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    しおん

    🪄(ブラネロ|因縁|東と北)

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    しおん

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    現パロ⑨|なんとなく和解して、なんとなくもやもやして、なんとなく勢いで進展しそうな雰囲気の話。前回の続きです。

    #ブラネロ
    branello

    他に行きたいところもないしⅨ 髪に触れる感触がする。
     寝返りを打ったら誰かの体温が近くなった。昨晩の記憶の後半は途切れ途切れで朧げだが、確かカインが家まで送ってくれたような。あいつもかなり飲んでいたし、そのまま泊まっていったのだろう。鍛えてるとはいえ大変だったに違いない。朝食はせめて好物でも作ってやらなければ。
     毛先を梳くように撫でていた手が、不意にネロの背中に回される。体の向きが変わって髪には触りにくくなったのだろうか。不思議に思っていると、起こさないようにという配慮が滲む手つきで抱き寄せられていた。
     思わず、ふ、と口許が綻んだ。カインにしてはめずらしい、甘えるような仕草だ。普段から距離が近く、肩を抱かれることはしょっちゅうだが、こんなことは初めてだった。もしかしたらまだ寝惚けているのかもしれない。
     アルコールが残る体は重く、指先に力を込めるのも一苦労だ。少し動くだけで相当なエネルギーが消費される。目を瞑ったまま、この辺かなと見当をつけてのろのろと腕を伸ばす。横着したがとりあえず背中には届いた。子供に対してするように、とん、とん、と優しく叩いてやりながら、夢の底に片足が浸かったままで口を開く。
    「おはよ、カイン」眠気が揺蕩う声で、ネロは話しかける。「あんた、本当に送ってくれたんだな。大変だったろ。ごめんな」
     返事がないことに僅かな違和感を覚えたが、さほど気にすることなくネロは続けた。まだちょっと眠いから寝てていいか、起きたらあんたの好物でも作らせてよ。
     短い沈黙を経て、肩口に顔を埋められる感触に身を捩った。擽ってえよ、と笑おうとして固まった。ふわりと髪から香ったこの匂い。瞬間、瞼にのしかかっていた睡魔が嘘のように消え去っていた。靄で覆われていた思考が一気にクリアになる。カインじゃない。カインらしくないなと思うのも当然だ。いまネロに触れているのは全く別の男なのだから。
     往生際悪く眠ったふりをしようかとも考えたが、そんなことはお見通しだと言わんばかりに頬を軽く抓られた。さすがにもう腹を括るしかなかった。恐る恐る目を開くと、鼻先が触れそうな位置に見慣れた顔がある。
    「カインじゃなくて残念だったな」
     唇の端を持ち上げてブラッドリーが言う。揶揄うようなトーンだったが、あまり機嫌はよくないらしい。ロゼ色の瞳には微かな苛立ちや不満が燻っている。
    「……ブ、ブラッド……リーくん、なんで」
     状況に理解が追いつかなかった。ネロは視線を逸らし、必死に昨晩の虫食いだらけの記憶をたどる。
     店を出て、夜風に吹かれてふらついたところをカインに支えられた。それで確か、立ったまま眠りそうになっていたら、優しく抱き上げられたはず。「ネロは俺が送っていくよ」といった内容のことをファウストに話していたのも、なんとなく覚えている。ファウストが何故かそれを止めようとしていたような気もするが、この辺りで意識が途切れたようだ。ブラッドリーがいつ、どんな理由であの場に合流したのか、何度思い返してもわからない。
    「……え?」視界の端に見覚えのないものが映って、ネロはぎょっとした。「は? なん、あの、えっ……? ここ、どこ?」
     ブラッドリーの腕を振り解き、ネロは上体を起こした。呆然と室内を見渡して思う。俺の家じゃない。造りがまるで違う。ネロの家はオーナーから格安で借りているレトロモダンな一軒家だが、ここは明らかに新築のマンションの一室だった。すべてが真新しく、部屋はセンスのいい家具で揃えられている。
    「俺んちだよ」
    「ブラッド……リーくん、の……? なんで?」
     当然の疑問を口にすると、何故かブラッドリーは顔を顰めた。咄嗟に逃げようとすると、さらに機嫌を損ねた様子で腕を掴んでくる。
    「違えだろ」
    「……違うって?」
     心当たりがないネロはじりじりとベッドの上で後退るが、掴まれている腕を乱暴に引っ張られて再び距離はゼロに戻る。身じろぎするほどに拘束する力が強くなるだけなので、抜け出すことは諦めた。大人しく腕のなかに収まっていると、ブラッドリーは呟いた。
    「なんだよ、『ブラッドリーくん』って」
     ブラッドリーは大層気に入らなそうに睨みつけてくる。拗ねているような、それでいて寂しげな眼差しに狼狽える。
     こいつは俺のことを怒っているんじゃなかったか? ずっと無視されていたメッセージ。部屋の片隅に纏めたブラッドリーの私物。だだっ広いベッド。脳裏をさまざまな思いが過ぎる。あの悪戯は結局、許されたのだろうか。
    「ブラッドって呼べよ。昨日みたいに」
    「は、……はあ?」
     寝起きの頭では処理しきれない情報を必死に整理しているネロに、ブラッドリーが混乱に輪を掛けるような訳のわからないことを言い出した。咄嗟に胸を押し返し、首を横に振る。酔って記憶が全体的にぼやけているとはいえ、これだけは確信を持って断言できた。
    「呼んでねえって。ほぼ絶交みたいになってるやつに、そんな親しげにいけるわけねえだろ」こめかみを押さえ、ネロはぼそぼそと白状した。「ていうか、俺、昨日あんたと会った記憶ないし……」
     覚えていないなんて口にすれば、ブラッドリーはますます不機嫌になるだろう。覚悟を決めて身構える。が、ブラッドリーは意外なほど凪いだ瞳でネロを見つめるだけだった。
    「てめえは俺をそう呼ぶんだよ」
     妙な言い方だった。そう呼んだんだよ、でも、そう呼べよ、でもない。腕の力が抜けたのを見計らったように、ブラッドリーは再び抱きしめてきた。
    「ネロ」
    「……ブ、ブラッド……?」
     本当にこれでいいのか。合ってるのか。内心不安で堪らなかったが、ネロはおずおずと呼び返す。するとブラッドリーは「おう」と満足そうに笑った。ひときわ強く抱きしめてから、寝癖のついた髪に触れてくる。最近はまた伸びてきたままにしているので、小言を言われるかと思った。でも言われなかった。跳ねた毛先を撫でる手は優しい。密着する膚の熱さでまた心地よく微睡んできた頃、ブラッドリーは口を開いた。
    「次、同じことしたら殺す」
    「……もうしないって……」
     あ、まだ一応怒ってたんだな、とネロは思った。

     腹が減ったと言うので何か作ってやるかと思ったのだが、冷蔵庫がものの見事にすっからかんで立ち尽くした。こんな最新モデルの立派な型を購入しておいて、さすがにこれはない。いますぐ売り払っちまえと内心思う。
     しかし思い返せば、ブラッドリーはいつだってネロに作らせるばかりだった。キッチンには入り浸る癖に、何をするでもなく、皮を剥いたり刻んだり、焼いたり煮込んだりするネロを隣で楽しそうに眺めているのだ。……いや、味見は自ら進んでやりたがるし、指示すればカトラリーの準備もしているか。でかい図体して子供の手伝いのようなことをするので、毎回ちょっと笑いそうになるのだった。
     見られながら作業するのは緊張するし、あまり好きではない。でも邪魔だと追い出すことはどうしてもできなかった。時折、かちりと間近で視線が交わる瞬間があって、そのたびに言葉にならない衝動が体の芯を貫くのだ。「ん?」と機嫌よく首を傾げるブラッドリーを前にすると無性に泣きたくなる。嬉しくて。ここにこの男が居るのが、堪らなく嬉しくて仕方なくなるのだった。ブラッドリーがネロの生活に侵食するのと比例して、説明がつかない感情がこみ上げてくるようになっていた。
     大学生活の三年目、平穏な夏が終わって夜が長くなり始めた頃にブラッドリー・ベインと出会った。数合わせで嫌々ながら参加した交流会が初対面だ。そのはずだった。
     どの時代の卒業アルバムにも幼少期に親が撮った写真にも、ブラッドリーは写っていない。たったの一枚も。スマートフォンには交流会以降に撮ったものだけ。当たり前だ。まだ人生が交わっていなかったのだから。
     過去に一度でも遭遇していたなら覚えているに決まっている。あんな強烈な輝きを湛えているやつ、忘れたくても忘れようがないほど容易く眼裏に焼きついてしまうだろう。
     だからブラッドリーとはあの夜、初めて出会ったのだ。ブラッドリー・ベインはネロと、それ以前には出会っていない。それなのにブラッドリーはなんだか随分と昔からネロのことを知っているような口ぶりで話すし、かけがえのないものを見つめるような眼差しでネロを眺める。
     これまでの人生のなかにこの男が居た証拠は、どんなに探しても見つけられなかった。記憶を片っ端からひっくり返してみたところで、不在の証明が強固になる一方だ。それでも。ネロは閉じた冷蔵庫の前で唇を噛む。それでも、思うときがある。
     俺はあんたと、どっかで会ってるんじゃねえか? 俺が全部忘れちまってるだけで、あんた一人に何もかも背負わせてんじゃねえかな。あんたは何も言わないけど。
     気分を切り替え、ろくに使用された形跡のない綺麗なキッチンを出る。充電器からスマートフォンを外し、ソファでだらけているブラッドリーを見下ろす。
    「なあ。この辺、なんかある?」ネロはスマートフォンで近くにある飲食店を検索しつつ訊ねた。「……お、結構あった。あーでも時間帯が微妙だからな……開いてるとこ少ねえな。ファミレスでいいか?」
     朝食にしては遅く、昼食にしては早い。店内も空いているだろうから寛げそうだ。店の位置を記憶してスマートフォンを仕舞う。行こうぜ、と声を掛けようとしてぽかんとした。ブラッドリーはどういう訳か眉を吊り上げている。
    「な、なんだよ。ファミレスは嫌なら、ハンバーガーでも食う?」ポケットからもう一度スマートフォンを取り出し、ネロは慌てて別の候補を口にする。「それも気分じゃなかったら、コンビニで適当に買うとか。ちょっと歩いてもいいなら、なんかお洒落な喫茶店もあるけど……ぎりぎりモーニングメニューも間に合うし。あっ、このパン屋有名なとこじゃん。イートインスペースあるし、行ってみるか? ああでも、あんたはここに住んでるんだし……もう行ったことあるよな。それに、いまから行ったんじゃ確実に並ぶか……」
     スマートフォンの画面に指を走らせていると、焦れたようにブラッドリーが口を開いた。
    「カインには好きなもん作ってやるっつってただろうが」不服そうにソファの上で頬杖をつき、細めた目でネロを見つめてくる。「なんで俺にはそれが言えねえんだよ」
     ものすごく複雑な気持ちになった。「ガキみたいなこと言うな馬鹿」と「俺の飯がいいんだこいつ……」とが混ざって、どういう顔をしたらいいかわからない。ネロの沈黙を何やら悪い方向に捉えたらしく、本格的に拗ねてそっぽを向かれた。胸がうっとなる。この我儘野郎と思う一方、その我儘をどうにかして叶えてやりたい。ただ、物理的に無理なものは無理なのだ。
    「……そりゃ、作ってやりたいけどさ」
    「じゃあそう言えよ。ファミレスとか喫茶店とか言い出す前に」
    「冷蔵庫に何もねえし、調理器具も見当たらねえんだけど?」
     ネロは最新のシステムキッチンを指差しながら言い返した。モデルルームのように隅から隅までぴかぴかと光っているのは、日頃からこまめな掃除を欠かさないからではない。ちっとも使っていないからこそ汚れも傷もなく、当初の姿を保っているのだ。
    「いまから必要なもん全部買い揃えて、そこから作って……そんなに待てねえだろ」
     ぐ、と悔しげに黙り込んだブラッドリーに、だからいまはとりあえずファミレスで我慢しろよ、とネロは宥めた。
    「夕飯はあんたのリクエスト聞いてやるから」
    「……絶対だからな」
    「わかってるって」
     不承不承ながら頷いたブラッドリーをどうにかファミレスに連れて行くことに成功し、ネロはほっとした。目が醒めてからずっと驚き通しで体力が削られたのか、酷く空腹だったのだ。予想した通り店内はまだ客が少なく、広い席に通されて嬉しい。タッチパネル式のメニュー表を二人で覗き込んで次々と注文し、あっという間に平らげた。ドリンクバーのさして美味くないコーヒーを飲んで一息つきながら、ふと訊ねる。
    「あんたって割と舌肥えてるだろ。こういうとこの飯、大丈夫だったか? まあ、ダチとの付き合いで安い居酒屋とかも慣れてるかもしんねえけど」
     ブラッドリーは肩を竦め、穏やかに笑った。
    「単純でわかりやすい味つけも嫌いじゃないぜ。普段は騒がしいから入らねえけどよ、これくらい静かならたまには来てもいいかもな。それに、値段を考えりゃ上等だ」
    「そっか。なら、よかった」
     一瞬不安が過ぎったが、それを聞いて安堵した。リラックスしてコーヒーを啜っていると、ブラッドリーがそっと目を眇める。
    「晩には久々に美味い飯が食えるしな」
    「……そんなの」空になったカップを握ったまま、ネロは俯きがちに呟いた。「いつでも食いにきたらよかったじゃん」
     目を丸くしてブラッドリーは固まった。なんとなく気まずい沈黙が流れてしばらく経った頃、ようやくブラッドリーが口を開いた。心底呆れたような、それでいて愛おしむような、ひと言ではとても言い表せない表情を浮かべている。
    「あのな、俺はてめえに怒ってたんだよ。忘れたのか?」
    「忘れてねえけど……」
    「けど、なんだよ」
    「あんたに食わせてやるつもりでいろいろ買ってたからさ」ネロは毛先をいじりながら、期限が切れそうになっていた鶏を揚げていたときのことを思い返す。「俺のせいだけど、やっぱあんたに食べてほしかったなって。ベッドも広すぎて落ち着かねえし」
     片手で顔を覆ったブラッドリーは、盛大に溜息を吐いた。表情を隠したままぼそりと何かを言う。
    「え? なに?」
    「だから、悪かったっつってんだよ。ガキみてえな真似して」
     ネロが目を瞬かせて「別にあんたは悪くねえよ」と言うと、「ンなことわかってる」と返ってきた。じゃあなんで謝ったんだよと釈然としない気持ちは胸に秘め、だらだらと長居することなくファミレスを二人で後にした。空いているしもう少し寛いでもよかったのだが、ブラッドリーが早く店を出たがったのだ。もしかしたら大学に行くのかもしれない。
     そうだとすればマンションに荷物を取りに戻るだろうし、ここで解散するのが自然な流れだろう。日が暮れた頃に腹を空かせてうちに来ればいい。
     じゃあな、とネロは手を振ろうとしたが、ブラッドリーがマンションとは別の方向に歩き出したのでやめた。慌てて追いかける。スマートフォンでマップを確かめると、どうやら駅に向かっているらしいのがわかった。このままネロと一緒に帰るつもりのようだ。
     ずっと連絡を無視されていたのが嘘みたいだ。ブラッドリーが見せた激しい怒りや嘆きの理由には未だに思い当たる節がなく、何も知らずに傷つけ、何も理解していないのに許されてしまった。これでいいのだろうかと思わなくはないけれど、機嫌のいい横顔を眺めていると蒸し返す気にはなれないのだった。
     流れる景色を眺めているうち、あっという間にネロの家の最寄り駅に着く。スーパーであれこれ買い込み、他愛のない話をしながら歩いた。
     ブラッドリーが住んでいるマンションがある辺りと、この周辺では雰囲気が違う。ここはなんとなく時間がゆったりと流れるような、都会の喧騒から少し離れた穏やかなところだ。曖昧で緩やか。そんな柔らかな空気が漂う。
     電車で何駅か行った先にあるブラッドリーの生活圏を思い浮かべる。あそこはすべての輪郭がはっきりしているような感じがした。何もかもが明瞭で、確かだった。
     この男にはそういう場所こそしっくり馴染むのだろうけど、でもネロはこの街にいるブラッドリーも悪くないと思うのだ。本人がどう感じているのかは知らない。少しくらいは気に入っているのだろうか。半分住み着いているような状態になっていたくらいなのだから、ちょっとはそうであってほしい。
     玄関の鍵を開け、久しぶりにブラッドリーを家に上げた。靴を脱ぐところを眺めていると、嬉しいとも安堵ともつかない感情がこみ上げてくる。もう二度と来てくれないと思っていたので、なんだか妙に浮き立って落ち着かなかった。口にすれば揶揄われそうだったので、平然とやり過ごしたけど。
     連絡を絶っていた期間などなかったかのように、ブラッドリーはすっかり寛いでいた。勝手にグラスを出してアイスティーを飲み、気づけば庭に出ている。野菜にざぶざぶと雑に水遣りをし、大雑把ながらも世話をしている癖に「あんまり育たなくていいからな」と聞き捨てならないことを囁いているのだった。
    「駄目だって、ちゃんと育ってくれよ」
     と、ネロが庭に出て訂正すると、
    「こいつの言うことは聞かなくていい」
     と、あまりにもきっぱり言うので笑ってしまった。おまえに何の権限があるんだよ馬鹿。
     収穫したら大盛りのサラダを食わせてやるからなと密かに企んでいたら、不意に顎を掴まれた。ブラッドリーが真剣な目をしていたので、笑うのをやめて見つめ返す。無言で顔が近づいてきて、あ、くっつく、と思った瞬間、あっさり離れていった。何事もなかったようにネロから視線を逸らし、濡れて光る葉をいじっている。
     てっきりキスをされるのだと思ったので、全くもって腑に落ちなかった。何がしたかったんだこいつは。訳がわからなくて地面を睨みつけていると、「なんだよ」とブラッドリーが面倒臭そうに問うてくる。ネロが唐突に不機嫌になったかのような物言いだった。答えずにいたら顔を覗き込んできた。
    「あのなあ、黙ってちゃわかんねえだろうが。言いたいことあんなら言えって」
    「……俺が?」ネロは眉を寄せてブラッドリーを見た。「俺に何か言いたいことあんのは、あんたの方なんじゃねえの」
     反撃されるとは予想していなかったのか、ブラッドリーはわかりやすく狼狽した表情を浮かべた。いつも振り回されているのでいい気味だと思った。すぐに調子を取り戻してそれらしい言い訳をいろいろ口にしている気がするけど、耳に入ったそばからすり抜けていく。一つも残らない。
    「おい、聞いてんのかよ」
    「聞いてねえよ」
    「はあ?」
     ちゃんと聞けって、とブラッドリーは言うけど、ネロが知りたいことは一個も教えてくれないのだから、聞く必要がどこにあるのだろう。こんな表面だけ取り繕った話に耳を傾けて一体、どんな意味がある? いつまでも何もわかっていないままでいろって?
     段々と腹が立ってきたネロは、衝動的にブラッドリーの胸ぐらを掴んだ。引き寄せて勢いでがぶっとキスをして、そこでようやく頭が冷えた。いま、何か取り返しのつかないことをしてしまったような。ぽかんとしているブラッドリーを置き去りにして逃げるように室内に戻ったが、すぐに捕まってしまった。とてもじゃないが顔が見れない。
    「……わる、悪かった」どうにか謝罪を絞り出すように口にする。「どうかしてた。忘れてくれ。……それが無理なら、今度こそ縁切ってくれて構わねえから」
     ネロがそれだけ言い終えると、ブラッドリーは背後から抱きしめてきた。あんなことをされて何故、と混乱しているあいだに、首筋に口づけられて体が硬直する。
    「途中で嫌だって思ったら言えよ」ブラッドリーはネロの髪紐をそっと奪ってから命じた。「言わなかったら続ける。いいな」
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    44_mhyk

    SPOILERイベスト読了!ブラネロ妄想込み感想!最高でした。スカーフのエピソードからの今回の…クロエの大きな一歩、そしてクロエを見守り、そっと支えるラスティカの気配。優しくて繊細なヒースと、元気で前向きなルチルがクロエに寄り添うような、素敵なお話でした。

    そして何より、特筆したいのはリケの腕を振り解けないボスですよね…なんだかんだ言いつつ、ちっちゃいの、に甘いボスとても好きです。
    リケが、お勤めを最後まで果たさせるために、なのかもしれませんがブラと最後まで一緒にいたみたいなのがとてもニコニコしました。
    「帰ったらネロにもチョコをあげるんです!」と目をキラキラさせて言っているリケを眩しそうにみて、無造作に頭を撫でて「そうかよ」ってほんの少し柔らかい微笑みを浮かべるブラ。
    そんな表情をみて少し考えてから、きらきら真っ直ぐな目でリケが「ブラッドリーも一緒に渡しましょう!」て言うよね…どきっとしつつ、なんで俺様が、っていうブラに「きっとネロも喜びます。日頃たくさんおいしいものを作ってもらっているのだから、お祭りの夜くらい感謝を伝えてもいいでしょう?」って正論を突きつけるリケいませんか?
    ボス、リケの言葉に背中を押されて、深夜、ネロの部屋に 523

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