「だから言っただろう。」
バサリ。
被せられたタオルに視界を奪われる。
刹那に見えた顔の眉間にはシワがよっていた。けれど眉尻も少し下がっていたので怒っていると言うよりは呆れているようだった。
「避けて走ればいけると思ったんだよ。」
「はい脳筋バカー。」
わしゃわしゃとタオルを動かす細い指。
雫を拭うタオルは柔らかく、いい匂いがする。
一人暮らしの時のタオルはパリパリで固かったななんて思いながら、絶え間なく動かされるタオルの隙間からドラルクを窺う。
眉間のシワはもうない。
口元は緩く下弦の弧を描き、小さく鼻歌すら歌っている。
「何が楽しいんだよ。」
そう聞けば、
「うん?別に?」
と、また鼻歌は続く。
変なやつ、と悪態をつきながらもされるがままに任せる。
雨が降ってきた時、傘持って行けって言われた時に素直になれなかった事を少しだけ悔やんだ。
それから、服濡れちまうな、とか、ブーツに雨が染みるな、とか、段々と気持ちが重くなっていった。
アイツはきっと文句を言いながらでも服やブーツを乾かして綺麗にしてくれるんだろう。
お礼は特選牛乳でいいよ、なんて言いながら。
先に買って帰るのは何だか期待してるようで気が引けたし、何しろ店に入るにはずぶ濡れだ。
重い気持ちのままドアをくぐれば迎えてくれたのは呆れた顔と柔らかいタオル。
──嬉しい、な。
もにゅ、と口元がゆるんだ。
「……?どうした?若造。」
「いや?別に?」
「ふーん?」
「何だよ。」
「別に?」
頭にかぶせたタオルの両裾を持って、天蓋のように広げた空間の中で触れた唇。
「可愛いなって。」
「……!!」
「ほら、とっととシャワーを浴びてこい。洗濯物はきちんと分けろよ。」
濡れた重い上着を脱がせ、雫が垂れないようにしながらドラルクが先を歩く。
その背中に覚える安堵感。
いやいやいや、クソ雑魚だし!と振り払おうにもゆるんでしまう口元。
「今日の夜食はおそうめんだよ。」
振り返ったドラルクの言葉に、胃袋が盛大な音を立てた。