Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    pesenka_pero

    @pesenka_pero

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 26

    pesenka_pero

    ☆quiet follow

    手記後のノスクラ第二話ドラちゃんパート。ドラちゃんにかいがいしくお世話されるクラさんが私の性癖だ。

    猫カフェナンパに続くはずのノスクラ二話。 クラージィさんと会ったのは一度きりだった。私がまだ年若い美少年で、教育と称してノースディンに預けられていた頃だ。私ひとりで留守番をしていた時にノースディンの屋敷を訪ねてきた。私がいない時の訪問者は追い返せ、そもそも出るな、居留守を使え、とノースディンから強く言われていたが、まさか吸血鬼の時間である夜に正面の門から入ってきた馬鹿正直な人間が、我々を粛清しに来た悪魔祓いだったとは当時のいたいけな私には見抜けなかった。ノースディンの知人だろうと思って迎え入れ、手作りのクッキーと紅茶でもてなした。

     彼は何やら複雑な表情で私のクッキーを口にして、おいしいな、と呟いた。褒めてもらえて私は嬉しかった。ノースディンとの暮らしで溜まっていた不平不満と苛立ちをぶちまけてもちゃんと聞いてくれた。ノースディンの友達にしては優しくていい人だ。私は彼に好感を抱いた。また来たら、何をお出ししようかな。シンプルなクッキーもいいけど、飾りつけにも力を入れたケーキとか、ディナー一式もいいな。私とノースディンは吸血鬼なので、食べられる固形物の量はどうしても限られる。たくさん作るからたくさん食べてほしいな。料理の腕を磨きながら、私はずっと彼を待っていた。

     しかし彼が屋敷を訪れたのはその一夜だけ、それきり二度と来なかった。
     
     あの人なんで来なくなっちゃったんですか? 招待してくださいよ。私、料理の腕が上がったでしょう? あの人にいろいろ振る舞ってあげたいんですけど? そうノースディンに詰め寄っても、「彼は遠くに行った。」としか答えなかった。

     もう二百年近く前の話だ。それに人間の寿命は短い。とっくに亡くなってしまったのだろうと思っていた。今は常時騒がしい新横浜で変態どもに揉まれていることもあって、ほとんど忘れかけていた。

     その彼が、海を越え、二百年の時を越え、ドラルクキャッスル2に現れたのだ。

    「どなたでもお気軽にお入りください。」がこの事務所のポリシーだ。そのおかげで私とジョンも転がり込めた。彼はすいぶんとぼろぼろで汚れていたが、迷うことなく招き入れた。汚れなど、あとで洗えば綺麗になるのだ。海を越えさまよい歩き、私とまた巡り会ってくれた、私のジョンのように。退治の仕事後に、全身返り血やら砂や泥やら謎の液体やらにまみれて帰ってくる若造のように。

     その時の彼はまさしく浮浪者だった。痩せ衰えて、髪も髭も伸び放題で、疲れ切っていた。初めて出会った時の、しゃんと伸びた背筋に凜としたカソック姿で眼光も鋭く、幼かった私が好ましく思った面影などまるでなかった。長く伸びて重たいだろう髭のせいか俯きがちで、私の顔をじっと見たり、ふっと目線をさまよわせたりする彼の半生を聞くにつれ、あの日、一度だけ出会いテーブルを共にした優しい聖職者を思い出した。子供の頃にノースディンの屋敷でずっと待っていた彼と、まさか今になってこの新横浜で再会するとは夢にも思わなかった。

     元は人間だった彼から竜の一族の血が感じられた。手を伸ばし、彼に触れてみた。彼の体は吸血鬼の私からしても異様に冷たかった。さっきまで19世紀の欧州にいた、と彼は言った。私がノースディンの屋敷に預けられていた頃と時期も場所も合う。彼を吸血鬼にしたのはおそらく吹雪の悪魔こと氷笑卿ノースディンだ。あの野郎、一族に報告もなくなんてことしやがった。人間を吸血鬼に転化させる例はしばしばあるが、二百年越しはめったにねえぞ。どうすんだこの人、いや吸血鬼を。

     すぐにノースディンに連絡をして彼を託すべきだったのかもしれない。だが、私のお世話心に火が点いた。私とノースディンに出会ってしまったせいで教会から追放され、こんなにも弱りきって汚れてしまった人を、そのままで他のやつに会わせてやれるものか。彼に恥をかかせたくはない。まずは整えなければ。

     私は頑張った。遠慮して立ち去ろうとする彼を自分が死んで砂と化してでも引き留めて、髪を洗い体を洗い、清潔な衣服を用意し、まだ吸血行為に抵抗のある彼にホットミルクを与え、自動販売機の人工血液パックの存在と購入方法を教えた。この事務所は騒がしくて落ち着かないので、とりあえずはヴリンスホテルに宿を取った。ヴリンスホテルの宿泊料程度なら年単位で連泊していただいても喜んで私が立て替えたのだが、彼が断固拒否するので、安いアパートを手配した。彼は、「そのうちお返しするから……」とひどく恐縮していた。

     お返しなどいりません。二百年前、あなたが私に与えてくれたものにはまるで及ばないのだから。あの時のあなたが滅するべきだった悪魔の仔に、杭を打たないでくれたのだから。あなたが見逃してくれたおかげで、私は今、この新横浜で楽しく過ごせているのだから。


     ひとり暮らしを始めたその安アパートで、彼は近隣の住人と交流するようになったそうだ。近況報告のために出会うたび、吉田さんと三木さんの話をしてくれる。熱烈キッスの上司と、あとなんかいろんなところで見たことのある人だな。世間は狭い。

     吉田さんの猫が今日も可愛かった、とか、三人で食べたお鍋がおいしかった、とか、他愛のない話ばかりだが聞いていると心が和む。ご友人達と頻繁に食卓を囲んではいても、今の彼は吸血鬼だから、人間の食事はあまり糧にならない。まだ吸血ができないため、私ほどではないものの彼は痩せたままだったが、何であれ彼が楽しそうで私は嬉しい。この新横浜で目覚めた時に、野球拳大好き経由というのはどうにも納得がいかないが真っ先にドラルクキャッスル2を訊ねてきてくれて、またしても彼が路頭に迷うことにならなくて、本当によかった。吸血鬼の私には神などいないけれども、珍しく感謝の祈りを捧げたくもなる。私と出会えていなければ、彼は行く場所を見つけられずに朝日を浴びて滅していただろう。試みる度胸などないが、吸血鬼として転生したばかりの彼は私と違っておそらく再生できない。そのまま塵と化していたはずだ。

     再会した時とは見違えるほどに、今の彼は綺麗さっぱり清潔で、現代の新横浜に馴染むようになって、ご友人に紹介された猫カフェの職を得て、私生活も充実していて、私と会うとふんにゃり笑いながら現状を話してくれる。ここまで整ったのだからそろそろヒゲヒゲにも会わせてやるか。断じてヒゲヒゲのためではないが、痩せ衰えた状態よりもキレイキレイになってから会ったほうがお互い絶対にいいだろう。ヒゲヒゲ、ドラドラちゃんのお世話スキルに畏怖しやがれ。お前が吸血鬼にした人だ。私が保護して丁寧にお世話したから、今のこの人は穏やかに新横浜ライフを送れているんだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍💕💖💖🙏☺👍💖💖❤💖👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    pesenka_pero

    SPUR MEこちらの「密室( https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19509352 )」その後のノスクラ進捗です。私はとにかくこいつらをイチャイチャさせたい。
    密室その後 目が覚めると、私はそろそろ見慣れてしまったヴリンスホテルの一室のベッドに仰向けで横たわっていた。他の地のグループホテルのことは知らないが、ここ新横浜は吸血鬼が多いため、吸血鬼用に完全遮光仕様の部屋も数室用意されている。灯りの消えた室内は暗いが、今が夜なのか昼なのかよくわからない。

     私の上腕近くにはいつものように重みがあった。今更確認するまでもない。ノースディンが私の腕を枕にして眠っている。ああ、またやってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいになって、私は彼に向き直るとその体を抱きしめた。普段よりもひんやりしていた。私のせいだ。


     私はクラージィ。人間だった頃は悪魔祓いとして教会に仕え、黒い杭のクラージィと呼ばれていたが、二百年の時を経てこの新横浜に吸血鬼として目覚め、私を吸血鬼化した氷笑卿ノースディンと再会し、「昏き夢」という新たな二つ名を与えられた。ある日突然発動した私の能力に由来するのだが、その時の私は意識がもうろうとしていたため、何をしでかしたのか正確には思い出せない。
    1820

    recommended works