絶対にヨリなんか戻さない!たった今、この瞬間、オレとルークは破局した。
バタンと閉まる扉の音を背後に聞きながら、オレはチッと小さく舌打ちをする。
先ほどまで大柄なムキムキ男がいたからか、1人の部屋がさっきよりも少し広く感じるのが不思議だ。
きっかけは正直覚えていない。
思い出せないほど些細なことから喧嘩になって、そのままヒートアップしたオレが燃え上がるような憤りにまかせて「もうテメーとは終わりだ!別れる!」と叫んだのだった。
もう幾度も喧嘩なんて繰り返してきているオレたちだが、付き合ってから、別れるという単語を使ったのはこれが初めてだった。
大抵喧嘩をする時はどちらかが冷静で、どちらかがヒートアップしている、とかそういうことは一切なく、オレたち2人は全力で喧嘩をするものだから、今日も同様に、相手も頭に血が上っていたのか、半ば勢いに任せて別れを告げたオレに、「ああ、そうだな。別れよーぜ!」と眉を吊り上げて返し、そのまま部屋を出て行ってしまった。
そんな恋人、いや元恋人をオレは追いかけるでもなく、相手も戻って来るでもなく……そんなこんなであっさりとオレたちの関係は終わりを告げた。
なんで戻ってこないんだよ、とか思ってもない。断じて思ってはいないけど……まあ、よくよく考えたらこれで良かったのかもしれない。
そもそもなんでオレたちって付き合っていたのか、正直謎だし。
まず出会いからして喧嘩から始まっているような関係だし、やることと言えばファイトばかりでろくにデートもしたことない。
それに、生活リズムも真反対で、オレが家でくつろぐ日中はアイツは仕事で、アイツが家に帰って来る頃には逆にオレが家を出る。完全なるすれ違いの日々だ。
別に同棲してるってわけでもないから、忙しい日々の中でなんとか時間を作って逢瀬を重ねることに、オレもアイツも、仕方ないと思っていたし、別に文句もなかったけど……それもなんかおかしい気になってきた。
世間一般の恋人同士がどういう付き合いをしているかなんてよく知らねーけど、仮にも付き合っているのだから、さすがにこれはどうなんだと思わないでもない。
……まあ、もういいけどな。終わったことだし。
むしゃくしゃした気持ちを抑えつけるように、ズカズカとキッチンへ向かい冷蔵庫を開く。
ひんやりとした冷気と共に、食材やら調味料やらが目に飛び込んでくるが、ふと隅に置かれたコーラに目が留まる。
オレが普段コーラを飲むことはほとんどないので、これはもちろん元恋人が持ち込んだものである。
なんでもコーラの銘柄にこだわりがあるらしく、「コレが一番美味いんだよな~」とニコニコ笑っていつも同じ銘柄を数本買ってきては、大抵こうしてオレの部屋の冷蔵庫にストックしていく。
今まではそのことに別になんの感情も持っていなかった。なんなら嬉しいとさえほんのちょっと思っていたけれど、今はその黒々としたボトルが嫌にムカついて見えてくる。
アイツが買ってきたものなので、普段は手に付けることはなかったけど、まあ、もうこの部屋に来ることはないだろうし。
ムッとした気持ちをそのままに、ボトルを掴むと、勢いよくフタを開けて口をつける。
甘ったるい液体がすぐに口内に流れ込み、パチパチと炭酸がはじけて痛いくらいだ。
アイツ、よくこんなんいつも飲んでるよな。
ピザにも中華にも和食にもいつもコレだ。ついに舌まで筋肉に支配されていて、味も分からないんじゃないかとからかったのも記憶に新しい。
そうそう、そういえば肉をコーラで煮ると柔らかくて美味くなるって誰かが言っていたような……。
それだったら、コーラにも合うしアイツも気に入るんじゃ……って何考えてんだオレ。もう別れた恋人のことなんだからどうでもいいだろうが。
「チクショ……」
ぐいっと残ったコーラを流し込んで、またドスドスと足音荒く寝室へ行くと、のどの奥につっかえる何かを忘れさせようとベッドへ身体を沈み込ませた。
ゴロンと横向きになって、ベッドサイドに置きっぱなしのスマホを手に取ると、数時間ぶりにロックを解除する。
普段スマホをほとんど触らないオレなので、解除しても特に目立った連絡はきていない。
そう、何もきていないのだ。
うん、別にいつも通りだし。何もなくて良いことじゃないか。
ポスンと再びスマホをベッドサイドに置いて、目を閉じる。
コーラのせいなのか、相変わらず喉の奥に何かが詰まっているような感じがして、その日はなかなか寝付けなかった。
__________
「あん?」
ポケットの中でスマホが着信を知らせて震えたので、おもむろに取り出した。
夜のチャイナタウンの明かりを受けて、画面に浮かび上がったのは、なかなか珍しい人物の名前だった。
「なんだよラシード」
「おっ!出た!珍しいね、ジェイミーがすぐに電話出てくれるなんてさ」
「ああ、まあ、たまたまだよたまたま。んで、何の用だよ」
「あーうん。えっと……」
いつも明朗快活な彼にしては珍しく言いよどむ様子に、訝しく思いながら屋上の鉄柵に頬杖をつく。
誰かさんから紹介されて友人になったラシードは、スマホを使い慣れているので事あるごとにメッセージを送ってくるが、オレがなかなかスマホを見ないことを知っているので、こうしてわざわざ電話をしてくることはあまりない。……のだが……。
「えーっとジェイミー……。その~……そろそろ許してやってくれない?」
「……ハァ?」
「俺もさぁ、2人にはずっと仲良く喧嘩しながらキャッキャしててほしいっていうか」
少しだけ言い辛そうに言葉を重ねるラシードに、思わず眉間にシワが寄る。
何のことを言っているのかはさすがに分かる。オレの元カレ、脳筋くんの話だろう。
ヤツと別れてから早1週間。
元々生活リズムが真逆のオレ達は、普通に過ごしていればそもそもなかなか会うことも少ないんだということを改めて思い知った。
別に避けていたわけでもないけど、っていうか何ならたまーにバックラー社の近くまで行くこともあったけど、まったく、全然、これっぽちもアイツの姿さえ見かけなかった。
多分、アイツの方がオレを避けているんだろうな。
まあ、別に良いんだけどな。別れた恋人になんて、わざわざ会いたくねーし。うん。
それよりも今頭の中を占めるのはラシードからの言葉である。
こうして電話をかけてくるってことは、恐らくオレたちが別れたことを知っているのだろう。情報の出どころはオレじゃないので、十中八九アイツが言ったんだろうな。
……オレにはあれから連絡1つも寄越さないくせに、ラシードとは呑気に連絡取り合ってるわけだ。
しかもこのオレ様を避けてやがるくせに……。
そう考えると沸々と怒りが湧いてきて、胸の中をぐるぐるかき回されているかのような気分になる。
「……許すも何も、オレ達はもう終わってんだよ。そう聞いたんだろ?」
「えー……?そんなこと言うなってジェイミぃ~……。ルークだって悪気があったわけじゃあ……」
「ほーん。その割にはオレ様にはメッセージも寄越さねーけどなアイツ」
「う、うーん……それはそうなんだけど……」
電話口で困ったようにラシードが唸るのに、ため息を吐いた。
ラシードは優しい。こうして友人を案じて連絡をかけてきてくれてるのに、オレたちの問題に巻き込むのは申し訳ない。
「まあ、気持ちは受け取っとくよ。ありがとな、ラシード」
「え、ちょ、まってジェイミー!」
「じゃあな」
これ以上話していると、ラシードに当たってしまいそうだったので、そのまま電話を切る。
友人の優しさにほんの少しだけ気持ちが上がったが、それでもやっぱり何か納得がいかない。
アイツ、何をどうラシードに説明したのか知らないけど、連絡もしてこないクセにダチに心配かけやがって……。
でも、許してやってくれ、って言ってたってことは、もしかして、ちょっとは反省してるのかなアイツ。
……まあ、別に、どうでもいいんだけどな。もう終わってるし、ホント。
少しだけ興味が出て、好奇心で『復縁 方法』で調べてみたりもしたけど、それも世間ではこういう感じなんだ~って思っただけだったし。
別にどうともしないけど。ヨリ戻すつもりとかないけど。
だけど、まあアイツが反省しているなら良い兆候だと思う。
たまにはあの筋肉だけ詰まった鈍感脳にも、反省が必要だろ。
そしたらちょっとは、見直してやらなくもない。
……なんて、思っていた。んだが。
「……ほーーん……」
遠目からもありありと分かる笑顔に、オレは無意識のうちに目をきゅっと細めた。
まだ日も高い平日。
たまたま、そうたまたまピザが食べたくなったオレは、再びバックラー社近くのピザワゴンを目指して歩いていたのだが、路地を曲がると遠くに久しぶりに感じるくすんだ金髪を見つけたのだ。
元カレがいるからって食べたいものを諦めるのも違うかと思って、ゆるりと近寄ろうとすると、筋骨隆々のその背中の隣に、細く華奢な肩が並んでいるのが目に入った。
大きく丸い彼女の瞳が、キラキラさせながら恋人、いや元恋人を見上げると、脳筋くんはそれに笑いかけながら何やら楽しそうに話している。
そして、オレの目当てであるピザワゴンでピザを買うと、ニコニコしながらジムに戻っていく。
楽しそうな2人の背中を見送ったオレの口からは、「ハッ……!」と小さく笑いが漏れた。
へーーーふーーーん。随分楽しそうじゃねえか。
落ち込んでもないし、反省もしていなさそうだ。
何なら随分楽しそうだったしな。
別に怒ってなんかない。
だってもうオレらは恋人でも何でもないわけだし。
だからこれは別にそういうあれじゃない。
そう、単純にアイツが女子にモテてデレデレしてるのが気に食わない。それだけだ。
その瞬間、不思議なものでオレの中の食欲は急激になくなり、食べたかったはずのピザも魅力がすっかりなくなってしまった。
食べる気が失せた今、もうこのまま帰っても良かったが、それこそヤツのせいで諦めたみたいな気持ちになって癪に触る。
そこまで考えたオレは、半ばヤケクソ気味ズカズカとピザワゴンに近づくと、いつもだったら頼まないチーズたっぷりのアツアツシカゴピザを注文し、包んでもらう。
そして明らかに食べ歩きに向かないそれをガツガツ頬張りながら、その場を後にする。
ピザが腹に落ちていく度に、何かモヤモヤとして黒い何かも一緒に飲み込んでいくみたいだ。
あーーーそうだよな。そもそもオレたちは何もかもが違う。
好みも、生まれも、嫌いなものも、ファイトスタイルも。そう、何もかもが。
ほらな、オレたちが付き合うなんて無理な話だったんだ。
だから、アイツだってその間違いに気づいて、すぐに別の恋人候補を引っ掛けたんだろ。
なんならすでに候補じゃなくて、恋人だった説もある。
アイツは脳筋だから、1週間とちょっと前まで付き合ってた奴のことなんてきっとこれっぽっちも思い出していないに違いない。
反省も、後悔もなく、ただただ楽しい毎日を過ごしてることなんだろう。
いいじゃねーか。結構結構。それが正しい別れたカップルの在り方だ。
……だから、別にこれは断じてそういうのじゃない。
ぜっったいに!!
誰に言うでもない言い訳じみたことを心中で唱えて、あっという間に食べ切ったピザの包み紙をくしゃりと丸め、乱暴に道端のゴミ箱に突っ込んだ。
「……クソッ!」
_______
『俺ん家にあるお前の荷物、取りに来いよ』
ピロンとなったスマホを反射的に取り上げると、約2週間ぶりに見た名前が表示されていた。
その文面を見た瞬間、オレの口からは小さな「……あ?」という声が漏れ出ていた。
思ったよりドスのきいた声が出ていたようで、背後に並ぶ黄巾族の連中がビクリと肩を揺らしているのが気配で分かる。
しかし今のオレにはそれを気遣う余裕なんてなかった。
久しぶりに来た元恋人からのメッセージを表示するスマホが、オレ様の素晴らしい握力でもってしてミシリと音を立てる。
お前の荷物、取りに来いよという文面からは何の感情も伺えない。
いや、伺えなくていいのか。
別れた相手の荷物を取りに行くシチュエーションはごくありふれたものだろうし、そこに含まれた意味なんて、それ以上でもそれ以下でもないんだろう。
つまり、もうこれが最後で、これっきりにしようという意思表示である。
何度も何度も言うが、別にオレはそれで構わない。
だってオレ達はもう終わっているのだ。本当だったら顔も合わせたくないはず。
だからコイツのやっていることは正しい。
正しい、のだが……。
再び手の中のスマホがミシミシ音を立てる。
というか、それなら荷物を送りつけるなりなんなりすればいいだろうが。
わざわざ取りに来いとはどういう了見なんだアイツは。
手の中のスマホがいよいよ出してはいけない音を出し始めたため、気持ちを落ち着けるためにふぅと息を吐く。
……まあいいじゃないかジェイミー。
行ってやればいいじゃないか。そんで最後に脳筋くんの間抜け面を見て、必要最低限のやり取りだけして、冷たくあしらってやればいい。
それで、本当に終わりにしよう。
ポチポチとスマホに『分かった。明日行く』と打ち込んで、電源ボタンを押す。
パッと黒くなった画面には、何かを我慢するような、悔しそうな、変な顔をしたオレの顔がうつる。
なんて顔をしているんだ自分、と思わないでもないが、これはたぶんアレだ。
脳筋くんのクセにオレ様を呼びつける態度が気に入らない。それだけだ。
そう結論付けて、ポケットにスマホを押し込み、おもむろに屋上を後にする。
その後は、何かくすぶったような気持ちを押し込めるため、街の厄介者たちといつも以上にファイトしまくったということだけ言っておこう。
そうして散々ファイトしまくって無理やり身体を疲れさせ、家で爆睡し、迎えた翌日。
自室のベッドで起き上がると既に日も落ちかけた夕刻で、西日が淡くベッドの上に降り注いでいた。
ベッドサイドのスマホを手に取ると、1通メッセージが届いており、案の定これから向かう部屋の主からのもので、『ありがとな。夕方からなら何時でも良いから』ときていた。
ハァ、とため息をついてのっそりとベッドから立ち上がる。
いつもより倍以上時間をかけて着替え、化粧を施し、念入りに鏡でチェックしてから家を出ると、すっかりあたりは暗くなっていた。
ゆっくりとルークの家までの道を歩きながら、意識的に何も考えないように脳内をシャットダウンする。
考え出すと、何かが終わるような、そんな気持ちだった。
のんびりのんびりとルークの家に辿りつき、マンションの階段をのぼりながら、考える。
これで全部終わるんだ。本当に。
もうこれからこの階段をのぼることもないし、あの部屋に入ることもない。
これっきりなんだ。
思い返せば喧嘩ばかりの日々だったが、なかなかどうして穏やかな付き合いでもあった気がする。
会える時間は少ないけど、飯を食って酒飲んで、テレビ見てゲームして。
そしてたまの愛の言葉と、恋人同士の甘いアレやそれ。
たった2週間前だけど、遠い昔のようにも感じる思い出たちを押し込めて、オレは足を進める。
それも、これで終わりなんだ全部。
まさしく今日はオレたちの最後の日になる。
だから、もうこんなの忘れるべきなんだ。きっと。
やっと着いたヤツの部屋の扉の前で、再び息を大きく吐いてから、呼び鈴を鳴らす。
来客を知らせるチャイムが鳴ってから、しばらく。
思ったよりもゆっくりと扉が開いていくのをオレはぼんやりと眺めていた。
扉が開いたら、そうしたら、現れるだろう顔に、そっけなく「おう」とでも言って、それから荷物を受け取って、さっさと帰るのだ。
そんでファイトでもして、美味しいもんでも食べてすぐに寝る。
そしたら明日から、きっといつも通りになれる。
……そう、思っていたのに。
「……は?」
まず目に飛び込んできたのは、眩しいほどの赤だった。
今まで見たこともないくらい大量の赤、赤、赤。
これは、アレだ。そう、薔薇の花。
「え、は?」
もう一度困惑の声を上げたオレの頭がゆっくり冷えていくのと同時に、ドデカい花束の向こうに見慣れた金髪とつむじが揺れているのが視界に入る。
そこでようやく、こちらに向かって頭を下げているのがオレの元カレなんだと気づいた。
「……ごめん」
聞いているだけで心臓がぎゅっと掴まれるような、そんな悲痛な声だった。
呆気にとられるオレを置いて、そろりと花束の向こうからゆらゆら揺れる青い瞳がこちらの顔を伺う。
「……もう遅いかもしれないけど、その……どうしても諦めたくなくて」
ルークは大きな身体を最大限縮こませていて、まるで叱られた大型犬のようだった。
玄関先で呆然と無言で立ちすくむオレを、勝手に拒否だと受け取ったのか、ルークは立派な眉を更に下げる。
「……まだ、怒ってるよな……。俺のこと、避けてたみたいだし……。でも、俺ずっとお前と別れたこと、後悔してて、でもどうしたら許してもらえるかって分かんなくて、どうしようもなくてとりあえず花屋に……」
「ちょ、ちょっと待て」
ビッと目の前に指を立てる。
それに少し面食らったようなルークはピタリと口を閉じた。
今の状況が全然処理できなくて、くらりと目眩がする。
つまり、なんだ、コイツは、今オレにヨリを戻そうと迫っていると、そういうことか?
いやおかしいだろ、だって全然連絡も寄越さなくて、知らん女子と歩いてて、それで……。
「ジェイミー!」
うんうん唸るオレにしびれを切らしたのかルークがガバリと手を取った。
それに驚いて口をポカンと開けていると、視界いっぱいにルークの切羽詰まった顔が写る。
「やっぱり俺はお前と別れたくないんだ……!頼む、俺ともう一度、付き合ってくれ!」
その必死そうな声がじわりと滲むように鼓膜を揺らす。
コイツとは何もかも合わない。なんで付き合ってたのか分からない。
生活リズムも合わないし、喧嘩ばかりしている。
好みも嫌いなものも、趣味だってまるでわかりあえない。
どう考えたって恋人に向いていない。
だから、オレが言うべきなのは、答えるべき返事は……。
「……うん。オレもそう思ってた……戻ろう、ルーク」
・・・・・
・・・
・
蓋を開けてみると、とどのつまり、全てはすれ違いだったらしい。
ルークは何度も連絡を取ろうとしたけれど、オレがスマホをほぼ見ないことを知っていたし、直接謝りたかったから、幾度かチャイナタウンへ足を運んでいたらしい。
でも、そういう時に限ってオレが逆にバックラー社に行っていたタイミングだったり、トラブル解決に奔走していたりでなかなか会えなかったみたいである。
そんなこんなでどんどん時間が経つにつれ、益々謝るタイミングをなくし、避けられていると思ったルークは、どうにかオレと会おうと考えた末、荷物を口実に部屋に呼ぼうという結論に至ったそうだ。
「なるほどな。いやお前、あのメッセは明らかにもう終わり宣言だったからな」
「ウッ……悪かったよ……どうしたらお前がここまで来てくれるのか分かんなくて」
「ハイハイ、脳筋くんは上手い言い回しなんて考えられねーよな」
「オイ失礼だろバカ」
ルークの部屋のソファで腰に手を回されながら、いつも通り軽い喧嘩をする。
慣れたやり取りに、やっと日常が戻ってきたみたいで、密かに安堵で心が温かくなる。
こういう風にルークと話していると、ああ、ちゃんとオレらってヨリ戻したんだよなって実感する。
こういうやりとりが好きだ、なんて、コイツには絶対言ってやらないけど。
「なぁ、俺たちもうちょっと会える時間増やそうぜ。本当はもっとお前に会いたかったし」
「……ん。そうだな……」
照れ臭くてつい唇を尖らせてしまったが、そんなオレにもルークは噛み締めるように微笑んで見せた。
オレたちに足りなかったのはこういう素直さとか、あとは2人だけの時間なんだろうなと思う。
世間一般がどうとかじゃなくて、ただ会いたいとか、そーゆうの。
「それにしても、お前わざわざラシードに言うなよな」
「あっ!そういえばラシードからジェイミーに連絡してくれたんだよな!アイツにも悪いことしたな……」
「ま、オレからも後で連絡しとくよ」
ラシードの名前を出して、あの電話が思い起こされる。
友人想いでお節介焼きのアイツには、ちゃんと御礼を言わなくちゃな。
ついでに、何か詫びの品でも送っといてもいいかもしれない。
「なあ、ルークちょっとパソコン借りていいか?」
「え、いいけど。なんでだ?」
「ラシードに贈る詫びの品を調べる」
「ああ、そういうことか」
ちょっとだけ名残惜しそうにオレの腰から腕をどけたルークから快諾を得たので、ソファからパソコンの前へと移動する。
ルークの家のパソコンを使うのは初めてではないので、慣れた手つきでブラウザを開く。
出てきた検索エンジンにカーソルを合わせて、早速文字を打ち込もうとしたオレは、そこで思い切り吹き出すことになる。
びっくりして、なんだなんだと近寄ってくるルークの首を思いきり抱き寄せた。
恥ずかしいやら嬉しいやら面白いやらで自然と口角が上がる。
ついでにサービスで、頬にキスも落としてやると、ルークが赤い顔で「えっ!?」と声を上げた。
困惑するルークの後ろの画面に映る、検索履歴に、コイツが気付くのはきっともうすぐだろう。
”復縁 方法”
”仲直り やり方”
”復縁 プレゼント”