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    しおん

    🪄(ブラネロ|因縁|東と北)

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    しおん

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    芸能人パロ|若手実力派コンビ〈盗賊団〉のネタ作り担当のネロが突如「解散」を言い渡し、ブラッドリーの前から姿を消すものの思いがけないところで再会する話。

    ⚠︎含まれる要素|中央主従(芸人)、縁ある二人(芸人)、同じ視点で見ていた(アイドル)

    #ブラネロ
    branello

    再再再解散 日頃の猫背が嘘のように姿勢がよく、やけに真面目な面で切り出すものだから、なるほど次はそのネタでいくのかと思った。惜しくも逃したグランプリの優勝を引き摺っていない。次の目標、新人コンテストに向けてすでに思考を切り替えているようだ。
     やや意外に思ったが、嬉しかった。ブラッドリーの相方は何かと引き摺る性質だ。これまでのこいつならあと二日は落ち込んでいる。いい変化だと密かに喜んだ。
     ネタ決めの際、大まかなテーマはブラッドリーが決めるが、細かく設定を詰めていくのは相方の仕事だった。だからコンテストで敗退すると、「俺のネタがいまいちだったから」と無駄にへこたれる。馬鹿馬鹿しい。本当にいまいちだったら採用しない。そもそも、こだわりの強い相方が妥協したものを客に見せるわけがない。ブラッドリーがオッケーと言ったものであっても、どこか引っかかるときは延々と唸って作り直すやつなのだ。
     打ち合わせの時点でブラッドリーが指摘するか、本人が「ここが弱いよな」と自ら欠けている部分を口にする。時にはそれなりに激しく言い合いながら、推敲を重ねていく。要素を足したり引いたり、煮詰まってどうにもならないときは街をぶらついて気分転換したり、思い切って一からやり直してみたり、あらゆる手を尽くす。そうして互いに「完璧だ」と納得するに至ったものを披露しているのだ。いまいちなはずがない。
     第一、連続して準優勝している時点で世間的評価も十分高いのだ。しかも負けは負けだが今回も一票差。審査員たちのコメントはどれも褒めるものばかりで、「最後までどっちに投票するか迷った」と数人がとことん悩み抜いた表情で白状していた。
     採点する側にも苦悩はある。優勝者の発表後、げっそりした一人が「もう来年は審査員辞退したいです」とぼやいてひと笑い起きた。あれは結構本気で言ってるな、とブラッドリーは思った。真面目で公正、ネタの細部までじっくり見て評価する繊細なタイプにとって、自分の票が他人の人生を左右する事実が重すぎるのだろう。
    「ブラッド、聞いてるか?」
    「聞いてる、聞いてる」
     不服そうな声に、ひらりと軽く手を振って応じる。固い面持ちの相方を正面から見据える。数滴ほど青空を垂らした琥珀色の瞳が揺れる。
     アレンジの幅があまりないような思いつきでも、かなりぼんやりとした提案であっても、こいつは与えられた題材をいつだってうまく調理する。ライブ用。テレビ用。大会用。「こういうのはどうだ?」のひと言を投げれば「じゃあこんな感じは?」と即座に返ってくる。その出来は常にブラッドリーが想定した以上の出来のものだった。
     輪郭さえ曖昧だったものが、あっという間に形を作られていく。それでいて流行りや無難な内容に逃げず、自分たちの色を最大限に活かしたネタに仕上げるからこいつはすごいのだ。滅多にない才能だというのに、本人だけがそれを自覚していない。
    「俺は……本気だから。何言われてもあんたに譲るつもりはない」
    「おう」
    「……おう、って……それ、どういう返事だよ。いいってこと?」
     投げやりな口調で相方が問うてくる。何がそんなに不安なのか、膝の上で祈るように両手を組んでいた。足元に視線を貼りつけている相方を眺め、ブラッドリーは感慨深く自分たちの芸人生活を振り返る。まあ、振り返って浸れるほど長年組んできたわけではないのだが。
     相方とは幼馴染で、付き合い自体は長い。小学から大学まで同じところに通い、複数の内定を蹴って半ば強引に幼馴染をこの道に引き込んだ。最初は猛反対された。「おまえ引く手数多なんだからノリで芸人なんか目指すなよ!」「やるならせめてアイドルとか俳優とかだろ!」と親兄弟よりも煩かったが、ブラッドリーは粘り強く説き伏せた。
     ピンでやっていくつもりは毛頭ない。一人でやっても成功はするだろう。でも、こいつが居ればもっとすごいものが見れるはずだ。もっと上にたどり着くはずだ。
     堅実に生きたがるこの幼馴染を、ブラッドリーはどうしても相方にしたかった。こいつでなければ意味がないので、それはもう必死だった。「いいから『はい』と言え」と迫り続け、ついには「はいはい……わかったって」と幼馴染が渋々折れてくれたときは本当に嬉しかった。
     入学した頃は心底嫌そうにしていた幼馴染も、次第に熱が入ってきて、周囲から手当たり次第に技術を盗んでいった。雑にこなしていた課題に対して丁寧に向き合うようになり、全部ブラッドリーの思惑通りだ。こいつは頑固なので初めこそ手こずるが、説得できればこっちのものだった。凝り性の幼馴染は何かを作ることに抜群の適性がある。いつの間にかいきいきとネタ作りに取り組み始めているのだった。
     養成所に主席で卒業する頃には、すでに名が知れ渡っていた。
     コンビ結成から順調も順調、瞬く間に人気が出て大勢のファンがついた。揃って派手なビジュアルをしているのもあり、出待ちの数も相当なものだ。相方には「やるならアイドルとかにしろ」などと以前言われたが、若手の美形漫才師なんてアイドルとそう変わらないのかもしれない。
     実際、ブラッドリーたちがこなしている仕事には、モデル業や俳優業のものが多い。芸人としては全く求められていない……と、いうわけではないのだが、どうもタレント的な立ち位置になりつつあるのは感じる。
     若手漫才師に仕掛けられがちな過激なドッキリやきついイジりなどとは無縁で、寧ろ人気俳優にするようなちやほや具合だった。よくも悪くも他の同業者たちと同じようには扱われない。漫才をする機会は少しずつ減って、バラエティ番組で「こいつとは幼馴染で……」という話を何度もさせられたり、ドラマの出演オファーが次々と舞い込んできたり、とにかく本業以外の仕事が増加傾向にあるのだった。
     世間は二人の新ネタよりもプライベートに興味津々で、何気なくSNSに投稿したオフの写真が大反響を呼んだ。あれは本当に何事かと思った。〈仲いい〜〉〈お休みの日も一緒なんですね!〉〈めっちゃかわいい〉といったコメントがずらりと続く。相方と写っているのがファンにとっては相当嬉しいらしい。
     熱心に追いかけてきてるやつらの情熱にたまには報いてやろうと思い、時折ツーショットを載せるようにしている。更新するたび素直にはしゃぐので、まあこれくらいはしてやるか、という気分になる。住んでいる地域や家が特定されないよう注意を払うのは面倒だが、その労力以上の効果が見込めるのだから構わない。
     相方の方はあまり乗り気ではなく、ライブ情報の告知以外はしたがらなかった。しかし出待ちのファンに「ネロさんはあんまりSNS好きじゃないですか?」と控えめに、暗に「ネロさんももっと更新してほしいです」と伝えられて以降、普段よく飲んでいるものや綺麗な景色、ブラッドリーの横顔なんかを淡々と投稿するようになった。
     これも仕事だと割り切ったのだろうか。それにしてはいつまでも不本意そうな、冴えない顔をしている。
     それが気掛かりではあったものの、仕事に追われるうちに忘れて、今の今まで声を掛けてやれなかった。我慢して我慢してついには爆発するタイプなので、SNSはブラッドリーの担当にしてやった方がいいかもしれない。後で持ち掛けてやろう。
     さて。
     先ほどから順風満帆だったと豪語しているが、紛れもなく事実なのだ。暗く狭い劇場の舞台に立つことはほとんどなく、階段を一気に駆け上るようにしてブラッドリーたちはすぐさま地上に飛び出した。
     未だにあの古びた小さなステージにしか居場所がない無名のやつらにすれば、突然現れて瞬きのあいだに消えた若手に思うところはあるだろう。当然だ。何年もこの業界の底辺で燻り続け、しかし立ち去ることもできずに地縛霊のようになっている連中だ。嫉妬なんて単純な言葉で片付くものでもない。
      ――顔ファンしかいねえくせに。
     すれ違いざまにそう呟かれたり、露骨に無視されたりと、まあ思いつく限りの幼稚な嫌がらせはひと通りされてきた。軽く一回り以上若い世代に陰湿なことをするのが、おまえらにとって最優先ですべきことなのか? 本当にそれでいいのか? まだ諦めてないやつらがどれだけ居るか知らないのだろう。同期のなかには、複雑な思いを胸に仕舞って連絡を取ってきたというのに。
     あるコンビ(ボケとボケ)は「ネタのダメ出しをしてくれないか」と頼みにきて、また別のコンビ(ボケとボケ②)は「毛色が違う私たちでツーマンライブをやってみませんか」と大胆に持ち掛けてきた。それぞれが限界まで足掻こうとしいる。悔しさもやるせなさも呑み込んだ眼差しは、濁ることなく真っ直ぐだった。全身に新鮮なエネルギーが漲っている。一人はやる気のなさを見てくれでどうにかカバーしているやつだけど。
     ふて腐れてこちらに当たり散らす老害は哀れだなと思うだけだったが、同期のスターに食らいつこうとするやつらのことは嫌いじゃなかった。そんな経緯で親しくなった芸人仲間たちは、近ごろ揃って頭角を表しつつある。
     ネタを見て相方と驚いたものだ。こいつらは運に恵まれなかっただけで、才能は十分に備わっている。どちらのコンビも、天然な性格が奇跡的に相方とマッチして独特の世界観を作り上げているのだ。大衆受けするかどうかは置いておいて、ハマるやつにはかなりハマるだろう。
     ――なあ、あんたたち最近ドラマばっかりじゃないか? そろそろ新しいネタが見たいよ、俺は。あ、もちろんコンテストの準備もあるし、忙しいだろうけど。
     ――私も私も! カインさんと同じ気持ちです。同期としてはちょっぴり悔しいけど、毎回「面白い!」って思わされちゃうんです。ね、ミスラさんもそう思うでしょう?
     ――はあ。まあ、好きにしたらいいんじゃないですかね。俺もこのあいだモデルの仕事したら、意味がわからないくらい知名度上がりましたし。何でもやってみたらいいんじゃないですか。
     ――私はミスラの意見に近いな。カインの言う通り、二人の新作はもちろん私も楽しみにしている。でも、先週が最終回だった、あの……訳あり探偵事務所のドラマは、最後までとても面白かった! 演技の仕事も素敵だと思ったよ。
     あれこれ注文をつけたりエールを送ったりしたのち、「準優勝おめでとう」と祝われた。「おめでとうでいいんですか? 残念でした会じゃなくて?」と言ったミスラの太腿をルチルがきつく抓る。
     ――もう、準優勝なんてすごいに決まってるじゃないですか! おめでとうで合ってます。
     ――でも、二番目だったの、これで三回目でしょう。いい加減優勝しないと、俺たちが先に一番になりますよ。
     ふんぞり返って宣言する相方に代わって、ルチルが申し訳なさそうに頭を下げる。「後できつーく言っておきますから!」と。ミスラの指摘は事実だったし、特に腹も立たない。今のところブラッドリーたちは無冠。悔しければ結果を出せばいいだけの話だ。ブラッドリーは相方の方を抱き寄せて、唇の端を持ち上げる。
     ――ふん、次のコンテストで俺たちが時代を変えてやるさ。なあ、ネロ。
     顔を覗き込んで笑うと、相方は目を伏せ、曖昧に微笑んだ。あの表情。今にして思えば妙だった。大きなことを言うブラッドリーに、小心者のあいつは怯んだのだろうとあの場では考えた。だけど、それにしては。それにしては何かが、引っかかる。恥ずかしがっていただけなら、構わないのだが。
    「もう一度言う。ブラッド、解散しよう」
     物思いに耽っていたブラッドリーの耳に、きっぱりとした声が届く。たちまち過去ではなく現在に感覚が戻ってくる。薄い唇を噛んで反応を待っている相方に、ブラッドリーはあっさり頷いた。
    「いいんじゃねえか?」
     瞬間、相方は目を見開いた。なんだその反応。自分から言い出した癖に「いいのか?」「本当だな?」と念を押してくるので眉を寄せる。
    「だから、いいって言ってんだろ」
    「……本当に、本当だな?」疑り深い視線を執拗に向けてくるのだった。「後からひっくり返すなよ」
    「ンだよ、しつけえなあ。何回も確かめんじゃねえよ」
    「だって……あんた、これまでずっと『解散はしねえ』の一点張りだったろ」
     今回は最悪、本気で殴り合うつもりだったから。ブラッドリーの相方、ネロは脱力したように息を吐いた。纏っていた固く張り詰めた空気がたちまちほどけていく。
     凪いだ面持ちで微笑まれた瞬間、ブラッドリーは自分たちの会話が噛み合っていなかったことに気づいた。すっかり寛ぎ始めたネロとは逆に、ブラッドリーの機嫌は急降下していた。清々しい表情の相方を信じられない思いで見つめる。
     妙に嫌な予感がした。ネロが癇癪を起こすのは今に始まったことではない。これまで通り宥めすかして、丸め込めばいいだけのこと。そう思うのに、てのひらに汗が滲んだ。
    「てめえ……何遍、同じこと言わせりゃ気が済むんだ。解散は絶対にしねえからな」
    「はあ?」ネロは瞬く間に剣呑な顔つきになった。「さっき、あんたも了承したじゃねえか。ふざけんなよ」
    「コンテスト用の新しいネタだと思ったからに決まってるだろうが。本気の解散話だってわかってたら頷かねえよ。何回もやったろ、このやりとり」
     強引に言うことを聞かせようとすると余計に頑なになるやつだ。上から押さえつけるより、甘えられるのに弱い。ブラッドリーはネロを片腕で抱き寄せ、猫撫で声を出す。
    「なあ、冗談でも言うなよ。寂しくなるだろ」
     切り札の「寂しい」を前にしても、ネロは今度ばかりは少しも揺らがなかった。それどころか殺気立った目で睨みつけてくる。
    「俺は冗談で解散を切り出したりしねえよ」
     ブラッドリーの腕を振り払って立ち上がると、「これまでもずっと本気で言ってた」とネロは絞り出すように言った。
    「ネロ、待てって」
    「あんたって、肝心な話は全然聞いてくれないよな」
     マネージャーにも軽く話してるから後はよろしく、と一方的に告げ、ネロは出て行った。二人で住んでいたマンションの部屋から。

     結果的に直感は正しかった。ネロは未だに帰ってこない。電話には出ないが、メッセージは内容次第では返信が来る。他愛のない話題なら返ってくるものの、ブラッドリーが本当に知りたいことには一切応じないので、どこで何をしているのかはわからない。
     仕方がないので一人でこなせる仕事だけ受けた。相方に関しては体調不良と濁し、モデル業や俳優業など、本業からは離れたものばかりを何も考えずにこなす。いつでもあいつが帰ってこれるように、芸能界で居場所を失うわけにはいかない。
     ようやく僅かながら時間が作れたので、ネロの捜索を行うことにした。目を瞑って候補を挙げていく。あいつが居そうなところ。突発的に家出したわけではなさそうだが、前もって準備が整っていたようにも思えない。荷物はほとんど二人で暮らしていた部屋に置き去りだし、一から家電を買い直して住居を整える気力がネロにあるだろうか。
     まずは一時的に信頼できるやつのところに身を寄せている可能性が高い。あいつは気が利くし料理が上手いから、「いつまでも居てくれていい」と喜んで迎え入れられているのは容易く想像がつく。どこかに居候しながら、こつこつと一人暮らしの準備を始めているのではないだろうか。
     しかし、ネロが頼るならあいつらか、と最初に見当をつけた二人は首を横に振った。世間的には「一時的に活動休止」ということになっているので、事情を知った今それはもう驚愕している。
    「そんなことになってたんだな……」カインはよほど信じ難いのか、腕を組んで唸っている。「あんたたち、仲がいいイメージしかないからなあ。喧嘩の弾みで、つい『解散』って言葉が口から出ただけじゃないか?」
    「私もそう思う」
     カインの見解に同調し、悔やむようにアーサーが俯いた。
    「……ひょっとすると、先日のお祝いが負担になってしまったのかもしれないな。純粋におめでとうと伝えたかっただけなのだが……ネロはひたむきだから、次こそは勝たなければ、と自分を追い詰めてしまったのだろうか」
    「俺も余計なこと言っちまったな……優勝逃したばかりで、本当は結構堪えてたのかもしれないのに」
     居場所に心当たりがないか知りたかっただけなのに、〈センター〉の二人はみるみるうちに元気をなくしていった。勘弁してくれ。ブラッドリーはカインとアーサーの頭を雑に撫でながら思う。俺は今、あいつのことで手一杯なんだよ。おまえらが気に病むことじゃないと言い聞かせてから、ブラッドリーはもう一つの心当たりの家を訪ねた。
    「ええっ! ネロさん、行方不明なんですか?」ルチルは口元を手で覆い、紅茶をテーブルに並べてから凍りついた。「それに、解散って……どうしてですか? 二人ならきっと、優勝だって何だって、できたはずなのに……」
    「ンなもん、俺が訊きてえよ」
    「あ……ごめんなさい……」
    「いや、てめえが謝ることじゃねえけどよ」
     あからさまに肩を落としているルチルを励ますため、「美味いなこれ」「どこの茶葉だ?」と大袈裟に褒める。するとほんの少し笑って、「お友達からもらったんです」と答えた。
    「SNSで知り合ったお友達で、この前初めてお会いしたときに頂いたんです。私が『美味しそう』って言ってたの、覚えてくれていたみたいで」
    「へえ? 気の利くやつだな」
    「そうなんです。ラスティカさんって言うんですけど、実はアイドルをされてる方で」素早くスマートフォンを取り出したルチルは、一人のアカウントを見せてきた。「まだ少し先の話だそうですが……新メンバーを迎えて、メジャーデビュー目前なんですって」
    「新メンバーって、どんな人なんですか」
     だらんとソファに寝そべっていたミスラが、突然割り込んできた。さほど興味なさげに「ラスティカとかいうやつは知りませんけど、もう片方のやつとは撮影の現場で会いました。確か、オーエンって言ったかな……何言ってるのかはよく分かりませんでしたけど、割とにこにこしてたし、アイドルに向いてそうでした」と言う。
    「それが、まだ発表されてないんですよね。ラスティカさんがとっても気に入って、是非、って勧誘したそうなので、きっと素敵な方だと思います」
    「ふうん」
     ミスラと揃って気のない返事をした直後、「あ!」とルチルが声を上げた。「ラスティカさんのSNS、更新されてます」と画面を見せてくる。
     三人のシルエットが並んでいた。ライトで調整されていて、顔は全く見えなかった。髪の色もよくわからない。全員背丈が同じなのだろうか。頭の位置が変わらない。それはそれとして、とブラッドリーは思う。この真ん中にいる男。
    「なんかネロに似てません?」
    「え? そうですか?」ルチルは目を凝らして画面を覗き込み、首を傾げた。「どの辺ですか?」
    「はあ。うまく言えませんけど、なんとなく」
     気怠そうにスマートフォンから離れたミスラは、ちらとブラッドリーを見つめた。
    「ブラッドリーはどう思いますか?」
    「……似てるような気もしなくはねえけど、さすがにこれだけじゃわかんねえだろ」
    「ああ、まあ、そうですね」
     ミスラにはそう言ったが、内心嫌な予感がしていた。そんなはずはない。元より俳優業やモデル業に積極的じゃない男が、よりにもよってアイドルグループに加入するわけがないのだ。
     でも体の線には見覚えがある。緩く首を傾け、腰に手を当てているこのポーズ。ただの偶然に違いない。違いないのだが、宣材写真でネロは全く同じポーズをしているのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
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    しおん

    DONE芸能人パロ|若手実力派コンビ〈盗賊団〉のネタ作り担当のネロが突如「解散」を言い渡し、ブラッドリーの前から姿を消すものの思いがけないところで再会する話。

    ⚠︎含まれる要素|中央主従(芸人)、縁ある二人(芸人)、同じ視点で見ていた(アイドル)
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     やや意外に思ったが、嬉しかった。ブラッドリーの相方は何かと引き摺る性質だ。これまでのこいつならあと二日は落ち込んでいる。いい変化だと密かに喜んだ。
     ネタ決めの際、大まかなテーマはブラッドリーが決めるが、細かく設定を詰めていくのは相方の仕事だった。だからコンテストで敗退すると、「俺のネタがいまいちだったから」と無駄にへこたれる。馬鹿馬鹿しい。本当にいまいちだったら採用しない。そもそも、こだわりの強い相方が妥協したものを客に見せるわけがない。ブラッドリーがオッケーと言ったものであっても、どこか引っかかるときは延々と唸って作り直すやつなのだ。
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    そして何より、特筆したいのはリケの腕を振り解けないボスですよね…なんだかんだ言いつつ、ちっちゃいの、に甘いボスとても好きです。
    リケが、お勤めを最後まで果たさせるために、なのかもしれませんがブラと最後まで一緒にいたみたいなのがとてもニコニコしました。
    「帰ったらネロにもチョコをあげるんです!」と目をキラキラさせて言っているリケを眩しそうにみて、無造作に頭を撫でて「そうかよ」ってほんの少し柔らかい微笑みを浮かべるブラ。
    そんな表情をみて少し考えてから、きらきら真っ直ぐな目でリケが「ブラッドリーも一緒に渡しましょう!」て言うよね…どきっとしつつ、なんで俺様が、っていうブラに「きっとネロも喜びます。日頃たくさんおいしいものを作ってもらっているのだから、お祭りの夜くらい感謝を伝えてもいいでしょう?」って正論を突きつけるリケいませんか?
    ボス、リケの言葉に背中を押されて、深夜、ネロの部屋に 523

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    cross_bluesky

    DONEエアスケブひとつめ。
    いただいたお題は「買い出しデートする二人」です。
    リクエストありがとうございました!
    中央の市場は常に活気に満ちている。東西南北様々な国から商人たちが集まるのもあって、普段ならばあまり見かけることのないような食材も多いらしい。だからこそ、地元の人々から宮廷料理人まで多種多様な人々が集うという。
     ちなみにこれらは完全に受け売りだ。ブラッドリーはずっしりと重い袋を抱えたまま、急に駆け出した同行者のあとを小走りで追った。
     今日のブラッドリーに課された使命は荷物持ちだ。刑期を縮めるための奉仕活動でもなんでもない。人混みの間を縫いながら、目を離せば何処かに行ってしまう同行者を魔法も使わずに追いかけるのは正直一苦労だ。
    「色艶も重さも良い……! これ、本当にこの値段でいいのか?」
    「構わねえよ。それに目ぇつけるとは、兄ちゃんなかなかの目利きだな。なかなか入ってこねえモンだから上手く調理してやってくれよ?」
     ようやく見つけた同行者は、からからと明朗に笑う店主から何か、恐らく食材を受け取っている。ブラッドリーがため息をつきながら近づくと、青灰色の髪がなびいてこちらを振り返った。
    「ちょうどよかった、ブラッド。これまだそっちに入るか?」
    「おまえなあ……まあ入らなくはねえけどよ。せ 1769