星槎幸福論まだ生きてる。動く。
白珠はあるだけの力を使って瓦礫の下から脱出した。右脚が酷く痛い。立とうとして、痛みから地面に倒れ伏す。痛い、痛い、いたいいたい。
痛覚が脳を焼いて、勝手に涙が頬をつたう。死をすぐそばに感じた。でも、あたしは、まだ生きている。
「グぅっ…………あたし、は、まだ!!」
まだ、いける。
まだ、動ける!
まだ、まだ、あたしは、まだ!
痛みに震える腕で身体を起こす。顔を上げた。
空が見えた。
赤く赤く、そして広い空だ。あたしは、もっと。
もっと……
気付いてしまった瞬間、痛みによるものではない涙が溢れた。
あたしは、もっと
「鏡流の台詞」
もっと
「景元の台詞」
もっと
「丹楓の台詞」
もっと、もっと
「応星の台詞」
もっと、もっと、もっと
…………生きて、
涙が溢れる白珠
唇から血の混じった涎が滑り落ちる。口の中を切ったのか、それとも肺から傷ついているのかもう分からない。
星槎に手をついたとき、鏡が懐から落ちる。応星が子供の頃くれた物。桃の透かし彫りが綺麗だ。
……ぁ。
「応星の過去の台詞」
渡したい物がある、そう言っていたけれど、一体何だったんだろう。気になるけれど、今は。胸の中で小さく謝った。それから、すべてのいとしさを込めて鏡にキスをする。唇を添えた。
ありがとう、応星。
キッと倏忽を見上げる白珠
丹楓の龍狂から逃れた寿禍の枝葉は不気味に揺れながら赤黒い空を覆い尽くそうとしている。
あたしは、まだ生きてる。まだやれる。
あたしなら、まだ戦える。
なんて悪運だろう。星槎の動力源は無傷だった。
あの彗星は生きるために燃えている、
そういう生き方を目の前で示し続けていたのが応星だった。
応星の言葉をひとつ思い出す度に身体の奥から無限の勇気が湧いてくる。力が湧いてくる。
操縦席に乗り込む
とっくに悲鳴を上げる足を無視する。
足は一つしか使えない
だけど、右足だけでいい。
オールグリーン
右足で踏んだアクセルに全体重をかける。
もうブレーキは必要ない。