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    pesenka_pero

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    pesenka_pero

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    手記後のノスクラです。まずは歩み寄れ、ちゃんと話し合うんだお前ら。次はモブ三人衆です。

    猫カフェナンパに続くはずのノスクラ三話。「あんた、クラージィさんに何したんですか?」
     
     珍しくドラルクから電話が来た。スマホの画面に表示された名前を確認してすぐに出ると、氷笑卿との二つ名を持つ私ですら竦み上がりそうになるほど冷たい声が耳を貫いた。

     さっきお会いしましたが、なんであんなぺしょぺしょした顔になってるんですか? 耳だって垂れてましたよ? ドラルクキャッスル2で再会した直後はともかく、ここ最近はずっとおっとりと幸せそうだったのに。

    「……それ、言わないと駄目か?」

    「駄目に決まってんだろうが。今言わなかったら鬼電し続けてやるし、お父様と御真祖様にも報告するからな。あんたが吸血鬼にして、二百年眠らせてほっぽいてたクラージィさんを最初に保護して今の生活を整えてさしあげたのは私なんだぞ。全部吐け。」

     決して放置していたつもりはない。百年以上は定期的に彼が眠る廃教会に通っていたが、私が凍らせてしまったせいで蓋が開けられず、顔も見れない棺の前に立つのがつらかった。だから徐々に足が遠のいていっただけだ。私とて元人間なのだ。百年を越える時の積み重ねは重すぎた。

     しかし電話口のドラルクは本気で怒っていた。私側の事情を知らないドラウスと御真祖様にドラルク視点で言いつけられるのも困る。仕方なく、私は再会した彼との短いやり取りを打ち明けた。但し、とことん煽られることになるに決まっていると思ってタコパのくだりだけは端折って、彼は友人との約束を優先してすぐに立ち去った、とだけ話した。それでもさぞ馬鹿にされるのだろうと覚悟していたが、ドラルクは嘲笑うどころかますます激昂した。

     悪魔祓い? あんた、それマジで言ったんか? あんたが悪魔祓いを辞めさせたんだぞ? あんたが悪魔にした人だぞ? 吸血鬼だからっていくらなんぼでも人の心を失いすぎだろうが! マジで殴んぞてめえ。うちのゴリラ派遣すんぞ。若造だってこの話聞いたらブチ切れるぞ。あの人のこと、あんたに言わなきゃよかった。超久しぶりにあんたと会えて、今ここでならきっと和解ができて、喜んでいただけると思ったのに!

     ドラルクは私に対していつも辛辣だが、今までに聞いたこともないほど強い口調で罵られ続けた。私には返す言葉もなかった。そうか、私は彼にひどいことを言ってしまったのか。彼同様に私も元は人間だったが、人の情緒を養う環境それ自体が与えられなかった。おまけに二百年眠り続けて先日目覚めたばかりの彼とは違い、私は吸血鬼として長く生きすぎた。私には人の心の機微というものがそもそもわかっていなかったのだ。

     クラージィを吸血鬼にしたのはこの私だ。私のせいで彼は吸血鬼となり、現代のこの新横浜で目覚め、ドラルクをはじめさまざまな吸血鬼と交流し、吸血鬼と化した彼を受け入れてくれる人間の友も得ているのに。彼はもう、悪魔祓いではないのに。私が彼を夜に招き入れたのに。私は彼を傷つけたのか。

    「謝ってこい! 許されなくてもとにかく謝り倒してすごすご帰れ! そんでもってもう二度と関わるんじゃねえ! あの人は今、あんたなしでもこの新横浜でのんびり楽しく過ごしているんだ!」

     ドラルクは、彼が今働いているという新横浜の猫カフェの店名を告げた。彼の住所と電話番号は教えてくれなかったし、私もあえて訊かなかった。


     ドラウスが私を吸血鬼にしたのは、人間どもに踏みにじられる悲惨な人生を余儀なくされていた私を哀れに思い、見過ごせなかったからだった。人間の世界から私を救い出した上に、誰もが朗らかで優しく、私でも愛することができる竜の一族に招き入れ、家族となり、永遠の親友になってくれた。
     
     では私がクラージィにしたことは何なのだ? ドラウスのたったひとりの愛息子であるドラルクに手をかけないでいてくれたことには感謝しているが、彼を哀れに思ったことなど一度たりともない。私とドラルクに出会い、見逃してしまったせいで悪魔祓いの黒い杭を取り上げられ、教会を追放されて放浪することになった彼だが、それらの不遇はすべて彼の強い信念から生じたことだ。私は決して彼を否定しない。そんなこと、できるわけがない。
     
     愚かな男だ。一途なまでに愚かすぎた。彼が追い求めてきた吹雪の悪魔を仕留められなかったのなら、自分の力が及ばずに返り討ちに遭ってしまった、などと、適当に虚偽の報告をすればよかっただけのことだ。だのに何故、馬鹿正直に己の疑問を教会と神に直接問いかけてしまったのだ。奴らにとって悪魔は悪魔だ。あまねく人類の敵なのだ。悪魔祓いが情をかけてはいけなかった。異端審問にかけられて拷問の末に処刑されなかっただけまだましだ。

     教会から追放され、軽蔑され、日々の糧すらろくに得られずに、痩せ衰えていった彼が行わんとした最後の善行が、あのクソ黄色、いや、元悪魔祓いの彼が杭を打つべき悪魔をその身で庇うことだった。

    「逃げなさい!」

     そいつ、逃げ足だけはやたら速いからほっといても多分何とかなったぞ? なんでそこまで愚かなんだお前は。私達悪魔と出会ったばかりに、お前はどれほどの罪と罰を一身に背負わんとするのだ。

     クラージィ、お前は一体どのような罪を犯し、どのような罰を受けなければならなかったのだ? 教会からは追放されたとはいえ、元は敬虔な悪魔祓いだったのに、身を挺して吸血鬼を庇い、自身は野犬に襲われて、食い殺されそうになっている。

     私とドラルクに悪魔祓いの黒い杭を打てなかったのも、そのせいで教会を追放されてさまようことになったのも、今私の目の前であのクソ黄色を庇って死にかけているのも、何もかもが彼の意志によるものだ。私に口を出す資格はない。愚直なまでに善良な彼を哀れむつもりもない。すべては彼が自分でしたことなのだ。

     だが、地面を血で赤黒く染めながら死に行く彼を見過ごすことはどうしてもできなかった。愚直ではあるが、なんと高潔なのか。このような人間が存在していたのか。

     まことに善なるものだ。
     
     そのようなものが、人間であってはならない。


     私が瀕死のクラージィに抱いたのは、人間だった頃の私にドラウスが向けてくれた憐憫でも親愛でもない。執着、いや、もはや妄執だった。彼を殉教者として天上に送りたくも、教会に離反した異端者として地獄に堕としたくもなかった。この先二度と目覚めることがなかろうとも、彼を人間どもの汚い手から奪い取ってでも、私を優しく受け入れてくれた夜の世界に迎えたかった。
     
     ドラウスの強い血を受けた私だ。今際の際で彼を吸血鬼に転化させることはできたはずだった。野犬に食い荒らされた体の傷もみるみる修復していって、流れ続けていた血も止まった。しかし彼は目覚めてはくれなかった。

     彼は死んだのだろうか。所詮は生粋の吸血鬼ではない私の力が及ばなかったのか。それとも善なる彼が今際の際に吸血鬼の血を拒みきったのか。私にはわからなかった。わかりたくなかった。

     そこは山中だった。その場に置き捨てれば野犬が彼の体を食い尽くしただろうし、土に埋めれば骨だけ残して地に還っただろう。どうせもう彼は目覚めないのだから。

     いやだ。絶対にいやだ。私には彼の体を放置することも、葬ることもできなかった。

     彼を納めた棺が厚い氷で覆われていく。朽ち果てることなど許さない。お前は、吸血鬼として生まれ変わり、永久の時を歩むべきだった。どうして私を拒んだのだ。お前が人の世で強いられた苦難の道よりも、こちらのほうが暖かくて美しく、優しい場所だったのに。

     二度と関わるなとドラルクには言われてしまったけれども、どうやら私は無自覚ながらも二百年ものあいだ、彼のことを諦めきれずに待ち続けてたらしい。彼の棺が凍り続けていたのがその証拠だ。今や竜の一族であり古き血の一員でもある私だが、その能力は決して永続できるほどではない。例えばあの忌々しい黄色の催眠は相当強いが、持続させられるのはせいぜい対象となった人間の命が尽きるまでだ。人間の寿命を遙かに凌駕する二百年をも持続できる呪縛はかけられまい。御真祖様でもない限り、そこまでの力は古き血の誰にもないだろう。

     ただひとえに私の執着が、彼を氷漬けにしてまでこの世に引き留め続けたのだ。彼が目覚めたと知った今、もはや諦められるわけがなかった。


     というかなんだ猫カフェ勤務って? お前、元は敏腕の悪魔祓いだろうが。猫が好きならうちにもいるし部屋も余っている。治安が悪いのを通り越してもはや呪われているとしか思えない新横浜よりも、私の屋敷に引っ越してこないか? 使い魔の猫も雪だるまも、もちろんこの私も歓迎するぞ。
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    pesenka_pero

    SPUR MEこちらの「密室( https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19509352 )」その後のノスクラ進捗です。私はとにかくこいつらをイチャイチャさせたい。
    密室その後 目が覚めると、私はそろそろ見慣れてしまったヴリンスホテルの一室のベッドに仰向けで横たわっていた。他の地のグループホテルのことは知らないが、ここ新横浜は吸血鬼が多いため、吸血鬼用に完全遮光仕様の部屋も数室用意されている。灯りの消えた室内は暗いが、今が夜なのか昼なのかよくわからない。

     私の上腕近くにはいつものように重みがあった。今更確認するまでもない。ノースディンが私の腕を枕にして眠っている。ああ、またやってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいになって、私は彼に向き直るとその体を抱きしめた。普段よりもひんやりしていた。私のせいだ。


     私はクラージィ。人間だった頃は悪魔祓いとして教会に仕え、黒い杭のクラージィと呼ばれていたが、二百年の時を経てこの新横浜に吸血鬼として目覚め、私を吸血鬼化した氷笑卿ノースディンと再会し、「昏き夢」という新たな二つ名を与えられた。ある日突然発動した私の能力に由来するのだが、その時の私は意識がもうろうとしていたため、何をしでかしたのか正確には思い出せない。
    1820

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