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    billlllbe

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    billlllbe

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    バータースムォッチ星。
    どことなく美味しそうな名前の星には、バータースムォッチ星人が住んでおり、何百年も前に地球にやってきたことは有名な話だ。
    友好関係を結ぼうと相手方はこちらにお伺いを立ててきたが、実質選択肢なんてない。
    無駄に足掻いてもなんだかよく分からないでっかいマシンでちゅどんとされたら跡形もなく地球が木っ端微塵になることを、昔のお偉いさんたちが察した。

    地球はあっという間に銀河連邦の犬になった。

    地球の公用語は宇宙共通語が主流となり、地球から見える空には遥かなる星々、月、太陽、そして宇宙ステーションとなった。
    それからというもの地球は銀河連邦に名を連ねる星々と、結構上手くやっている。
    なんと言っても地球を最初に発見したとあるバータースムォッチ星人が、地球人のとある男にベタ惚れゾッコンで、そのバータースムォッチ星は銀河連邦でもかなり強力な立場だったもので、その辺の兼ね合いとかでまあなんか良い感じに上手くやっているという訳だ。
    地球人は数いる宇宙人の中でもかなり軟弱でふにゃふにゃな生物らしく、過保護はバータースムォッチ星人たちは地球人を銀河連邦の保護生物対象とした。
    あらゆる危険からの排除と干渉を銀河連邦の法律的なやつでどうにかし、地球のもつ理想的な景観を保ち(これは歴史的に後退したと言ってもいい。例えば、伝統的な日本家屋が増えたとか)、地球人は安寧を手に入れて元から長寿の素質があったのか様々な科学技術によりメキメキと平均寿命を伸ばし続けている。
    なんでもロボットがやってくれる時代となったが、程良い労働と休暇、自由に使える個人的な財源。
    しかし、野心や根性があれば勉強して稼げる風潮で、知能数も昔からほとんど変わっていない。
    地球人はふにゃふにゃのままなんの不自由もなく生活しているのが現状だ。

    その恩恵に与りまくっている地球人の男、河原木景もなんと今年で30歳。
    三十路に突入してアラサーとは若干言いづらくなったお年頃。
    そんな俺ですがなんとこのハイテクノロジーの世の中にも関わらず出会いがない。
    まじでない。
    この歳にして童貞だ。
    バータースムォッチ星の方々は何かと地球に目をかけてくれて、俺たちの乏しい知能でも理解できるような機器の開発に日々精を出しているが、その中の一つがそう、地球人でも理解できるマッチングアプリだ。
    ありとあらゆる星との交流が可能となった昨今。
    このマッチングアプリさえあれば地球人に限らずマッチング度の高さで異星人ともお付き合いが成立する世の中。
    俺のこれは割と危機的状況だ。

    「……え〜、今日のマッチング度の高い相手は……」

    朝起きてまず確認するのが、マッチングアプリからオススメの相手を紹介してくれる機能。

    「20、19、17…………MAXで20かぁ……」

    これが年齢の羅列だったらどれほど良かっただろう。
    なんとマッチング度のパーセンテージを俺は確認しているのだ。
    弟は登録してすぐに90%の相手を見つけて即お付き合いして結婚したし、親友に至っては95%の相手を見つけて即お付き合い結婚、親だって略。
    そう、このマッチングアプリは利用率が高すぎてほぼすべての星の成人は登録している。
    そのため登録したらすぐに相性の良い相手が出てくることが多い。
    もしくは数年待てばまだ見ぬお相手も成人して登録し、相性の良い相手として紹介の流れが主流だ。
    平均結婚年齢は20歳前後。
    基本的に結ばれる相手との相性は90%超えが当たり前。
    歳は離れすぎることも早々ない。
    90%超えの相手と実際に会ってみると、まるで運命の相手とようやく出会えたように感じるという、魔法みたいなアプリ。
    これは実体験がわんさかいる。
    バータースムォッチ星開発のマッチングアプリは相性の精度が極めて高いらしい。
    そんなマッチングアプリで捻り出した相手も今日は20%が限界ときた。
    一番良かったのは35%だった地球人の女性。
    一縷の望みを賭けて会ってみたが、やはり35は35。
    食事会は30分で終わった。
    何もアプリだけが出会いではないと、機械に頼らずなんとか漕ぎ着けたお付き合いもすぐに破局した。
    キスすらできなかったのはなんとも悲しい思い出だ。
    理由を聞いてみれば、なんでも「においが無理」とのこと。
    なんじゃそりゃ、と自分の服をクンクンしてみたけど自分で自分のにおいが分かるわけもなく、近しい相手に聞いてみても臭くはないという、摩訶不思議な現象によりその一度のお付き合いは即終了した。
    何年も良い相手が現れないというのもあるにはあるが、稀な例だ。
    あまりにも悲しい現実に、もはや俺は諦めの境地に達していた。

    俺の運命の相手はこの世にはいない。

    地球人よりも知能が断然格上のバータースムォッチ星人が作った、特別なアプリでもないものはないのだ。
    仕方のないことかもしれない。
    ああ。

    「……バタースコッチ食べたい」

    ☆☆☆

    9月18日の今日は敬老の日だ。
    はるか昔より年寄りに感謝する日で、例にも漏れず俺もその日だけはと祖父母の家に行こうとしていた。

    ルーティンと化しているアプリを起動させて今日のオススメの相手を見る。
    寝ぼけ眼でパチパチと瞬きをした。

    「……は?」

    『マッチング度100%! 運命の相手間違いなし! おめでとうございます!』

    一瞬見間違いかと思ったが、やけにポップな調子でクラッカーが舞い天使が舞いハートまで舞っていて、ド派手な演出と効果音に現実だと認識する。
    相性100%の相手がそこには映し出されていた。

    「……バータースムォッチ星人だ」

    そう、俺の相性100%の相手はなんとかの有名なバータースムォッチ星人だったのだ。

    ☆☆☆

    「ええ?! バータースムォッチ星人?!」
    「しかも相性100%?!」
    「にいちゃんにもとうとう……春が?!」
    「あれぇ〜めでたいねぇ」
    「今日はお祝いだな」

    上から両親、弟、祖父母の順に感想をいただいた。
    敬老の日だからと祖父母の家に勢ぞろいした我が家に、俺はアプリで相性100%だった相手がバータースムォッチ星人だったと話したのだ。

    「名前は?」
    「バスター・バータースムォッチくん」
    「くん? 男なの?」
    「プロフィールにはオスって書いてあるね」
    「今どこに住んでるの?」
    「バータースムォッチ星だって。あ、でも近いうちに地球に用事があるとかで、半年後くらいにこっち来るらしい」
    「はぁ、またなんていうか、タイミングがいいのねぇ」

    家族からの質問責めに、俺はアプリに表示されているプロフィールを見ながら答えていく。
    アプリ内でのトーク履歴には簡単な挨拶と半年後に地球に行くからその時に会わないかと言った内容で、俺はそれに了承した形でとりあえず会話は終わっていた。

    「年齢は?」
    「18歳だって」
    「若いな。そういえばバータースムォッチ星人ってめちゃくちゃデカいんじゃなかったっけ……?」
    「あー身長200センチだって。書いてある。体重150キロくらい、らしい」
    「規格外すぎる!」
    「……あんたそれ大丈夫なの? アプリ壊れちゃったんじゃないの?」
    「大丈夫、ではないかも……」

    そうなのだ。
    俺は地球人の平均身長に満たない165センチしかない上に力仕事にも向かない貧弱中の貧弱だった。
    彼と並んでも大人と子供に見えること間違いなしだ。
    しかし、中身は30歳のおじさんだ。
    彼はものすごく若い。
    バータースムォッチ星の成人年齢は知らないが、たぶん18歳で成人なんだろう。
    成人したから登録してみましたと伺える。
    相性どうのこうのの前に軟弱でふにゃふにゃの地球人で、行き遅れた余り物のうえ包容力の欠片もなさそうな男だと知って嘆いているかもしれない。
    なんて可哀想なんだ……と彼がとても哀れに思えた。
    そして、彼を可哀想だと思う理由は、俺が彼に気後れする原因の根幹となっていた。

    ☆☆☆

    それからアプリを通して他愛もない会話を積み重ねた。
    半年は短いようで結構長くて、その間に彼ことを知った。
    初めて通話したときは柄にもなく緊張したが、それは向こうも同じだったようで沈黙もあったがなぜだかそれも心地よく感じたのがもはや懐かしい。
    これが相性100%か……と謎の実感があった。
    そして、なんと彼はバータースムォッチ星の中でもかなり強い家柄の出身だったらしく、地球にもバータースムォッチ星からの外交官としてしばらく勤務する予定なのだという。
    半年はその準備と移動期間だった。
    18歳の若さで外交官とは恐れ入る。
    しかしバータースムォッチ星人の知能を考えれば訳ないのかもしれない。
    彼らのことはいまだに謎なことが多い。

    ただ彼のかわいらしい一面も、アプリでの会話から伺えた。
    地球人には程良い労働が努力義務とされていて、俺は観光客向けのカフェで働いている。
    その仕事着が和服なのだと彼に伝えたら、仕事着が見たいと言ってくれたのだ。
    おじさんの自撮りなんか見ても楽しくないだろうなーなんて思いながら、職場の姿見で簡単に撮った画像をえいやと送りつけたことがあった。
    これでも相性100%の相手に浮かれているおじさんなのだ。
    その返信ときたら『かわいい』『似合ってる』『地球に行ったときも着てるところが見たい』と怒涛の通知で、思わず顔が赤くなった。

    『あなたの仕事着姿があまりにもかわいくて何時間でも見れそうです。また違う画像を送ってくれませんか?』

    和服と言っても普通に突っ立って撮ったものだ。
    何も面白いものはないし、なんなら顔だって隠れてたせいか追加のおねだりが来た。

    浮かれたおじさんはなんだってやっちゃうのだ。

    和服が珍しいなかもしれないと後ろ姿を四苦八苦しながら撮って送って、なけなしの顔がしっかり写っている自撮りも、少しでも若く見えるようになんの努力をしてるのかと自己嫌悪しながらそれも送った。
    しかし、即レスが通常の彼からしばらく返信がなかったのだ。

    (……引いたかな)

    少ししょんぼりしながらも落ち込んでる暇もなく始業時間になり、慌ただしく一日を終えた。
    それから帰宅しても返信はないまま、就寝の時間になった頃。

    ──ポコン

    マッチングアプリからの通知にすぐ端末を起動させて、緊張しながら内容を確認する。と。

    「……へ?」

    『すごく良かった』

    たった一言、それだけの内容だった。

    「すごく良かった……? 良い……? な、何が……? 過去形だな……何が良かっ……」

    これはまさか、おかずにされたのではないか、いやまさか。
    彼は今地球に向かう機内にいて、割と暇だと言っていた。
    若いし時間もあるし溜まるものは処理するよなぁ、とふと思ってしまったのだ。
    行き当たった可能性にいやいやまさかと茹る頭に手で風を送る。落ち着け、落ち着け。

    「そ、れ、は、良かった、です。と……」

    ひとまず当たり障りない返信をすると、またしばらくして通知が届く。 

    「……ひぇ……」

    薄目で確認したトーク画面は思ったよりも長い返信だった。

    『いずれ伝えようと思っていたのだが、良い機会なので。
    我々バータースムォッチ星人は、地球人よりかなり性欲が強い。
    そのせいで引かれてしまうことを恐れていて、伝え損なっていた。
    申し訳ない。
    それなりの覚悟が必要だと思う。
    どうか引かないでほしい。
    あなたはとても魅力的だ。
    怖がらせたくないから、良ければこれからも画像を送ってくれないだろうか?
    自制する努力がしたい。
    よろしくお願いします。』

    ドッ、と心臓が強く脈打った。
    明らかに抜いてました〜って内容だし、全然良い機会がどんな機会かも分からないし、覚悟が必要ってどういうことなの? とか、いろいろ言いたいことはある。
    あるが。

    「……わ、か、り、ま、し、た」

    寝巻き姿の冴えないおじさんの画像も添えておやすみの挨拶をして端末を閉じた。

    長文の返信からバスターくんの誠実さが伝わってきたのと、か弱い地球人を大事にしたい気持ちが伝わってきたのと、若いっていいなかわいいって言うのとで、いろいろぐちゃぐちゃになりながらバクバクの心臓のままベッドに潜る。

    若い子に気後れしてる冴えないおじさんだけど、相性100%の相手に浮かれてるおじさんでもあるので。
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