片も意味の分からない言葉。目の前にあるものが何もかも受け入れられず、クライヴは意識を落とした。



    *****



    海の魂は海で、陸の魂は陸で巡る。けれども稀に、その輪廻から逸れてしまうことがあってね。
    クライヴの頭を尾に乗せて髪を梳きながら、バルナバスが謳うように言葉を紡ぐ。
    「そうした魂を海に連れ帰るのが、我らセイレーン一族の勤め。陸のヒトは船を沈めるとか勝手なことを言っているらしいけど」
    「……それが、俺だっていうのか」
    「そうだよ。その尾が何よりの証拠だろう?」
    バルナバスの手がクライヴの下半身を撫でる。深海でクライヴが目覚めた時にはもうそこは、人間の足ではなくなっていた。バルナバスと揃いのような黒い鱗に、透き通る赤い鰭。
    「綺麗な色。ヒトが使うっていう火のようだ」
    青い鰭が、赤のそれに絡む。どんな睦言よりも甘く。
    「生まれ変わった体も直に魂に馴染む。そうしたら一緒に、広い海を見に行こうな」
    綺麗なものが沢山あるんだと話すバルナバスの声に、けれどクライヴの顔は悲痛に歪んだ。十五年生きてきて、それを突然全て奪われここが在るべき場所なのだと言われても。
    こんな暗いところは嫌で、家族の、ジョシュアの元に帰りたい……そう思わなければいけないのに。身体を撫でる潮の流れに、バルナバスの声に、どうしようもなく安堵を覚える自分がいて。帰りたいと、いつまで思っていられるだろうと絶望しながら目を閉じた。
    「クライヴ、私の可愛い弟。大丈夫、ずっとずっと私が手を引いてあげる」

    深い深い海の底。人魚の子守唄を聴くものは、誰もいない。




    ーーーーーーーー
    ヴくんが人間で生まれる前は人魚バの弟だったという裏設定
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    Replies from the creator

    bare_nyan

    SPOILERDLC2のネタバレを含みます/ロゴスヴくん/時系列はクリア後/後半はバルクラ
    御伽噺のその後で魔法が御伽噺となったのは、今から五十年ほど前のことだ。それまでは火や飲み水、洗濯物を乾かすことにすら魔法を使っていたという。生活の基盤が一気に失われたのだから、当然世界はそれなりに混乱したらしい。らしいというのは、この水の民の里では元から生活における魔法の依存度が少なかったことと、外界から隔絶された環境に置かれていたためだった。
    幻影魔法、ミラージュ。魔法が失われた日に当然消え去るはずだったが、どうしたことかそれは残り続けた。おかげで今日まで暮らして来れたが、外の世界も徐々に落ち着いてきたという。里を開き、少しずつ外と交流してもいいのではと言う意見も増えてきたが、何故ミラージュが未だ機能しているか分からない以上どうしようもない。記録によると魔法が失われた日に里の子供にお告げがあったらしいが、それも「必要ないと思う日が来たら合図をしてくれ」という曖昧極まりないもので里の皆で頭を抱える羽目になった。結局、祭を催して今まで守って下さってありがとうございますと名も正体も分からぬ存在に祈りを捧げたのだった。
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