久しぶりに二人で会うやつ学校の玄関でみんなと別れて、携帯を開く。下で待ってる旨のメッセージを送ると、すぐに『了解』とだけ返ってきた。素っ気ない返事にも見えるけど、鋼さんらしくてオレは好き。
にやける顔を隠そうと、既に空っぽの紙パックジュースのストローを咥えたりしてみるけど、あんま意味ねーな。今目の前を通ってった仁礼に「顔にやけてんぞ!」って言われちった。
だってしょうがねーじゃん?テスト期間に入ってから個人戦もデートも一切してねーし、当然追試付きだから一ヶ月はまともに会えてない。学校でたまにすれ違うくらい。
まぁ、勉強しないオレが悪いんだけど、これはもうどうにもなんねーだろ?無理なもんは無理。
……なんて考えてたら、オレを呼ぶ声が聞こえた。鋼さんだ!
「米屋」
「鋼さん!お疲れ様です〜〜」
「お疲れ。すまない、ホームルームが長引いて……」
「そんな待ってないから大丈夫すよ!」
「そうか」
ジュースのパックをゴミ箱に投げ入れてから、並んで外へ出る。ヤバイ、これすげーにやける。鋼さんに会えたの、嬉しい。会えなくてもメッセージのやりとりは毎日してたのに(おはようおやすみだけみたいな日もあったけど!)、ちゃんと会うってだけでこんなににやけちゃうかオレ~~~。
てか鋼さんちょっと息切らしてんの、ホームルーム終わってすぐに走ってきてくれたんだと思うと更に嬉しい。
にやけ顔を隠す術はさっき捨てちゃったけど、鋼さんの前だからそもそも隠す必要なんてない。
「おまえ楽しそうだな」
「そりゃーだって久しぶりに鋼さんに会えたんすもん!」
「昨日も移動教室のときにすれ違ってるだろ」
「そうだけどそれとこれとは別ですって~」
そういう鋼さんも、いつもより表情が柔らかい。鋼さん、クールに見えて実はめちゃくちゃ表情豊かなの、可愛くね?
「なんも決めてなかったけど、どっか行きたいとかなんかしたいとかあります?」
「そうだな、ハンバーガー食いに行かないか」
「鋼さんもパン食べたいって思うんすね!」
「どういう意味だそれは」
だって好きな食べ物白米とざるそばって言うから、パン……小麦粉系はそこまでなのかなってなるじゃん?
「別に、普段から普通に食べてるだろ。昨日もみんなでカゲんところに行ったしな」
「はは、確かに!てかいーなー、オレも鋼さんとしょっちゅう飯行きてー」
「誘っても来ないじゃないか」
「そのメンツに混ざる気ないんすもん」
「ははは」
あの人たち、一つしか違わないのにすげーガラ悪ぃじゃん。ちょっと近づき難いときあるもんな。まぁ、鋼さんもそのうちの一人なんだけど。常に眠そうで目細めてるのが目つき悪く見えて、真顔で黙ってると意外と怖かったりする。瞳も、何考えてんのかどこ見てんのかわかんない、らしい。それはオレもよく言われるけど!でも鋼さんてこう見えて表情豊かで(以下略
「でもほんと、鋼さん不足でそろそろ死にそうだったんすよ」
「そうか。じゃあ、うちにするか?」
「え、いいんすか、まじ?ハンバーガーは?」
「パンより米の方が好きだからな」
「はぁ? ……うはは!!ちょ、鋼さんそれはだめっしょ!しらけるって!」
「んふ、そういう割にすごい笑ってるじゃないか」
「笑うしかないっしょ!もーー」
最高!
鋼さんの腕に抱きつくと、鋼さんの手がオレの手を掴んで下に降ろし、指を絡めてきた。人前で手を繋ぐことはあんまねーけど、今日は久しぶりのデートだからテンション上がっちゃってる。オレも、多分、鋼さんも。つーか自分から誘って手も繋いできたのに照れてるの可愛いすぎじゃん?顔も耳もほんのり赤くなってる。鋼さんて肌白い方だから、わかりやすいんだよなー。
……と、繋いでる手にきゅ、と力が入れられ、色づいた顔がこっちを向いた。
「オレも、米屋不足で、どうにかなりそうだった。……早く二人きりになりたい」
うわぁ、上目遣いでこれは反則でしょ!