こちらへと近づく微かな足音に、ミナミは気が付かなかった。扉がキィと小さな音を立てて開いて初めて、ミナミは書物から顔を上げた。「先生」と呼ぶ声はすでに部屋の中へと足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉めているところである。ミナミは分厚い本の開いたページに栞の代わりにガラスペンを挟み、椅子をわずかに後ろに引いて助手を見た。彼の手には木製のトレイと、その上にガラスのティーポットとマグカップが二つ。ミナミがスペースを広げるように紙束を机の端に避けると、そこにトレイが置かれた。
「ハルカ」
ミナミがその名を呼ぶと、助手──ハルカは目をきゅっと細めて微笑み、ミナミの背後に鎮座する小型の装置を一瞥した。
「どうですか。何か変化はありましたか?」
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