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    しおん

    🪄(ブラネロ|因縁|東と北)

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    しおん

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    アクスイ|突然の引退&失踪のトラウマで「こいつ絶対ネだろ」と思いつつ踏み込みきれずにいるブと、新しい環境に馴染んでのびのび料理をしたりブのファンを公言したりしているネの話。再会編。

    #ブラネロ
    branello

    踊ってばかりの国 舞台に立ちながら、いつだって客席でエンドロールの続きを待っている。そんな気分だ。下手に付け足せば台無しになりかねないほど綺麗なラストシーン。だけどその先を見たがるやつは多かったし、誰よりもブラッドリー・ベイン自身がその続編を望んでいる。若いインタビュアーの期待に満ちた眼差しに苦笑し、微かな傷心を悟られないよういつも通りの台詞を口にするのだった。
    「悪いな」
     脚を組み直した直後、鮮やかな記憶が脳裏を過ぎった。通り雨のように唐突で、傘を広げる間もない。日常の切れ端がぱらぱらと降り注いで頬を濡らす。優しい感触だが少し冷たい。何をしていてもしていなくても、思いがけないタイミングで甦ってはブラッドリーを縛る。
     擦り切れるほど再生している思い出はとうに美化されて、ひょっとすると実際のあの男から遠ざかりつつあるのかもしれなかった。それでも愛おしい。たとえ半分まぼろしでも。
     揺れる空色の跳ねた毛先。困ったような笑い方。日没の直前の空を切り取ったような瞳。ただの夕焼けではない。沈みかけの太陽が世界を柔らかな光で照らし出す、あのごく短い時間帯を映したような。
     離れていても輝いて、これから先も唯一であり続ける。たった一人のせいでこの胸の空洞が埋まらない。それでもその欠落を抱えていくと決めていた。欠けたままで生きていくのは不自由で時折窒息するが、失っても平気なものではないのだからこれで正しい。痛みのない喪失など嘘だ。だから孤独であることを選んだのだ。
    「あいつが戻ってくるまで、アクションはしないって決めてるんだ」
     空席になった相棒の座につきたがるやつは大勢いる。とはいえ熱心に手を挙げている連中から新たに誰かを選ぶつもりは微塵もない。あいつのためだけに用意した特等席だ。あいつだからこそ隣にいてほしいと思った。他のやつでは何もかも不足して、余計に寂しさが募るだろう。
     つまらないことでもあらゆる出来事をふたりで分け合っていきたかった。違う。今でも分け合いたい。おまえはそうじゃなかったのか? 自分を置き去りにした男にブラッドリーは胸の裡で問い掛ける。もう二度と会わなくても平気なのか? 本当に?
     きっぱりとした否定に、インタビュアーは一瞬あからさまに落胆した表情を浮かべる。しかしすぐさま気を取り直して「いつまでもお待ちしてます」と言った。本心からの言葉だとわかる熱が籠っていた。確かに受け取ったという意味を込めてそっと目を眇める。
     ブラッドリーもずっと待っているのだった。薄暗い客席で舞台を見つめている。再び幕が上がるときが必ず来ると信じているのだ。信じることにしたのだ。人生を棒に振る覚悟でこの愛だか恋だかにすべてを賭ける。
     あれで終わりだからこそ完璧な青春だったのかもしれないが、駄作になると言われても続編が欲しい。ご都合主義だの陳腐だのと批評されたところで、最終的には観客全員を納得させてみせる。まさか若手実力派俳優として名を轟かせているブラッドリー・ベインに、できるはずがないとは言わないだろう?

         ◯

     間違いようがないと頭では思うのに、未だに突きつけられずにいる。自分がこうも臆病だとは知らなかった。確かめたいなら事務所を通して会いに行くことだって不可能ではないし、もっと手軽な方法としてはSNSがある。問い詰めたくなるのを堪えて脳内で作成した文章を、端末に打ち込み送るだけでいい。簡単なことだ。
     しかしメッセージを送信しようとしては毎回躊躇して、最後には入力した文字をすべて消してしまうのだった。一体全体いつまでこうやってぐずぐずしているつもりなのかと自分自身に呆れるが、思い返せば今に始まったことでもない。ソファに横たわって手元の小さな画面に集中する。ブラッドリーはこの男のことだけは上手くいかないのだ。
     オーバーサイズのTシャツを着た配信者は、調理のポイントを説明しながらてきぱきと動いた。キャベツはざく切り、にんじんは細切り。玉ねぎはみじん切りにし、それから生姜はすり下ろす。洗って皮を剥いて切る。この一連の動作があまりにも滑らかで、どこか魔法染みている。
     包丁を使う作業は終わったようで、今度はボウルを取り出した。次々と材料を入れていく。鶏ひき肉と先ほど刻んだ玉ねぎ、複数の調味料……塩とこしょう、酒、それから片栗粉で全部か? いや、他にオイスターソースやごま油も入れていた。恐らく。
     さらに醤油も加えていたような気がしなくもないが、自炊しないブラッドリーには到底追いつけない速度で進むので定かではない。いつも配信終了後に公開されているレシピを見て答え合わせをしている。そういえば生姜はどこに行った? おろし皿にあったものが消えている。あれもボウルのなかで混ぜ合わさっているのだろうか。
     ブラッドリーが首を傾げているあいだに、配信者の男はせいろにキャベツを敷き詰めていた。均等なひと口大に丸めたつくねを並べながら言う。
    『俺が使ってるのはちょっといいやつだけど、ワンコインくらいで買えるやつあるだろ? あれも結構いいよ。結構いいっていうか、値段以上の出来じゃねえかな。うちのヒースたちも気に入っててさ』蓋をして加熱しつつ男は続ける。『せいろは一個あると便利だよな。好きな野菜と肉を入れて蒸すだけでも美味いし、朝食に使うのもいいし。流行り始めた頃に買いそびれたなって人とか、すぐに飽きて使わなくなるかもしんねえけど興味あるなって人とかは、手頃なやつもいろいろ出てるから買ってみてよ』
     アンニュイで優しげ、それでいてどこか危なげな声が、一人きりの部屋に染み込む。胸元より上は決して映らなかった。過去の動画も確かめたが同様だ。それでもわかる。ブラッドリーは特に手伝うでもなくキッチンに滞在してその手際のよさを見てきたし、無邪気に語られる他愛ない話に耳を傾けてきた。俺が探し続けていた男はこいつだ。
     秘密主義の割には隙が多いやつだから、どこかで盛大にやらかしているに違いないと思っていた。実際、日々迂闊に個人情報をばら撒いてはいる。顔を隠して芸名を使用しているから、すっかり油断しきっているのだ。相変わらずの不用心さに眩暈がするが、だからこそブラッドリーは見つけることができたのだった。
     そもそも事務所に所属して本格的に活動するのなら、本名からかけ離れた名前にするべきだ。それにも拘らず俳優時代の愛称である「ネリー」を名乗っている。スタート地点ですでに間違えているのだった。
     しかも駄目押しとばかりに、話し方や声のトーンも一切誤魔化さない。好んで身につけるものも変わらない。完全にありのままの自分を晒け出している。スポットライトのなかで微笑んでいたあの頃のままの。演じることが得意なのに役を羽織らない自己をふとした拍子に零すやつで、そういう寂しがりの無防備が他人に執着されやすい一因だというのに。
     挙げ句の果てに、好きな俳優を訊ねられてブラッドリー・ベインを挙げている。決定打だった。突然の引退からある程度の時間が経過しているとはいえ、何もかも夢だったかのように忽然と姿を消した俳優のことを世間は案外と忘れていない。瞬く間に人気が出た配信者に見え隠れする、電撃引退した俳優の影。次々と見つかる共通点。噂にならないはずがなかった。それでブラッドリーはたどり着いた。
     自分に向けられている好意に全く気づかないわけではないし、熱に浮かされた瞳にはきちんと芸能人として応えるやつだった。が、自己評価が低すぎるせいで、自分を好いている物好きな人間もいるらしいとは理解していても、その数を大きく見誤っているのだ。
     せめて配信者・ネリーのキャラクター設定を本来の人格とは別に作り、その通りに振る舞っていれば連想する人間は多少なりとも減るだろう。料理が得意で「ネリー」と名乗る以上、もしかしてと思うやつがゼロになることはないにせよ。だけどそうしない。そうしようとしたけど上手にできなかったというわけではなく、最初からするつもりがない。
     ファンや付き合いのあった連中が動画を観てはっとする可能性くらいは考えただろう。考えた末に、大した人数じゃないから問題ないと結論付けたのであろう甘さに頭が痛くなる。
     日に日に「似てる」という声は増しているのに、呑気に『そんな似てる?』と笑っているのもどうなんだ。コメントに応じてブラッドリーと共演した作品の名シーンの台詞を口にしたりするから、怒ればいいのか呆れたらいいのか、単純に懐かしめばいいのか途方もない寂しさを無理に押し除けようとしなくていいのかわからない。
     小さなダメージが積もり積もって心にのし掛かる。料理配信を観れば普通はもっと素直に腹が減るとかするだろうに、感情が乱高下してほんの僅かながら食欲が落ちるのだった。美味そうだなと思うけどブラッドリーは自分では作れないし、作れたとしても食べたいのはそれではないのだ。
     配信が終了した直後には、ブラッドリーは投げるようにしてスマートフォンを置いた。目を瞑って決して素性を明かさない男のことを考える。手を伸ばせば届く。あとはもう自分次第だ。何の手掛かりもなかった頃とは違う。
     やっと捕まえた。そう思うのに、本人に問い詰めることも、事務所を巻き込み仕事という逃げられない名目で再会の場を設けることもできずにいるのだった。
     他のことなら何だって容易く正解を選べるのに、あの男が関わった途端に完璧すぎてやや飽き飽きしていた人生はがたがたと崩れ落ちた。夜の海に遭難したみたいに先が見えなくなって、常に手探りで答えを探す日々。退屈と縁が切れてからは世界の見え方が変わった。これまでの生活もそれなりに愛してきたはずが、本当に心を震わせるものに出会ってしまったらもう駄目だった。目が眩むほど鮮やかな現在に対し、過去は急速に色褪せていった。
     あいつに言えば大袈裟だと困ったように笑うのだろう。目も耳も抜群によくて、微かな感情の動きや声には出さなかった言葉にも気づくやつなのに、自分が周囲、とりわけブラッドリー・ベインに及ぼす影響についてまるで理解していないのだ。
     何ひとつ思い通りにならないのに不思議と間違えている気はしなかった。確かに正規のルートから逸れて、目的地不明のまま突き進む感覚はあった。しかしそれは最適解と正反対の位置に向かおうとしているような不安定さなどは別物で、一緒にいることに躊躇したことは一度たりともない。ただ「会えてよかった」という思いがたびたび込み上げた。あいつがいればすべては過不足なく完璧だった。どこにいても何をしていても。
     眉を下げて微笑まれた瞬間に。キッチンでぱちぱちと油が跳ねる音と腹が減る匂いが溢れてきた瞬間に。細く柔らかな髪を丁寧に結んでやっている瞬間に。劇的な一日とは程遠い、ありふれた日々のなかで思った。すべてがここからだ。
     根拠のない明るい予感がブラッドリーを包んでいて、無敵だと心から信じた。わからないことだらけでも楽しかった。あり得ないほど満たされていたのだ。俺だけがそう思っていたのか? 時折ブラッドリーの脳内に同じ問いが閃く。おまえはいつ信じなくなった?
     そういう存在がある日いきなりいなくなっても、容赦なく生活は続く。しばらくは失くしたという事実にぴんと来なかった。魔法が解けるように快適な暮らしは消失したが、すぐに帰ってくるだろうと心の片隅でたかを括っていたのだった。どうせいつもの癇癪だ。気が済んだらしれっと戻ってくる。そんなふうに。
     しかしながら淡々と過ぎていく時間が二人の部屋を侵食し、有り余っていたはずの余裕は底をついた。夢から醒めた体は重い。頭では理解しても感情が追いつかず、どこかでまだ性質の悪い嘘や冗談のような気がしたのだ。
     不在の日常が重なって、その重さがブラッドリーに突きつけた。認めざるを得ない。これはただの癇癪などではなかった。きっともう二度と戻らないつもりで出て行った。朝起きて夜眠るまでのあいだ、空白の時間があちこちに生じた。
     うっかりしていて隙だらけで、気が優しすぎるせいでただ生きることが難しいやつだった。いっそ山奥に引き籠もるくらい人嫌いならまだやりようはある。あいつは他人といると精神がすり減るのに、どうしようもなく寂しがりだから一人にはなれない。街で満身創痍にながら生活していく他ないのだ。
     おまえのことは俺が全部どうとでもしてやると決めていた。ブラッドリーは固く目を瞑り小さく息を吐く。俺がいなければ生きていけないやつだと思っていたのに、蓋を開けたらこの有様だ。危なっかしいところは変わらないものの、あっさり新しい場所で新しい生活を始めているのだから薄情だった。
     同じ事務所の連中とそれなりに親しくしているのはSNSの様子から察していたが、予想より遥かに馴染んでいるのだろう。うちのヒースたち、と当たり前のように口にするのが衝撃を的だった。ルスカ・スピカ所属のタレントたちはみな仲がよく、互いの名前を出し合うのは特にめずらしくもない。過去の配信でもオーエンやラスティカの話をしていた。ブラッドリーが息を呑んだのは、「うちの」という表現だった。
     自分以外には懐かないと確信していた男が、ブラッドリーがいなくてもさほど困らず程々に幸福そうにしている。別に不幸になってほしいわけではない。それは誓って「違う」と言えるが、ブラッドリーはまだ立ち止まっているのにあの男はさっさと歩き出していて、それがさすがに少々堪えたのだ。
     抽斗から懐かしい台本を取り出す。頻繁に感傷的になる性質ではないので、こうして仕舞い込んでいた宝のひとつを手に取るのは久々だった。開いた瞬間にはらりと紙切れが宙を舞う。写真だ。ふたりの青年が写っている。片方はブラッドリーで、もう片方の笑顔にそっと指先を這わせる。
    「……ネロ」
     返事がないことにも慣れた。発した声は届かずに砕けて消える。写真のなかで照れたように笑う顔を見つめる。眠いと雑に髪を結ぶから、よく結び直してやっていた。柔らかくて跳ねやすい空色の髪の、そのときの感触が不意に甦る。数分前にも触れていたみたいに、はっきりと。

     駅前の広告見たよ、とクロエから連絡があった。好意をストレートに表現し、言葉を惜しまないやつだ。よく舌を噛まないなと感心する早口で褒めちぎってから、止まることなく「あっそういえばね」と話が続く。
    『今日、ネリーも見に行くって』
    「そうかよ」
     訳のわからない理由でコラボの話を断っておいて、何なんだあいつ、と呆れていると、わっと小さく叫ぶのが聞こえた。どうしたと訊ねる前に、甘ったるさとひんやりとした冷気とが混ざり合った声が耳に入った。
    『おまえ事務所にあいつ宛のもの送りすぎ』
    「咎められるようなペースじゃねえだろ」
    『このあいだの、何?』オーエンはブラッドリーの反論に応えず、うんざりしたように言う。『あれ、非売品だった。あいつの瞳の色の石がついたやつ』
     あいつもあいつだけど、おまえは何がしたいわけ。クロエから強引に借りたと思われるスマートフォン越しに、オーエンは囁いた。ブラッドリーが口を噤めば、心底面倒だと言わんばかりの溜息が聞こえてくる。
    『ねえ、今駅に行けば会えると思うけど』
    「あの人混みだぞ。そう上手くはいかねえだろ」
     適当な言い分で誤魔化そうとしたが、易々と誤魔化されてくれるやつではないのだ。舌打ちをしてから『いいから行けって』と尖った声で命じてくる。ここでさらに言い募っても情けなさが増すだけだろう。仕方なく腹を括り、ブラッドリーは駅に向かった。
     幸い十分ほど前まで駅の近くにいた。距離は大したことない。人通りが多いので見つけるのは困難だろうが、言う通りにしたのだからオーエンも文句はないはずだ。案の定会えなかったと報告すれば、きっと一瞬だけ何か言葉を探すように沈黙して、結局は「そう」とひと言だけ返してくるのだろう。
     駅前にたどり着くのとほぼ同時に、酷い土砂降りになった。向こうの空は陽が射しているから、恐らく通り雨だ。少し待てば止む気配がある。しかし近頃ほんの気まぐれのように降る雨は、どうも勢いがおかしい。すぐ通り過ぎるから、と呑気にしていられないのだ。瞬く間に全身がずぶ濡れになって辟易しつつ、雨宿りをする。
    「あーくそ、降る前に撮りたかったな……」
     反射的に顔を上げると、目深に黒いキャップを被った若い男がビルを見上げている。気怠げで不思議な柔らかさを湛えた声。配信者・ネリーの声であり、ブラッドリー・ベインの相棒の声だった。
     美しい空色は目立つから、あの頃も外出の際にはウィッグを被っていたなと思い出す。ごわごわとした作り物の黒髪に覆われて台無しだ。でも帽子とマスクだけではすぐに気づかれてしまうから仕方がなかった。つまらない気持ちで毛先をいじっていると、眉を下げて「触りすぎ」と笑うのだった。
     目元はつばに隠れてよく見えない。マジックアワーの穏やかな光を閉じ込めた瞳が見たい。視線の先にあるものが何かわかっているのに、どうしてここにいるのかこの男の口から聞きたかった。
    「お、止んできた」
     ブラッドリーの視線に気づくことなく、目の前の男はスマートフォンを構える。虹だ、と無邪気に呟いてから、真剣な面持ちで駅前の広告を撮る。何を考えているのかわからない。心臓が捻じれるように痛む。
     ひとりきりの部屋。画面越しのやんわりとした拒絶。新しい住処でのびのびと寛いで、進み続けている。だけど好きな俳優はブラッドリー・ベインだとあっさり公言し、わざわざ広告を撮影するやつなのだ。送りつけたネックレスがきらめく胸元。唇の端に浮かぶ満足そうな微笑。嬉しくないとは言わない、でも、それなら何故、とこれまで押し込んで仕舞っていた問いが溢れてくる。
     どうしてその眼差しを直接向けてはくれないのだろう。どうして隣にいてくれないのだろう。そんなふうに遠くから健気に愛するのは、余計に孤独ではないのか。少しも会いたくはならないのか? 料理を作るとき、おまえの料理が誰よりも好きでよく食べていたやつのことを、欠片も思い出しはしなかったか?
     スマートフォンをポケットに入れると、『ネリー』は足を踏み出した。雨の匂いがする街をゆったりと歩き出そうとしている。咄嗟にキャップを奪った。視界が明るくなったことに驚いて、『ネリー』は振り返る。優しい金色の瞳がはっと揺れた。
    「ブラッド」
     名前を呼ばれたのはいつ以来だったか。いろいろ思うところがあるのに懐かしさと嬉しさが勝ってしまって、文句のひとつもろくに浮かんでこない。観念して「おう」と返事をすると、ネロは困惑したように手を伸ばしてくる。気遣わしげに頬に触れてくるので、首を傾げた。
    「なんだよ」
    「なんか、変な顔してっから……」
     何かあった? と心配そうに訊いてくるやつに、てめえだよてめえと言いたいのを堪え、最近忙しかったせいかもな、とブラッドリーは応じた。
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    しおん

    DONE現パロ(社会人×大学生)|仕事ばかりして生活を疎かにしていたブと、弟的な存在であるシと二人暮らし中のネの話。まだ出会っていない。

    ※少し前のX投稿分の加筆修正版です。
    ナイト・オン・ザ・プラネット 世間が「働き方改革」だの「仕事とプライベートの両立を目指す」だのと足並み揃えてぞろぞろ同じ方向へと向かうなか、ブラッドリーの入社した企業は設立当初から変わらない。よくも悪くも。
     成果を上げた分だけきっちりと報酬に反映されるので、「自分らしく働こう」というスローガンを掲げる今時の会社よりはずっと稼げる。成績に応じた実績給が支払われる他にも昇給や昇進という形で努力が評価されるのだ。若手のうちから役職につくことだってめずらしくはない。
     本人の頑張り次第とはいえ給料やボーナスも抜群によく、各種手当も充実しているものの、採用活動では苦戦しているようだ。……いや、採ることはできるのだ。福利厚生や報酬に惹かれる学生が後を絶たないため、説明会はいつも賑わっている。隅々まで磨き上げられた社内はドラマのセットのごとく輝き、インターンで訪れたやつらはみな興奮したように目を見開く。金を掛けて開く内定者懇親会は好評で、秋頃になって辞退を申し出るやつもいない。問題は入社してからだ。
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    しおん

    DONE芸能人パロ①|人気若手芸人のブは、ある日相方のネに突然解散を告げられる。戻ってくることを信じて一人で仕事をこなしていたところ、何故か相方と思しき人物がアイドルグループの新メンバーとして紹介されていて……?

    含:中央主従(芸人)|縁ある二人(芸人)|同じ視点で見ていた(アイドル)
    再再再解散 日頃の猫背が嘘のように姿勢がよく、やけに真面目な面で切り出すものだから、なるほど次はそのネタでいくのかと思った。惜しくも逃したグランプリの優勝を引き摺っていない。次の目標、新人コンテストに向けてすでに思考を切り替えているようだ。
     やや意外に思ったが、嬉しかった。ブラッドリーの相方は何かと引き摺る性質だ。これまでのこいつならあと二日は落ち込んでいる。いい変化だと密かに喜んだ。
     ネタ決めの際、大まかなテーマはブラッドリーが決めるが、細かく設定を詰めていくのは相方の仕事だった。基本的には。だからコンテストで敗退すると、「俺のネタがいまいちだったから」と無駄にへこたれる。馬鹿馬鹿しい。本当にいまいちだったら採用しない。そもそも、こだわりの強い相方が妥協したものを客の前に出すわけがない。ブラッドリーが「いいじゃねえか」と言ったものであっても、僅かでも引っかかるときは延々と唸って作り直すやつなのだ。
    10709

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    44_mhyk

    SPOILERイベスト読了!ブラネロ妄想込み感想!最高でした。スカーフのエピソードからの今回の…クロエの大きな一歩、そしてクロエを見守り、そっと支えるラスティカの気配。優しくて繊細なヒースと、元気で前向きなルチルがクロエに寄り添うような、素敵なお話でした。

    そして何より、特筆したいのはリケの腕を振り解けないボスですよね…なんだかんだ言いつつ、ちっちゃいの、に甘いボスとても好きです。
    リケが、お勤めを最後まで果たさせるために、なのかもしれませんがブラと最後まで一緒にいたみたいなのがとてもニコニコしました。
    「帰ったらネロにもチョコをあげるんです!」と目をキラキラさせて言っているリケを眩しそうにみて、無造作に頭を撫でて「そうかよ」ってほんの少し柔らかい微笑みを浮かべるブラ。
    そんな表情をみて少し考えてから、きらきら真っ直ぐな目でリケが「ブラッドリーも一緒に渡しましょう!」て言うよね…どきっとしつつ、なんで俺様が、っていうブラに「きっとネロも喜びます。日頃たくさんおいしいものを作ってもらっているのだから、お祭りの夜くらい感謝を伝えてもいいでしょう?」って正論を突きつけるリケいませんか?
    ボス、リケの言葉に背中を押されて、深夜、ネロの部屋に 523