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    bare_nyan

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    bare_nyan

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    毒に耐性のあるヴくんの話。バルクラなのに王不在ですまん

    Lycoris「タルヤ!兄さんを診てくれ!!」
    その王子様然とした容姿のジョシュアが声を荒げる場面など、隠れ家ではお目にかかれない。戦闘ともなればまた別なのだろうが。
    流れ星よりも珍しい事象に遭遇したタルヤは目をぱちくりと瞬かせ、次いでジョシュアの後ろで申し訳無さそうに縮こまっているクライヴを見やった。顔色は問題ない。足取りもしっかりしている。革鎧の上に血は付いているが、恐らくは返り血なのだろう。傷らしいものは見当たらない。
    「クライヴが怪我を隠すのはいつものことだから過保護になるのも分かるけれど……そんなになるほどなの?」
    「何も症状が無いのが問題なんだ!」
    ジョシュアの声が、鳥のそれのように上擦る。
    「モルボルの毒息をまともに浴びて無事なんて、そんな事ありえない!」

    何も異常は無いのだからそれでいいじゃないか、とか、他に優先すべき重症の患者に申し訳ない、とか。恐縮しているのか言い訳ばかりするクライヴを、タルヤが「黙らないと口を縫い付けるわよ」と一喝してようやっと静かになった。

    「若様、ちょうどいいところに。クライヴを見なかった?」
    慌てた様子のタルヤから声をかけられたのは、それから数日後のことだった。その間クライヴは自室で安静……ということになってはいたがどうも本人に自覚が薄い。やれ力仕事の手伝いだ、やれ石の剣の訓練だとどうにもじっとしていなかった。症状が何もないので仕方のないことかもしれないが。
    「いや、今日は僕も見てない。何か分かったのかい?」
    「……クライヴの血を調べたの。結果、あらゆる毒の耐性が異常なほど高かった」
    若干顔を青ざめさせたタルヤが手で口を覆う。
    「飛竜草の毒ですら、恐らく今のクライヴを殺せない。信じられる?あの飛竜草よ?」
    「どうしてそんな」
    毒殺に備えて普段から少量の毒を摂取して耐性をつける……ということなら、貴族や王族の間ではままある。だが全ての毒物を克服するなど無茶な話だ。
    「クライヴがアルテマとかいうのの器だということに起因してるのなら、腹は立つけどまだ分かる。問題はそうじゃなかった場合よ」
    これだけの耐性をつけるほど毒物を投与されていたなら、それはいつなのか。そして誰の手によるものなのか。
    「だからクライヴに話を聞きたかったのだけれど。オットーやジルに聞いても、見てないって言うのよ」
    「……まさか」
    最悪の予感が頭を過る。投与された毒によって壊されたのが、クライヴの体ではなく心のほうなのだとしたら。



    *****



    黒の一帯を抜けたところで、白い人影を見つけた。
    「……スレイプニル」
    「ふふ、お待ちしておりましたよ、ミュトス」
    「すまない、勘付かれてしまったようだ」
    明日の天気を話すような軽い調子。それはとても、敵対する者にする態度ではなく。
    「いえ、上手くやったほうでしょう」
    「王は?」
    その場に仲間の誰かがいたなら、その一言だけでクライヴの精神が捻じ曲げられていると気付けただろう。だが彼は隠し通した。ここまで、誰も。
    「アインヘリアルでお待ちです。再会を心待ちにしておいででしたよ」
    「そうか」
    言いながらクライヴが左耳に手を伸ばし、イヤーカフを外そうとして……そのままに指を離した。
    「心残りが?」
    「いや」
    少しも逡巡せず、クライヴはその顔にとろりと笑みを落とした。
    「どうせなら、王に手ずから外していただきたいと思って」
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    bare_nyan

    SPOILERDLC2のネタバレを含みます/ロゴスヴくん/時系列はクリア後/後半はバルクラ
    御伽噺のその後で魔法が御伽噺となったのは、今から五十年ほど前のことだ。それまでは火や飲み水、洗濯物を乾かすことにすら魔法を使っていたという。生活の基盤が一気に失われたのだから、当然世界はそれなりに混乱したらしい。らしいというのは、この水の民の里では元から生活における魔法の依存度が少なかったことと、外界から隔絶された環境に置かれていたためだった。
    幻影魔法、ミラージュ。魔法が失われた日に当然消え去るはずだったが、どうしたことかそれは残り続けた。おかげで今日まで暮らして来れたが、外の世界も徐々に落ち着いてきたという。里を開き、少しずつ外と交流してもいいのではと言う意見も増えてきたが、何故ミラージュが未だ機能しているか分からない以上どうしようもない。記録によると魔法が失われた日に里の子供にお告げがあったらしいが、それも「必要ないと思う日が来たら合図をしてくれ」という曖昧極まりないもので里の皆で頭を抱える羽目になった。結局、祭を催して今まで守って下さってありがとうございますと名も正体も分からぬ存在に祈りを捧げたのだった。
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