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    Shibaranba

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    Shibaranba

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    ビマヨダのエセT◯ICKパロ
    嘘くさい新興宗教と戦うビマヨダが見たいという欲

    ⚠️注意⚠️
    - 元ネタが元ネタなのでIQは下がってる
    - ビが当然のごとく◯根。しかもネタにされる

    神子に消された村 前編どうしてこんなことに。
    鬱蒼とした林の暗闇が恐ろしく男を追い立てていた。頼りない懐中電灯を持って必死に逃げる。
    男は捜索にきた地元の消防団だった。
    村の人間が消えた、と駐在の高杉が駆け込んできたから捜索に出れば、本当に全員いなくなっていた。
    天罰よ、と甲高い声がした。

    「ひっ」

    村人たちのように自分もまた消されそうになっている。
    高杉の言うことを信じれば良かった。行くなと言って気絶したのだから、ろくな目に遭うはずもなかった。
    踏み慣れない山の中を逃げ惑って、枯葉に足を取られながら逃げる。

    「山を降りれば、」

    一緒にきた捜索隊はみな散り散りになってしまった。闇の中にひとり又ひとりと、あの白い神子さまに消されてしまった。
    神子さまの霊能力は本物だったのだ。
    その証拠に、男自身、あの神子さまを前にするとボンヤリとして世界に溶けていってしまうような心地がした。恐ろしい。

    「あっ」

    つるりと、手の懐中電灯が滑る。
    慌てて握ると、男は木の根に足を取られて転んだ。
    だめだ、追いつかれる。
    男は這いつくばって祈った。

    「どうか、どうかお許しください」

    死にたくなかった。消えたくなかった。
    神子が現れて言った。

    「消えてちょうだい」

    そうして、一夜にして村人たちとその捜索隊は消えた。




    某大学ドゥリーヨダナ研究室
    『ってわけで土地を手に入れるのが難しそうだから、開発計画がちょっと延期になりそうでさ。参っちゃうよ。ドゥフシャラーも楽しみにしてたのに』
    「そうか、ではわし様が解決してこよう。神子に村の神隠し。面白いではないか。なーに、あてはある」

    窓の外を見てドゥリーヨダナはニヤリと笑った。


    ***


    「んっ、遅かったではないか」

    ドゥリーヨダナは、はむはむとミカンを食べていた手を上げた。
    人の家のコタツに勝手に入る不法侵入者にビーマは眩暈がした。

    「…どうやって入った」

    買い物袋を静かに台所に置き、怒声を飲み込んだ。近所迷惑を考えた。

    「管理人のリツカと言ったか?そやつがな、約束してると言ったら入れてくれた。お前ん家セキュリティちょっとガバガバすぎないか?」
    「おまえが言うな」

    怒りで冷蔵庫の取手が歪んた。
    ここは激安アパート落梨おちなし荘。都内の駅近にありながら、1DKで家賃2万と破格の物件である。加えて管理人の藤丸立香は人がよく、近隣住民とも今のところ良い関係が築けている。ビーマのいとしい城である。
    しかし、間違ってもこの成金クソ教授が居座るに相応しい場ではない。
    冷蔵庫に食料を入れ終わり、ドゥリーヨダナの前に座る。

    「それで、何の用だ。聞くだけ聞いてやる」
    「仕事をやる。手伝え」
    「よし分かった出てけ」

    真面目に聞こうとしたのが悪かった。

    「まあ、聞け。実家うちの新しい開発予定地に邪魔な連中がのさばっとるから潰しに行く手伝いをしろ」
    「ろくでもねえ話持ってくるな、死ね」

    とっとと追い出そうと腰を上げて腕をまくった。

    「待て待て。何故わし様が態々おまえに話を持ってきたと思ってる。とてもじゃないが、ヴィカルナたちには対応できそうにない案件だ。なんせ、相手は『何でも消してしまう』神子さま、だそうでな」
    「神子だ?」

    俺が座れば、ドゥリーヨダナがミカンと一つのパンフレットを渡してきた。パンフレットは胡散くさい宗教団体の広報。
    ミカンは手土産らしい。勝手に家に上がって土産食うな。

    「『やましろの会』の神子さま。何でも、無機物だろうと生き物だろうとたちどころに消してしまう、子供の形をした現人神だそうだ。最近も村一つ消えた」
    「全部か」
    「正確には全員だな。神子が祈れば、一晩にして村民がそっくり消えてしまったそうだ。当地に駐在したばかり警官が麓の警察署に来て発覚した」
    「夜逃げじゃねえのか」
    「夜逃げにしては生活の跡が残りすぎてるそうだ。作りかけの食事、開けっぱなしの蛇口。つい先程まで人がいたかのような痕跡を残して人っ子ひとり居なくなっていた。捜索隊も帰ってこない。全部、神子さまによる天罰だそうだ」
    「神子の天罰だ?そんなものがあるか」

    ビーマはキツく眉を寄せた。
    「ものごとには道理がある」と父は俺に言っていた。日は東から昇り西に沈み、潮は満ちては引いていく。不思議をそれらしく演出する方法はいくらでもあるが、所詮は偽り。
    神の子、天罰、霊能力なぞ、あるわけがない。認めない。
    ポンともう一つミカンがビーマの手に置かれた。

    「分かっとるわ。神子だ霊能力だと下らない。そんなもンあってたまるか。しかし、それを囃し立て騙る連中がいる以上、わし様らはそれを丁寧に潰してやらねばなるまい?」

    得意そうな顔がムカついて、一口で丸ごとミカンを食べる。
    ドゥリーヨダナからミカンをまた奪って皮を剥く。

    「オカルトならカルナの方が得意だろ、カルナはどうした」
    「カルナは…、なぜかマグロ漁に行ってくると連絡があってな」

    ドゥリーヨダナは遠い目をした。全くもって経緯がわからないが、何か大変だったらしい。

    「アシュヴァッターマンは?」
    「高校生をあまり遠出させるわけにもいかんから無理だ。というかゴネるな!」
    「俺にだって生活があんだよ!!お前みたいに暇な教授と一緒にするな!」
    「ほう。借金の返済」

    背筋が震えた。

    「今月分はまだ支払われてなかったな」

    痛いところを突かれた。
    ドゥリーヨダナは見下ろすように目を細めた。

    「分かっとるか。わし様がおまえに仕事を振ってやってるのは慈悲だと。お前の兄が賭博でこさえた借金1億。いったい誰が立て替えた」

    兄がマカオのカジノでこさえた借金1億。シャクニに騙され、一晩にしてうちに借金がのしかかった。うちの全財産を差押えられる前に金を払ったのがドゥリーヨダナだった。

    「残り4980万円。今すぐ耳を揃えて払って貰らっても良いのだぞ」

    このニヤけ面をぶっ殺してやりたいが、できない。
    コツコツと返してはいるが、そう簡単に返せる額ではない。とても良心的な金利で返済を待ってもらっているため、借金をタテにされては何も言えない。

    「あーあー、今からでもユディシュティラをシャクニ叔父のところで働かせようかな」

    後ろ暗い仕事をしているシャクニのところに兄が売り払われれば、どんな酷い仕事をさせられるか分かったものじゃない。

    「金はしっかりと返す」
    「毎月の食費10万切ってから言え」

    ぐうの音も出ない。
    この体格ゆえ人の5倍は食べねば体がもたないのだから、食費がどうしたって嵩む。
    唸っていれば、ドゥリーヨダナが片目を瞑った。

    「仕事を受けたら来月まで返済は待ってやるし、解決の暁には食費を含めた出張中の費用は経費にいれてやる。これでどうだ」
    「…わかった」

    ビーマは諦めて頷いた。空腹にも負い目にも勝てなかった。

    「ほら行くぞ」

    ジャケットを羽織ったドゥリーヨダナが玄関から出ていく。のっそりとそれに着いていった。



    「ドゥリーヨダナ先生!ややっ、よく来て下さいました」

    ビーマたちが赤いスポーツカーから降りると、妙に腰が低い男が近寄ってきた。
    警察のお偉いさんらしい。
    媚びへつらった面が気持ち悪いが、ドゥリーヨダナは親しげに笑みを浮かべて迎えた。

    「伊藤さん、今回はご協力ありがとうございます」
    「いやはや、ご高名なドゥリーヨダナ先生のためでしたら、いくらでもご協力いたします。それで、そちらの方は」
    「私の200番助手のビーマです。デカいだけのオマケみたいなものなので、どうか気にしないでください」

    誰が助手だ、と後脛を蹴れば、革靴で足を踏んできた。
    この猫被りクソ教授が。

    「そうですか。では説明がてら、署にて是非お茶でも…」
    「いえ、お気持ちはありがたいのですが、現場をすぐに確認させていただきたい。村を案内できる人をご用意いただけますかな」
    「わかりました。丁度いい部下がいるので、案内させます。志良亀しらかめ村に駐在していた警官もいるので、一緒に。岡田ァ!高杉をつれてセンセ方をご案内しろ!!」

    かったるそうに姿を現したのは、黒い長髪の刑事だった。スーツを着た男の顔立ちは日本人らしく幼かったが、その手足が雄弁にその実力を物語っている。
    戦い慣れているとビーマは直感した。
    ただ、琥珀の目はやる気無さそうに澱んで、その腕は、逃げ出そうとする赤髪の男を押さえ込んでいる。

    「お初にお目にかかります。警部補の岡田以蔵、よろしゅうお願いします」
    「いやだ!僕は絶対に戻らないぞ!!あんな村になんて戻るもんか!みんな消される!神子さまに消されちまうんだ!!」
    「静かにしちょれ!!」

    キュッと赤髪のは締められて、覆面パトカーのトランクに担ぎ込まれた。
    酷い取り乱しようだ。つれていって役に立つのか。
    ビーマたちが眉を顰めたのがわかったのか、岡田刑事は眉を下げた。

    「すんません、高杉は起きてからあン調子じゃ。ま、志良亀しらかめ村まで連れてけば役立つき、村に向かうぜよ」

    弓なりに笑って手招きする岡田に顔を見合わせ、ドゥリーヨダナとビーマはパトカーに乗り込んだ。


    「それにしても、お偉いセンセがどいてこがな田舎の事件を解決しゆうがか?」
    「何、ちょっとした縁でな。岡田刑事こそ、この件についてはどう考えている?どうやって村人たちは消えたと思う」
    「わしは頭がようないき、よう分からん。あれかの、村人みんなで隠れ鬼でもしゆうか」
    「神子とはいわねえんだな」

    岡田刑事はまだこの事件に深く関わってないのか、ひどく適当な返事をしている。
    ミラー越しに琥珀色と目があった。

    「神子、いうと『やましろの会』やか?助手さんはそがなんを信じゆうがか?ありえん。あっこは俗世の悪縁を切るいう名目で金集めるだけのケチな団体やき」

    岡田刑事はトンとハンドルを指で叩いた。
    『やましろの会』は、生き物や物だけでなく、それに付随した縁をも切って信者を救う、そうパンフレットにもあった。痛みや病、借金すら消す対象だとか。

    「地元の有力者に献金するくらいには、規模が大きいと聞くぞ」
    「さあ、お偉い人のことは分からん。ただ、わしからしたら、あのちまい神子が村人全員消しちゅうより、村全体で隠れ鬼をして忘れられてしもうた、ちゅう方がまだ納得いくきの」

    岡田刑事は神子と会ったことがあるのだろうか。ちまい、と言うからにはまだ神子は幼い子供の可能性が高い。
    ビーマが考え込んでいると、ドゥリーヨダナがニンマリと笑っていた。

    「…なんだよ」
    「おまえは隠れ鬼の最中に遠くにいきすぎて一人で泣いて帰ってくるタイプだったな」
    「泣いてねえよ」
    「泣いとったわ。計画性なく隠れて夜中になるまで見つからないから置いて行かれて、本当に無様だったな」
    「おまえこそ、自分で掘った落とし穴に自分で落ちて泣いてただろうが」
    「はー?あれはおまえがハマらないの悪いのであって、わし様は全くもって悪くない!!」

    この理不尽ワガママ馬鹿が!
    シートベルトが許す範囲で掴みあう。頬を引っ張り、胸ぐらを持ち上げる。
    いがみ合っていると車が止まった。

    「着いたき、降りとーせ」

    赤い大橋がある。橋の向こうを雑に指す『志良亀村→』と看板が立っているから、ここが入り口のようだ。
    ビーマたちがパトカーを降りると、トランクに積まれたままだった高杉も下ろされた。
    岡田刑事はゆるりとポケットから煙草を取り出して火をつけた。

    「ハー、運転後の煙草は沁みるにゃあ…。さて、わしは終わった頃に迎えにくるき、高杉、センセらをしゃんと案内しぃや」
    「えっ!岡田刑事?えっ!!ここ!いやだ、帰りましょう!!」
    「センセ、残念やがわしも色々と事件を抱えてるき、ずうっと付くわけにはいかん。何かあったら、電話しとーせ」
    「ちょっと待て!!」

    ビーマが止める間もなく、言うだけ言って岡田刑事は本当にビーマたちを村の入り口に置いていった。
    電波が届くかも怪しい辺境の地に置いてかれる。最悪だ。

    「わし様を置いて行くとは。上司の連絡先を握ってるの気づいてないのか」
    「…じゃあ、後で〆る方は問題ないな。とっとと村を見に行くぞ」

    先日まで村に駐在していた警官、高杉がまた喚き、怯えた。

    「やめましょう!もうこんな村に入るのは懲り懲りだ!僕らも消されてしまうっ」
    「まあ、高杉巡査、そう言うな。枯れ尾花というだろう?昼間にみたら問題ないかもしれん」
    「違います!神子さまは確かに僕の目の前で石を消したり、家具や人を消してしまったんです!!昼も夜も関係ない!」
    「それは、是非とも物理学者として見てみたい。新しい物理理論が発見できるかもしれないしな」

    ドゥリーヨダナとビーマはガッと両脇から高杉を抱え上げた。
    2m近い二人に囚われた177cmは悲鳴をあげながら、橋を渡った。

    「まず橋にて消されることはなかったな。次は村の中心にいってみよう」
    「わかりました!ちゃんと案内しますから、下ろして!!」

    引け腰になりながらも、高杉は案内のために山道を登り始めた。ビーマたちはそれに従って歩く。
    道の左右には、子猿のような顔をした石像がポツポツと置かれている。

    「地蔵にしては変な顔だな」
    「何かわかるか」
    「こういうのはカルナが専門だからな、わし様は何とも」
    「チッ、役にたたねえな」
    「おまえ程ではないわ、脳筋ゴリラ馬鹿。人を責める前に己を振り返って森に帰れ」
    「おまえこそ森で虫見て泣くなよ、弱虫教授」
    「お二人とも、着きました。ここが村です!」

    見下ろす先に古びた日本家屋が集まった村があった。
    瓦葺やトタン屋根が経年劣化で汚れている。寂れていて井戸までありそうだ。
    逃げ腰の高杉はいつの間にかビーマたちの背後に回り、忙しなく視線を動かしている。
    村人を探すため、ビーマたちは中心へ入っていく。

    「おーい、誰もおらんか」
    「居たら返事くらいするだろう」
    「だよなー」

    キョロキョロと周囲を見ても、空き家と高くなった雑草、気味の悪い石像だけ。
    歩き回って、戸の開いた家をひとつ見つける。

    「本当に誰もおらんのか。邪魔するぞー」
    「お邪魔します」

    とりあえず一言告げて入る。土間には、靴底のすり減った靴が並べられ、その奥にはそれぞれ居間とキッチンが見える。

    「旅行にしては散らかってるしな」
    「カップ麺が作りかけじゃねえか勿体ねえ」
    「食うなよ」
    「…流石にしねえよ」

    居間に上がれば、不完全な空間があった。
    カラカラと回る扇風機、一部だけ日焼けしてない畳、たけ比べの跡、つけっぱなしのテレビ、隅に埃の寄った床。
    情緒的なほど生活感があるのに、やはり人だけがいない。

    「誰も居ないな」
    「そうだな、」

    村人だけが消えたような村。不自然すぎる程に人の気配が残る村だ。
    ドゥリーヨダナが物憂げに窓を撫でた。
    窓の先に、妙に開けた土地があった。木を一本隔てて、そこだけ妙に空間が開いている。山火事でもあったのか、それとも何か建物でもあるのか。
    後で見るべきだろう。
    ビーマは窓の外を睨んだ。

    「ギャー!!助けてくれ!助けて!!」

    高杉の絶叫が響き渡った。
    放置して探索していたことを思い出し、急いで高杉の元に向かう。

    「どうした!」
    「神子さま!神子さま!どうかお許しを」

    頭を地面に擦り付ける高杉の前には、白い少女が立っていた。
    色素の抜けた金髪と蒼く虚な視線にビーマは慄いた。こんな田舎には似つかわしくない、色の抜けた子。これが、『やましろの会』の神子。
    ビーマたちを目にとめると、神子はゆっくりと村の出口を指差した。

    「ここはもう私たちの土地。今ならまだ許します。侵入者ははやく立ち去りなさって頂戴」
    「そういうわけにもいかん。なんせ、わし様たちはこの村の謎とともにお前の天罰とやらの種を暴きにきたのでな」

    茫洋としていた神子の顔がピクリと動いた。
    ドゥリーヨダナは続ける。

    「わし様は物理学者でな、おまえの万物を消す力と天罰の仕組みを解明しにきた」
    「あなたも私をイジメにきたの?」
    「虐めとは人聞きが悪いな」

    ドゥリーヨダナは明確に否定はしなかった。
    『やましろの会』を潰すことが一番の目的だから、イジメというのもあながち間違いではない。ドゥリーヨダナは程度が低いので、子供相手でも容赦なく張り合う。
    神子は両手を開き、大ぶりなスカーフを取り出した。

    「何人もの人が、私がインチキだと言って攻撃してきたわ。でも、私は嘘つきなんかじゃない。覆い隠したものを消してしまう力は本物よ」

    そう言って神子は、石の上にスカーフを乗せた。

    「消えて、無くなって」

    そう唱えてから布を引くと、石は無くなった。跡形もなく消えた。
    素直に驚いた。
    ビーマが地面を見ても確かに先程の石は無くなっていた。
    神子はまた能面のような顔になって言った。

    「このとおり、私にはものを消す力を持っているの。神子だから、神の力を降ろした特別だから。私の力を否定して虐めてきたこの村の人たちも消したわ。天罰なのよ」

    神子を静観して、ドゥリーヨダナは顎に手を当てた。

    「なるほど。だが、この程度いくらでも手品で誤魔化しようがあるぞ。元々砕けた石を用意しておくとか、手のうちに隠し持ってしまうとか。確かに興味深いが、訓練すれば出来るような児戯で霊能力やら天罰やらと言われてもな」

    正直ドゥリーヨダナは今どんな手が使われているか分かっていないだろう。しかし、ボロを出すまで煽って自滅させるつもりだ。
    今度こそ、神子は不快げに顔を歪めた。

    「まだ信じてないのね。証拠にあなた達の目の前でより大きな奇跡を見せて差し上げます。そこの警官さんの過去ごとこの世から消し去ってあげる」
    「えっ、そんな!」

    高杉は真っ青になった。

    「そこまでしなくても良いんじゃないか」
    「お兄さんたちは私の力を信じていないから、みんなのためにも証明しないと」

    神子はその小さい手で高杉の手をとった。

    「安心して、消えるのは世界に解けることと一緒。とっても気持ちがいいの。怖いことなんて何もないわ。さあ、こっち」

    高杉が引かれて行くのを追った。
    ある家の居間に連れてこられると、神子はその小さい手で様々なものを押しつけてくる。

    「ちゃんと検証できるよう、脚立も用意したわ。スマホ、で撮影できるかしら」
    「良いぞ、わし様のスマホを使おう。しかし準備がいいな」
    「どうしても信じてくれない人には、証拠が大切でしょ。夢だと思って貰っては困るわ」

    床に蹲る高杉を神子は撫でた。

    「では始めましょう」
    「センセ!どうか辞めさせてくれ!消えたくない!!頼む!やめてくれ」

    怯えて叫ぶ高杉を神子は仕切りで覆い隠した。神子は目を瞑って、いかにも意識を集中させた。
    天地がぐらぐらと歪む。

    「消えて、なくなって、どうか消えて」
    「いやだ!!やめてくれ!!助けて」

    異様な雰囲気のなか、高杉の声はどんどんと小さく、鈍くなる。
    こちらも引きずられるように体がダルくなるが、何とか神子と高杉に意識を集中させる。

    「うっ…ああ…」

    そしてついにプツリと声が途切れた。
    仕切りが取り払われると、そこに高杉の姿はなかった。

    「そんな馬鹿な…」
    「好きにお調べになって」

    ドゥリーヨダナとビーマは天井や襖、床を検分した。畳を剥がしても、天井を開けても何もなかった。
    種が分からない。

    「落とし穴も隠し通路もないようだな…」
    「いくら古い家とはいえ、忍者屋敷みたいなことはねえな」
    「忍者屋敷カッコよいよな。わし様も昔欲しかったもん」
    「あの映画は良かったからな。憧れだよな」

    現実逃避のように日本の憧れについて語り合っていると、クスリと初めて神子が笑った。

    「これで分かって貰えたかしら、彼の過去についても見てみるといいわ。全部消えているから。早く村から立ち去るといいわ。では、ごきげんよう」

    そう言って神子は出ていった。
    悪寒をおさえながら、それを見送った。


    気持ちが落ち着いて来ると、ドゥリーヨダナは脚立からスマホを取り外した。

    「高杉巡査の過去、念のため岡田刑事に聞いてみるか」
    「忘れてたな。仕事って何してんだか。置いてったからにはシメはするけどな」

    貰った番号を元に電話をかけた。

    『はい、もしもし岡田です』

    岡田刑事が電話に出た。奇妙な効果音とガチャガチャ何かを跳ねる音が混じって聞こえにくい。これはパチンコに行っているな。
    ギャンブル好きの兄を持つビーマは苦い顔になった。

    「岡田刑事、こちらドゥリーヨダナ教授。案内人だった高杉巡査が消されたので、すぐに高杉巡査の過去を洗い、村に来てくれ」
    『はあ、センセの頼みじゃったら、わしも行きたいのはやまやまじゃが、忙しゅうていけそうにないっ、おっキタキタキタッ!』
    「少しは隠そうとせんか…。さてわし様、警察にも影響力あるから上に話すとおまえを離島にとばすことができる。当分戻ってこれんだろうなぁ。ひとりで離島、行きたいか?」
    『すぐに仕事させていただきます』
    「わし様の寛大さに感謝しろよ」

    電話を切った。

    「とんだ刑事だな」
    「珍しく人選を間違えたかもしれん。いや、脅して動く分まだ可愛げあるか?」

    ドゥリーヨダナの可愛げとは扱い易さとも言う。
    ビーマは畳の上に座った。

    「これから、どうする」
    「動画を確認してもよいが、まだ夜まで時間あるからな。『やましろの会』見にいってみるか」
    「車もなく行けるのか?」
    「ハハ、おまえがいるだろう。何のための馬鹿力だ。山一つ越えて隣だから暗くなる前には帰ってこれるぞ」

    ビーマは顔を歪めた。
    馬車代わりにおぶれということだ。
    図々しさここに極まれり。絶対に嫌だった。

    「いやに決まってんだろ」
    「なら一人でいくか?口のうまい新興宗教の信者ども相手に一人で切り抜けられるのか、ん?わし様は長時間歩けんぞ。毎日スニーカーのおまえとは違うのだから」
    「…岡田刑事を呼びつけたんだ。それから向かっても良いだろ。それまでは、寺の記録でも見て村について調べたらどうだ」

    ドゥリーヨダナはちょっと考えて頷いた。

    「ふむ、おまえに諭されるとは業腹だが、一理あるな。元々今日は寺に泊まる予定であったし、資料を探してみるか」

    ビーマとドゥリーヨダナは高杉が消えた家を後にして、村の中心にある寺に向かった。



    寺は古いが造りが立派だった。

    「すげえな」
    「村の歴史の保存を含め、村民たちの集会場として役割を果たしているだろうな」

    壁には雑多に絵や書が貼られている。
    黄ばんだ紙に描かれた白い花、薬師如来の掛け軸。
    そして、適当に貼られた習字の文字。
    『他蹴落覚悟完了』『頑張ってピ◯リエ』
    『ハヌマーンハウリングEX』
    『整列するジャイ・カウラヴァ』
    ビーマは資料に目を向けた。

    「明治か大正の、医学書かこれ?」

    たまたま手に取った本は、漢文で書かれ、これまた古風な人体が描かれている。
    人体と薬について記述したもののようだが、ビーマには詳しくはわからない。

    「村民名簿があるな、こっちはかなり古くからあるな」

    ドゥリーヨダナが寺の記録を辿るが、妙に子供が亡くなっていること以外わからなかった。奇妙といえば奇妙だが、時代として子供の死亡率は高かったのだから、そう不思議とも言えない。
    それからウロウロと資料を探り終えると、ビーマとドゥリーヨダナ畳に座った。

    「収穫なしか」
    「期待はしていなかったのだから、そんなものだろう」
    「よしっじゃあ飯食うか」
    「食材はどうする」
    「人がいないんだ。ちょっと食材もらう代わりに金を置いておけば良いだろうよ」

    あー、腹減った。
    インスタントラーメンがいいか。
    ビーマが用意をしているとドゥリーヨダナのスマホが鳴り、『水戸黄門のテーマ』が流れる。

    「もしもし、こちらドゥリーヨダナ」
    『センセ!大変じゃ!センセの言うちょったとおり、高杉の人事記録が無うなってる!!どこ掘返してもない!!』

    大音量が響き渡り、ドゥリーヨダナはスマホから顔を離した。

    「ちゃんと聞こえておるからトーンを落とせ」
    『どいてそんな冷静がか!?』
    「あれだけ自信たっぷりだったのだから、何か仕込みくらいしてるに決まってる。あくまで確認だ。次は村に来い。寺で待っているから」
    『えっ、そがなこと』
    「離島、どこに行きたいか希望はあるか?」
    『すっと参りますぅ』
    「素直でよいぞ」

    ドゥリーヨダナが電話を切った。
    丁度よく飯ができたので、運ぶ。

    「相変わらず、料理の腕だけはマシだな」
    「いらねえのか。じゃあ俺が全部食べる」
    「いや、いるわ!早合点するな」

    ドゥリーヨダナがガルガルと唸ってラーメンを両腕のなかに囲い込んだ。
    その醜態がビーマには面白かった。

    「「いただきます」」

    今日はベーシックに醤油ラーメンだ。
    透明感のあるスープに、しっかりと湯切りした縮れ麺、しっとりした豚肉、茹で野菜、ネギ、半熟卵、シナチクと海苔をトッピングしてある。
    人のキッチンを使ったため、少し食材は少ないが、こういうのも悪くない。

    「ズッ」
    「はむ」

    ビーマが豪快にすする一方で、ドゥリーヨダナはレンゲにミニラーメンを作って口に運んでいた。啜るのが苦手なため、溢さないように、どうしても小さく食べる必要があった。
    二人に会話はない。

    「(こういう料理もたまにはわるくねえな)」

    スープに絡んだ麺と野菜のシャキシャキした感触を楽しんで、ビーマは思った。今度は半熟卵に箸を入れれば、トロリと舌の上でとろけた。軽く作ったにしては悪くないのではないだろうか。
    他の食べ合わせを確認したくて、ちらりとドゥリーヨダナに視線を向ける。

    「あつ…」

    ドゥリーヨダナがラーメンで温まって、横髪を耳にかけた。少し火照った肌と相まって男ながら、色っぽい。
    これで性格がもう少し…
    そこまで考えてビーマは顔を顰めた。

    「うおっ、そんなに一気にラーメンを食う奴があるか、こっちまで汁が飛んでくるだろう!わし様の服はおまえのダウンジャケットやジーンズよりよっぽど高いんだぞ!!」
    「うるせえ」

    ビーマがラーメンを6人前を食べた頃、やっと岡田刑事が村にやってきた。

    「遅かったな」
    「それが、道に迷うてもうて」
    「電話すりゃ良かったのに」
    「村に入ってから電波が届かんがです」

    ドゥリーヨダナは岡田の言葉に反応した。
    ビーマもスマホを確認すると、さっきまで立っていたアンテナが無くなっていた。本当に電波がなくなったらしい。

    「いやはや、電波まで消されてしまうとは、神子さまも随分と手の込んだことをするな。まあ、この寺はwifi通ってるからあんまり関係ないが」
    「えっ、ここwifiあるがか!動画みよ」
    「その前に向こうの神社にいくぞ。今日はそれだけして寝る」

    ビーマは訝しんげにドゥリーヨダナを見た。

    「『やましろの会』を見にいくのはやめるのか」
    「気が変わった。神社を見にいく。おまえも睨んでただろう、あの空き地だ。岡田、これ以上わし様を煩わせるなよ」

    ドゥリーヨダナたちは岡田刑事を引っ張って空き地、こと神社に向かった。



    太陽の遮られた神社は薄暗かった。

    「不気味じゃ」

    岡田刑事が言うように、神社にも子猿に似た子供の石像が並べられていて不気味だ。
    赤い鳥居と小ぶりな本殿が、岩に張りつくようにあった。空き地だと思ったのは、後ろに大きな岩壁があり、木を遮っていたからだ。
    ビーマたちは歩きまわった。

    「古そうに見えて金かかっとるな」

    神社は野晒しの割に綺麗だった。
    鳥居は崩れそうにもないし、石畳は掃き掃除がされた跡がある。
    砂の上に大小の足跡まであり、人の痕跡が村のどこよりも濃い。
    ビーマは本殿の方にのぼり、格子の向こうを覗き込んだ。

    「これ、中通れそうだな」
    「わし様興味なーい」

    ビーマは入ってみれば何かあるかもしれないと思ったが、ドゥリーヨダナは爪を見てこの発言。
    神社を見に行くと言ったのはドゥリーヨダナだというのに。
    グッと睨むと、馬鹿にしたように笑われた。

    「そんなに気になるなら、行ってみれば良かろう。わし様は歩くの嫌だから行かないけど」
    「そういう問題か?」
    「もう日も暮れる。わし様の用は終わったから寺に帰るぞ」

    そう言ってとっとと寺に向かって歩き出すので、後ろ髪引かれながらも、ビーマたちは寺へと戻った。



    夜、寺。
    ビーマが風呂を上がると、岡田がしょもしょもと台所に座っていた。

    「おい、岡田さん。そんなとこで何してんだ」
    「助手さん、風呂出たがか」
    「…もしかして何も食ってないのか」
    「キッチンの使い方がよう分からん」

    お腹を空かせて萎びた茄子のような岡田を哀れに思った。

    「何か作ってやる。少し待ってろ。苦手なものあるか?」
    「臭いのキツイ野菜は嫌いじゃ」

    適当にエプロンを引っ掛けてビーマは調理に取り掛かった。卵、昼の野菜の残り、米、各種調味料。
    簡単に考えて、中華にすることにした。
    各種食材を刻み、強火で炒め合わせる。
    ものの数分で、炒飯と野菜炒めが出来上がった。

    「大したもんじゃねえが、ぜひ食べてくれ」

    食卓の上に温かいものを並べれば、岡田は顔を綻ばせ、がっついた。

    「うまい!うまい!助手さん、おまんは料理の天才じゃっ!!」
    「助手じゃなくてビーマでいい。喜んで貰って何よりだ。どんどんおかわりしてくれ」

    そう言えば、岡田刑事は目を輝かせた。
    酒も入ってくれば、ベラベラと話出す。

    「飯がうまい、気もえい、顔も男前。東京モンは大した才もないくせに偉そうにしちょる奴ばかりじゃと思っちょったが、ビーマ、こがな立派な奴はそうおらん!おんしモテるじゃろ!」
    「…何人かと付き合ってみたが、あまり長く持たなくてな」
    「ご立派すぎると邪魔だからな」

    風呂場へと向かうドゥリーヨダナがビーマたちに口を出してきた。
    その顔は愉悦に歪んでいる。

    「ビーマくんはワタシにはちょっと荷が重すぎるかなーって、何度言われて断られたか分からんもんな」
    「黙れ」
    「はー、人の心は微妙なとこもあるき、ご立派だとそげなこともあるじゃの」
    「どちらかといえば体の一部がな。ええっと、口でするから、…ダメかな?、って絶対言われとるだろ。面白ろ」
    「ぶっ殺す」

    ケラケラと逃げるドゥリーヨダナをビーマはぶん殴った。
    それから、たらふく飲み食いした岡田は眠りこんだ。それを布団に寝かせ、ビーマは自身が寝る準備を整えた。
    さあ寝ようというところで、風呂を上がりのドゥリーヨダナが寄ってきた。

    「こんなところでまで下着一枚で寝るのか」
    「別に良いだろ。寝るときは暑いんだよ」

    乾かしたばかりなのか、髪を緩く纏めている。夜着はテカテカとして無駄に高そうだ。ドゥリーヨダナは遠慮もなくビーマの隣に腰掛け、聞いた。

    「それで?高杉巡査とあの神子、白か黒か」

    元々ビーマはこのために連れてこられたのだから、素直に答える。

    「高杉は黒、神子は白」
    「やはり高杉が仕込みか」
    「道理で考えれば、そうだろ」

    ビーマは悪心を見分けられる。悪意を持っているか、害意を持っているか、嘘をついているか。正確には見分けるというより、総合的な様子をみて直感するという方が正しいが、あえて見分けるという。精度は高い。
    ドゥリーヨダナは肩をすくめた。

    「おまえの嗅覚、本当に便利よな。鬱陶しいくらいだ」
    「おう、おかげで鍛えられた」

    鼻で笑ってやれば、ドゥリーヨダナはうぎぃ!と悔しがった。
    これは、耳触りの良い言葉で人を弄するドゥリーヨダナに対策するために磨かれた能力なので、コイツがやらかす度に存分に発揮せてもらう。
    コイツの口の巧さでは俺くらいしか対応できまい、という自負がビーマにはあった。
    ドゥリーヨダナは醜態をやっと取り繕い、ビーマを睨みつけた。

    「明日、神子のところに会いに行く。準備しておけよ」

    きっと明日は神子のところで種明かしだろう。しかし、その程度で『やましろの会』は解体できるのか。
    ドゥリーヨダナが上の部屋に上がっていく。

    「おやすみ」
    「…おやすみ」

    ビーマもまた明日に備えて眠った。



    翌日、ドゥリーヨダナは寝心地の悪い布団を出てキッチンに降りた。

    「むっ、ビーマがおらんな」

    腹が減ると言って、早起きする奴だからてっきりキッチンで朝食の準備をしておると思ったが。
    ビーマの寝床を確認しても居ない。
    首を傾げて岡田を起こしにいく。

    「おい、岡田!岡田!!起きろ!」
    「むぅ、なんじゃあ朝から」
    「おまえはビーマの隣部屋で寝ておっただろう。どこに行ったかしらんか」
    「えー昨日なんかゴソゴソちょったが、わし酔っ払っとったき、よう知らん…」
    「そうか。とりあえず探すぞ」

    ドゥリーヨダナと岡田刑事は寺の中を探し回った。しかし、人影すらない。
    あと残るのはお御堂くらいだ。

    「流石のビーマもお御堂の中で寝るなどしないと思うんだが」
    「センセ、とりあえず開けてみるぜよ」

    岡田がお御堂の戸を開け放つと同時に、大きなものが、ボトリと倒れ込んできた。

    「ギャッ!!これ!これっ!!」

    人形のようなそれに頭はない。
    ただ確かな重みをもって、造形をもって人の死体だと主張している。
    しかし、それ以上にその格好が問題だった。
    浅黒く大きな体躯、黒いダウンジャケット、ジーンズ、そしてスニーカー。

    「…ビーマ?」

    ドゥリーヨダナは呆然と呟いた。
    突然現れたビーマそっくりの首なし死体。
    ドゥリーヨダナ教授の明日は…?

    To be Continued→
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