「今度の連休に動物園、行こうぜ」
「いやです」
ほぼ反射で拒否を伝えた、なぜ男二人でファミリーでいっぱいの動物園などに行かなくてはならないのか理解に苦しんだ。
「だってその日にオフなの俺っちとメルメルだけなんだもん」
「なんだもんってなんですか、行ったら何か俺にメリットはあるのですか」
呆れて何も言いたくないがそんなわけにもいかず問うと、
「俺っちを一日独り占め☆」
今度こそ言葉を失いました。
でも、めったに取れないパンダ舎の観覧券に惹かれて行ってあげることにしたのです。
その日は朝から天城が落ち着かず、待ち合わせの共有スペースに1時間前に来たとのこと。
「天城、はしゃぎすぎなのです」
「だってお前とデートなんて楽しみにきまってるだろ」
「デートって、誤解を招く言い方をしないでください」
「きゃはは」
そうして、変装を済ませて、電車に乗って移動。
「哺乳綱食肉目クマ科ジャイアントパンダ属に分類される食肉類…」、
パンダの展示室の前で熱心に解説を読み、目の前でのんびり笹を食んでいる白黒の熊を眺めていた。動物園なんて俺らしくないと思っていたけれど、こういった学術的なところは興味深い。
「なーなーこれつけよう」
隣にはパンダ耳のカチューシャを付けてはしゃぐ天城。
「それだけは遠慮させていただきます」
さすがにそれは似合わない。
似合わない、似合わないのですよ。
結局付けられてしまった。
「おーメルメル似合うー写真撮っちゃう、SNSあげちゃう」
器用にスマホを操作しているのを止めようとしたのに。
「送っちゃった☆」
「☆じゃないのですっ」
そこからしばらくは口をきかず、無視していたのですが。そのたびに
「メルメルー、あそこ赤ちゃんいるー」
「あそこで動物と触れ合えるみたいだぜー」
と小さな子供のように引っ張るので付き合わされる形になった。確かにいたいけなモノは愛しいと思いますが、これはちょっと引いてしまいます。
「熊を抱っこできるみたいだから行こう」
てっきり小さなぬいぐるみのような熊を想像していたのですが、中学生の子供くらいの背丈があるなかなか思っていたよりは大きな子熊でした。
「あれは大きすぎませんか、暴れたら危険です」
「大丈夫大丈夫何かあったら俺っちが仕留めるから」
「なにかあったらHiMERUは困るのです」
「次の方どうぞー」
係員に呼ばれ、膝の上に自称子熊をのせられ渋い顔になり、隣には満面の笑みの天城。
「あなたが抱えればよかったのに」
「貴重な機会を譲ってやったんだよ」
「余計なお世話なのです」
広い園内をくまなく見て回りたいのに、寄り道していたから半分程度で時間切れ。
「これで満足しましたか」
帰り道、椎名と桜河へのお土産を抱えて歩いていた。
「おう、たのしかったぜー。ありがとな」
落ち着きのない大人の遠足、また、付き合ってあげてもいいかもしれないとおもっっていたことはHiMERUシークレットなのです。