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    yoshida0144

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    yoshida0144

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    葉流圭
    はじめての次の日

    木漏れびと月光 目を開けて最初に見えたのは部屋の真ん中に鎮座するローテーブル。一瞬ぼんやりして腕の中に抱える温もりに気づいて昨夜何があったかを思い出した。身動ぐ愛しい男の耳元に口を近づけて囁く。
    「まだ暗い。寝てていい」
    「ん……」
     小さく漏れた声のあとすぐに規則的な寝息が聞こえ出した。時計の針は朝の5時少し前を指している。

     昨日初めて圭とセックスした。
    「家族旅行に行くことになったけど練習があるから俺は残る」
    「よかったら遊びに来る?」
    「いやならいいけど」
     こっちを見ないで早口で言う顔は首まで真っ赤だった。付き合い始めて3ヶ月。練習やら試合やらで忙しく、恋人らしいことができたのはまだ数える程度。いやなわけがなかった。
     同じ家に帰ってきておばさんが用意してくれた夕飯を食べて。それから俺の後に圭が風呂に入っていると兄貴から電話がかかってきた。
    『要くんちに迷惑かけるんじゃないぞ!あのDVDが必要なら1回帰ってこい』
     あのDVDとは圭が兄貴から借りているAV女優のシリーズものだ。必要なものか。DVDとはいえ女に圭を取られるなんて冗談じゃない。大体今夜は圭を脱がせるのだ。はっきりとは言えないから「いらないです」とだけ返事して電話を切る。そのタイミングで圭が風呂から上がってきた。
    「ごめん遅くなった。お兄様から?大丈夫?」
    「だいじょ……」
     ぶ。声は床に無様に落ちる。視線の先、ガッチリとは言わないけど鍛えられて綺麗に筋肉がついた足が大きめのTシャツから伸びている。湯上がりのせいかまだ湿っぽい。
    「暑いし、その、どうせ脱ぐからいいかと思って」
    「男らしいな」
    「それに、待たせちゃってるし……」
    「……うん。いっぱい待った。もう」
     待てない。
     手を引いて2階の部屋に上がった。圭の部屋には小さい頃から何度も来たことあるのに、最中はずっと知らない場所みたいな感覚だった。

     髪に顔を埋める。そのまま深呼吸して圭の匂いを身体中に取り込んだ。いつもはじんわり安心する匂いが今夜は甘露のように甘く痺れる。同じシャンプーのはずなのにどうしてなんて聞くのは野暮だ。
     小手指に来てから世界は一変した。二人だけだった世界にヤマがきて藤堂がきて千早がきて。いつの間にかたくさんの仲間に囲まれて圭は毎日楽しそうだ。
    「俺すげえ恨み買ってるらしいじゃん?まじそういうのムリリンモンローなんですけど」
     花木と戦ったあとのある日、どこか遠い目をしてしょんぼりぼやいたことがあった。もらったデカいワラ人形を見つめながら。俺のもあるけど、という答えは全然慰めにならなかったらしい。
     ほとんど覚えてないけど昔はそういうこともあったかもしれない。シニアの頃の圭はいつだって気持ちを引き締めて強く逞しく過ごしてたけど、嫌われることが苦手なのはよく知ってる。小さい頃からずっと一緒にいたんだから。
    『陰口なんてずるくね!?あっちが先に殴ってきたのにっ』
    『大丈夫圭ちゃん?もう泣かないで』
     あの頃もこの部屋で布団を被って大泣きしていた。涙も鼻水もなんなら涎も垂らして。泣きすぎて頭がボーっとして、慰めているうちにいつも眠ってしまう圭。そのまろい頭をいつも撫でていた。起きたときにはケロッとして「あそびにいこ!」って笑ってた。
     笑った顔を見ると安心した。でも、言ったことないけど、頭を撫でながら泣いてる顔を見るのも好きだった。いや過去形じゃない。今も、好き。
     嫌われてるって言うけど実際はそんなことない。いつも隣にいたからわかる。好意、慈愛、憧れを裏返した嫉妬。憎らしく思ってる奴も圭の光に当てられて目を伏せているだけだ。その温もりに気づいたら求めずにはいられなくなる。手を伸ばしたくなる。
     そんな手から圭を遠ざけたかった。気づいてほしくなかった。圭はきっと優しく握り返してしまう。だったらこのままでいい。泣きじゃくって隣で眠って、起きたとき一番最初に笑顔を見られるのは俺でなければいけない。他の奴の隣なんて考えただけで虫唾が走る。圭は俺のものだ!
    「…………んん」
    「……」
     抱きしめている腕に思わず力がこもり、俺の中でむずがるように小さく唸った。すぐに力を緩めてそのまま髪を撫でた。夜の空気に触れて少し冷たい、でも柔らかい髪を一房手に取る。
    「おやすみ、けいちゃん」
     抱いても決して満たされぬ絶対の存在。どうかその全てが俺のためだけにあり続けますようにと思うこれは祈りか呪いか。わからないまま亜麻色の髪を静かに喰んだ。
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