風呂場だ。湯気がたっぷりと立つ、寒い夜。人の輪郭も定かではなくなる中でも、隣にいる奴ぐらいは分かる。
遠くから湖の波の音がして、近くでは暖かい湯が揺れる音がする。視界は霞む。輪郭が揺らぐ。
「だいぶ治ってきた」
うっかり閉じていた目を開けた。隣で、フリックの奴が軽く腕をあげた不自然な体勢をしている。二の腕の真ん中辺りに白く、治りかけた傷痕があった。この間の小競り合いでやらかしたものだ。魔法でふさいだ傷口はもうすっかり綺麗で、このまま跡も残さずに消えるのだろう。
なんとなく眺めまわして、首をかしげる。
「お前、あんまり傷痕ないよな」
腕を下ろしたフリックが、バカにしたように唇を引き上げた。
「お前みたいに突っ込めばいいと思ってないからな」
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