デキてる村米村の卒業式の日の話「明日からは学校来ても鋼さん居ないんすよねー」
「そうだな。でも今までも、校内ではあまり会う機会なかっただろ」
まーそうなんだけど。恋人が同じところにいるのといないのとじゃ、気持ちがちげーじゃん?
「外で体育やってる鋼さんとかもっと見たかったなー」
「なんだ、見てたのか」
「見える範囲に鋼さんいたら見るに決まってるじゃないすか!てか鋼さんも、オレが体育の時見てましたよね?何回か手振ったし振り返された覚えもあるんすけど」
「あーまぁ……おまえが見えたら、見るに決まってるだろ」
「っすよね!そういうの無くなんのも寂しーなー」
野球やってる鋼さんも、サッカーやってる鋼さんも、マラソンやってる鋼さんも、体育祭の練習してる鋼さんも、全部教室から見てた。最初の頃は、これ鋼さん手抜いてね?絶対そんなもんじゃねーだろ、って感じるような授業態度だったの、今思えば昔のこと気にしてたんだろーな。昔の話を聞いたのは付き合ってからだから、その頃はまだ全然知らなかった。途中から急にやる気出した感じだったから、多分3-Cの先輩たちにぶん殴られたか、話を聞いた荒船さんにぶった切られたか。「授業だからって手ェ抜いてんじゃねーよ!」って言われてたじたじになって「わかった、わかったから!」って返す鋼さんが簡単に想像できる。
「……おまえ、オレが居ない方が真面目に授業聞けるんじゃないか?」
「げっ、鋼さんまでそういうこと言います?」
「おまえの成績を心配してるんだ。まぁ、寂しくなるのはオレも同じだから、そのぶん家に遊びに来てくれると嬉しい」
「もちろんすよ!一人暮らしいーなー、最高じゃん」
今まで鈴鳴支部に住んでた鋼さんは、先週から一人暮らしを始めた。どんなところなのかは知らない。予定が合わなさ過ぎてまだ行けてないし、引っ越しの手伝いすらできなかった。来客第一号の座狙ってたけど、まぁしょうがない。
「何もかも自分でやらないといけないから、慣れるまでは結構大変だな。支部のみんなの有難みを感じたよ。……すまない、今日は呼ぶ時間取れなくて」
「いやいや、今日はしょうがないですって!でも絶対近いうちに行きますからね。もうそのまま一緒に住んじゃおっかなー」
「いいぞ、一緒に住むか?」
「なーんて、……え?」
「実は、米屋が来ても大丈夫なように、一部屋余分にあるんだ」
「は?」
「そのつもりで部屋を決めたからな。なんだったか……2DK?」
「ま、まじで……?」
なに、鋼さん、用意周到っつーか、気が早いっつーか、え、オレと別れる可能性とか一ミリも考えてねーの?いやオレは別れる気ねーけど、お互いまだ十代だぜ?特に鋼さんはこの春から大学生だから出会いの機会が増えるだろうし、今の時点でそこまでオレに縛られなくても……いやオレは別れる気ねーけど!
「こ、鋼さんてば、同棲する気満々じゃないすか。もしかしてオレ今プロポーズされてる?」
「そうだな」
「えっ……えっいやちょっとまって」
「おまえが高校卒業したら一緒に住んでほしいし、籍入れてもいいなと思ってる。籍というか、今はまだ同性同士はパートナーシップしかないからそっちだな。なんだったらもっと広いところに引っ越してもいいし、犬が飼いたいならペット可のところでも」
「ストップストップ!!めっちゃグイグイ来るし超早口じゃん!」
「っ、悪い。……あー、一緒に住むかどうかは置いといて、とりあえず合鍵は渡すつもりでいるから。もし予定合わなくてもいつでも来てくれ」
「まじすか。いいんすか。そんなこと言われたら調子乗って毎日行っちゃいますよ」
「そうしてくれたら実質同棲だな。楽しみにしてる」
「いや流石に毎日は無理なんで期待しないでください!あ、でもこれ、オレが鋼さんのこと出迎える可能性もあるってことすよね。……鋼さんおかえり!ご飯にする?お風呂にする?それともオr」
「ん、電話だ。……もしもし、穂刈?」
「ちょ、穂刈先輩空気読めって!」
別れる気はなかったけど、同棲とかパートナーシップとかは全然頭になかったな。てかもうほんとに実質プロポーズじゃん。毎日鋼さんに会えるんならまじで毎日遊びに行きてーな。高卒でとかだいぶ早い気もするけど、いいなそれって思っちゃうくらいには鋼さんのこと想ってる自覚はある。
「そろそろ降りてこいって。行ってくるよ」
「りょーかいっす。引き留めてすいません、どうしても鋼さんには直接言いたくて」
「わざわざありがとう。ホームルームの時間とか大丈夫か?」
「オレ一人くらい居なくても大丈夫すよ!」
「それはオレとしゃべってる場合じゃなかったんじゃ」
「まーまーまー。ほら、打ち上げ楽しんできてくださいね」
「あ、あぁ」
「じゃあ改めて」
鋼さん、卒業おめでとう!
……みたいなやつが書きたかったんだけどどうしてもセリフばっかになっちゃって無理。ほんと無理。
あと色々端折ってるんだけどこういうのってどこまで書けばいいの?卒業式終わって三年生が解散した後、待ち伏せてた米屋くんが鋼くんを引き留めて、階段の踊り場とか空き教室とかでしゃべってるんです、とか。「ちょ、穂刈先輩空気読めって!」が穂刈に聞こえてて『これでもだいぶ読んでやったんだ、空気。いつまでしゃべってるんだ、鋼は。置いていくぞ、早くしないと』って鋼くんに言ってる、とか。
もーなんもわからん。なんもわからんけど村米村幸せになってくれ。
「プロポーズは、改めてするよ。一年後くらいに」
「まって」
「ははっ、顔真っ赤になってる」
「~~ッ、ほ、穂刈先輩が呼んでんでしょ!早く行きなって!!」