❏設定❏
・人間設定のレンカイ
・蓮(レン)=人気アイドル
・海斗(KAITO)=無名モデル
・未来(ミク)=海斗の妹
・海斗が枕営業をしているという設定あり
・上記の理由からモブレ要素あり
・上記の理由から海斗がトラウマを抱えているという設定あり
・展開次第で年齢設定や細かい部分は変えるかも
❏本文❏
~モデル撮影のスタジオ~
蓮「本日はよろしくお願いします!」
モブA「おお、今をときめく人気アイドル様のお出ましじゃないか!」
蓮:スタジオ入りして早々に、小太り気味の中年男性からおべっかを使うようにそう言われると、焦ったように両手を胸の前にかざして、その両手を勢いよく左右に振る
蓮「そ、そんな、よしてくださいよ!」
スタジオ内:二人のやり取りを見ていたスタッフ数人がくすくすと笑い声を上げ、一気に和やかな雰囲気に包まれる
モブA:その雰囲気の中心で蓮をからかっていると、やがて何かに気がついたような声を上げ、蓮に背を向けながら大きく手を振る
モブA「お、きたきた……おーい、海斗、ちょっとこっちまで来てくれるか!」
蓮(……海斗? あ、もしかして……)
蓮:一緒に撮影をするモデルとは当日に顔合わせをするとのことで、軽く名前だけは聞いており、もしやと思いながらモブAの話に耳を傾ける
モブA「蓮くん、紹介するよ」
蓮:モブAの背後からひょっこりと顔を出すようにして、はるか前方に立っている人物に目を向ける
海斗「……」
蓮「……」
蓮(うわ……)
蓮:その人物は、長身でありながらも男とは思えないほど綺麗な顔立ちをしていて、細い体といい、すらりと伸びた長い手足といい、《THE・モデル》といった第一印象を受け、思わず感嘆の声を漏らす
蓮(さ、さすが、モデル……同じ人間とは思えないほど、綺麗な人だな……)
蓮:息を吞みながらその人物に見惚れていると、当の本人は蓮よりも年上にしか見えない容姿をしながら、そうとは思えない態度でふいっとそっぽを向く
海斗「紹介はいい、知ってる」
蓮「……」
蓮:ぶっきらぼうにそう言い放たれてしまい、呆気に取られてキョトンとする
モブA「ま、そうだよな。最近デビューしたばかりだから、もしかするとお前が知らない可能性もあるかと思ったけど……わずか十五歳で芸能界の頂点に立った、今をときめく人気アイドル様を知らないわけがないよな」
蓮「だ、だから! よしてくださいってば!」
蓮:それが本心だろうと、お世辞だろうと、他人から持ち上げられることに慣れていないのか、軽く苦笑いを浮かべながら嫌がるようにそう言う
モブA「だって、本当のことだろ。デビューからまだ三ヶ月しか経ってないのに、デビュー曲のMVはすでに五億回も再生されてて、わずか三か月で芸能界の頂点に立った新進気鋭の国民的アイドルなんて呼ばれて、もてはやされてるんだから。そんな謙遜してないで、もっと堂々と胸を張るべきじゃないか?」
モブA:このこのなどと言いながら、蓮の二の腕あたりを片肘で小突く
蓮:たじたじになりながら、愛想笑いを浮かべる
モブA「だけど、ほら……蓮くんはお前のことを知らないから、一応紹介はしとかないと」
海斗「……」
海斗:二人から視線をそらすと、ちっと舌打ちをする
蓮:びくりと肩を震わせる
蓮(も、もしかして……結構、怖い人……なのかな……)
モブA「あちゃー、ごめんな蓮くん、怖がらせちゃって。難しい奴なんだよ、色々と……」
モブA:蓮の耳元に唇を寄せて海斗には聞こえない声でそう言うと、すぐに体を離して海斗の紹介を始める
モブA「彼は海斗。二十五歳。十八歳の時からモデルをやってる、いわば大ベテランだ。モデルは初挑戦で緊張してるだろうけど、なにかあったら彼を頼ってくれ」
蓮「そ、そんなに長く? 凄いですね、海斗さん!」
蓮:素直に感動した様子で、キラキラと瞳を輝かせる
海斗:眩しいほどに煌めいている蓮の瞳を目にした途端、不快そうに顔をしかめる
モブA「それじゃ、俺は別の仕事の打ち合わせがあるから、これで」
蓮「あ、はい! どうも、ありがとうございました!」
モブA「可愛いからって、食うんじゃねーぞ?」
モブA:去り際に海斗の肩に手を置き、海斗の耳元に唇を寄せながらそう言うと、その場を去っていく
蓮「……?」
海斗「……」
蓮:何を耳打ちしたんだろうかと、不思議そうに首を傾げる
海斗:表情は変えずに、きつく両手を握りしめる
~場面転換~
蓮・海斗:撮影開始の直前となり、カメラの前にスタンバイする
蓮:緊張した面持ちと共に、慣れない様子でその場に突っ立っている
海斗:カメラを前に一度だけ目を閉じると、すぐに瞼を開き、すっと仕事モードに入る
蓮(す、すごい……さっきとは、別人みたいだ。あれだけ、近寄り難い雰囲気だったのに……)
海斗「……」
蓮:先ほどから感じていたピリピリとした雰囲気とは正反対に、爽やかな雰囲気を醸し出す衣装にぴったりなふわりとした笑顔を浮かべる海斗に見惚れてしまうも、感心する間もなく撮影が始まってしまい、無我夢中で人生初のモデル撮影に挑戦する
カメラマン「……」
カメラマン(まさに、陰と陽だな――……)
カメラマン:シャッターを切る瞬間は注文通りの表情を浮かべるも、一瞬でも気を抜くと影のある表情に戻ってしまう海斗と、なかなか注文通りの表情は撮れなくとも、だんだんと緊張が解けてきたのか、屈託のない笑顔を浮かべはじめた蓮を撮影しながら、心の中で呟く
~場面転換~
蓮「海斗さん、お疲れ様でした!」
海斗「お疲れ」
海斗:蓮がしっかりと頭を下げながら礼儀正しく挨拶をしてくるも、ふいっとそっぽを向きながらぶっきらぼうな返事をする
蓮「あ、あの……俺、モデルの仕事は初めてだったんですけど、海斗さんのおかげで楽しめました……そ、その……海斗さんさえよければ、また一緒に撮影したいです……」
蓮:頬を赤らめながら、ドキドキと胸を高鳴らせる
海斗「お前、もうこの仕事はやるな」
蓮「え?」
海斗「……いや、そうじゃねえな。アイドルだろうが、モデルだろうが、やりたけりゃ好きにやればいい……ただし、俺がいない場所でならな」
蓮「な、なんでですか!?」
海斗:自分がした発言によって戸惑っている様子の蓮の顎を、指先でクイッと持ち上げる
海斗「俺に近付くと、火傷するからだよ」
蓮「……っ!? そ、それって……」
海斗:蓮の顎から手を離すと、スタスタとその場を去っていく
蓮:ポカーンと間抜けな表情を浮かべながら、海斗の後ろ姿を見送る
~スタジオ内の廊下~
蓮「……」
蓮(海斗さんに近付いたら、火傷する、か……こんなセリフ、現実世界で言う人いたんだ……)
蓮:出口に向かって歩きながら、海斗がいる現場ではモデルの仕事をするなと言われたことが脳裏をよぎる
蓮(もしかして、俺の好意に気付いてたのかな……ということは、もしかして、もしかしなくても……暗に振られた!?)
蓮:ガーンとショックを受けると、表情を引きつらせる
ガタンッ!
蓮「……っ!?」
蓮:突然謎の物音がして、びくりと肩を震わせる
蓮(な、なんだ!?)
蓮:恐る恐るといった様子で物音がした部屋を覗くと、大きく目を見開く
モブB「どうした、もう終わりか? もっと奥まで咥えろと言っているだろう。同じことを、何度も言わせるんじゃない」
海斗「仕事終わりで、疲れてますから……」
海斗:モブBの正面に膝をつき、モブBの性器を前に口元を手の甲で拭っている
モブB「その仕事は、誰のおかげでもらえていると思っているんだ」
海斗「……社長の、おかげです」
モブB「ああ、その通りだ。少しでも恩を感じているなら、些細な反抗などしていないで、私の命令どおりに奉仕しろ」
海斗「……はい」
蓮:口元を手で押さえると、思わずといった様子で後ずさりをする
蓮(な、なんだ、これ……あれは、海斗さん……? あの人は、社長……って、言ってた……これって、も、もしかして……)
モブB「口はもういい、立て」
海斗「……はい」
蓮「……っ!?」
蓮:衝撃の光景を目の当たりにして一瞬だけ放心していたものの、二人の会話を耳にした途端にハッと我に返る
蓮「――……っ、あ……」
モブB:海斗を立たせて壁に手をつかせると、ためらうことなく海斗の中に性器を挿入する
海斗「……っ、あ……ん、んん……っ」
モブB「いいか、海斗。お前は、私のモノだ……よく、覚えておけ」
モブB:腰を突き上げるたびに、ぱんっ!ぱんっ!と肌がぶつかる音が部屋中に響く
海斗:壁に手をついた体勢で顔を伏せ、モブBに突かれるたびに甘い声を漏らす
蓮「――……っ!」
蓮:急速に込み上げてきた吐き気によって口元を手で押さえると、その場から逃げ出す
~場面転換~
蓮「う、え……! げほ……!」
蓮:トイレの手洗い場で吐いてしまい、涙目で口元を拭いながら正面の鏡を見る
蓮(なんだったんだろう、今の……海斗さんと、社長って呼ばれてたあの人は、恋人関係なのか……? いや、そんなわけない……あれは、どう考えても……)
蓮「う……っ、……」
蓮:再び吐き気が込み上げてくると、口元を手で押さえる
海斗「……! お前……」
海斗:モブBから中に出された精液をかき出すためにトイレに入ってくるも、予想外の先客の姿に驚いた表情を浮かべる
蓮「海斗、さん……」
海斗「……なんだ、まだ帰ってなかったのか」
蓮「海斗さんこそ、こんな時間まで一体何をしてたんですか」
蓮:まるで睨みつけるような視線を海斗に送りながら、普段より低い声で問いただす
海斗:蓮の言葉に驚いたのか、少しだけ目を見開く
蓮:今にも泣きだしそうな表情で、顔を歪めている
海斗:すぐに状況を理解すると、わずかに口角を上げる
海斗「見てたんだ」
蓮「……っ! なんで、あんなことしてるんですか……!?」
海斗「言いたくない」
蓮「言ってください! なにか事情があるんですよね? 海斗さんが望んでしている行為には見えなかった……お、俺が、力になれることがあるなら……!」
海斗「はあ…………」
蓮「……っ!?」
海斗:蓮の言葉を遮るように、わざとらしく深い溜息を吐く
海斗「なんで、今日会ったばかりの他人に、そんなことが言えるんだよ」
蓮「な、なんでって……目の前で苦しんでる人がいたら、ほっとけないじゃないですか……」
蓮:海斗さんのことを、好きになってしまったからです……などと言えるはずもなく、それらしい言い訳をしながら、罪悪感によって目をそらす
海斗「俺が苦しんでるって、いつ言った?」
蓮「そ、それは……! い、言ってない、ですけど……」
海斗:上手く反論できずにだんだんと言葉尻を小さくしていく蓮を忌々しげに睨みつけると、トイレの壁にドンッと押さえつける
蓮「――……っ!? い、痛……っ、か、海斗、さん……?」
海斗「お前を見てると、虫酸が走るんだよ……恵まれた環境で育ってきて、あっさりと夢を叶えて、成功して……この世界の汚い部分なんて、一度も見たことがないって顔で、キラキラして……」
蓮「……っ、う、うう……う~~っ」
蓮:涙でぐちゃぐちゃになった顔で嗚咽を漏らしながら、ぎゅっと目を閉じる
海斗:その顔を見て、せいせいしたようにふっと笑う
海斗「その顔、お前のファンの女どもに見せてやりてーな」
海斗:満足した様子で体を離すと、ショックで俯いてしまった蓮を解放する
海斗「分かったなら、さっさと出ていってくれよ。あのジジイに中で出された精液、かき出さなきゃいけないから……」
海斗:蓮の耳元に唇を寄せると、純粋でうぶそうな蓮を挑発しているのか、はたまた汚そうとしているのか、わずかに口角を上げながらそう囁く
蓮「――……っ!」
蓮:海斗の囁き声が合図になったかのように突然走り出すと、逃げるようにその場を去っていく
海斗「……」
海斗:誰もいなくなったトイレの個室に入りズボンと下着を下ろすと、ドアに片腕をくっつけて、その腕で目元を覆い隠しながら指で事後処理をする
海斗「……っ、ん……ぁ……」
海斗:意に反して甘い声を漏らしてしまい、眉根を寄せながら事後処理を続けていくと、中からとろっとした液体が流れ出し、指先を伝っていく不快感に顔全体を歪ませる
海斗「――……っ!」
海斗:片腕で顔を覆い隠したまま、反対側の手でドンッと壁を殴りつける
~数日後~
蓮:一目惚れをした海斗が枕営業をさせられている事実を知った時のショックが抜けきれず、暗い表情を浮かべている
マネ「蓮くん、次の仕事の打ち合わせ……って、あら、やけに暗い顔をしちゃって、一体どうしたの?」
蓮「マネージャーさん……いえ、なんでもないです……それより、モデルの仕事でお世話になった海斗さんについて、聞きたいことがあるんですけど……」
マネ「なに?」
蓮「彼が載ってる雑誌を知りませんか? 随分と探したんですけど、全然見つからなくて……」
マネ「そうね、彼はあまり有名なモデルじゃないから、自分で探すのは難しいわよね」
蓮「有名なモデルじゃない?」
マネ「ええ、世間的には名前を知られていないみたいだし、蓮くんみたいな人気アイドルと撮影をするような大きな仕事は、これまでの経歴を読んだ限りではほとんどなくて、普段は小さな仕事しかやっていないみたいなのよ」
蓮「そう、ですか……」
マネ「まったく、なにを残念がっているのよ。彼の事務所から、彼が載っている雑誌は何冊かいただいてるわ。いま、持ってくるわね」
蓮「――……! はい、お願いします……!」
蓮:呆れたようなマネージャーの一言に、塞ぎこんでいた表情が一変すると、眩しいほどの笑顔を浮かべる
~場面転換~
蓮:テーブル上に並べられた雑誌のうちの一冊を手に取り、パラパラとめくっている
蓮「……」
蓮:海斗が載っているページが目に留まるたびにページをめくる手を止めると、見惚れたような表情を浮かべて、雑誌の中の海斗をじっと見つめる
マネ:その様子を、何かに気がついているかのような表情と共に、少し離れた場所から微笑ましげに見守っている
マネ「すごく雰囲気のある子なのに、なぜ有名なモデルになれないのかが不思議だわ」
蓮「俺も、そう思います……」
蓮(海斗さんが綺麗で、雰囲気のあるモデルだからって理由もあるにはあるけど、枕営業までしているのに有名になれないなんて、どう考えてもおかしいじゃないか……)
マネ「私は人気アイドルのあなたと無名なモデルを一緒に撮らせるなんて、反対だったんだけどね……あの時は……」
マネ:何かを言いかけるも、すぐにしまったという表情を浮かべると口ごもる
蓮「……それは、どこかから圧力がかかって、引き受けた仕事だったってことですか?」
マネ「……」
~モデル撮影のスタジオ~
モブA「あれ、蓮くんじゃないか。どうしてここに? 今日は仕事で来たわけじゃないんだろ?」
蓮「あ……え、えっと、海斗さんに、会いたくて……」
蓮:頬を赤らめながら、モブAから視線をそらす
モブA「おいおい……まさか、本当にあいつに食われちまったのか?」
蓮「え?」
モブA「ここだけの話なんだが、あいつ、男相手に枕営業をしてるらしいんだよ。大の男好きだって噂、モデル業界で働くやつらは皆知っててね」
蓮「な……!」
モブA「はは、十五歳には刺激が強かったか。でもな、あいつに惚れたところで、君の輝かしい経歴に汚点を残すだけだ。悪いことは言わないから、傷が浅いうちに縁を切るんだぞ」
モブA:一方的に喋り終わると、その場を去っていく
~場面転換~
海斗:撮影を終えてスタジオ内を歩いていると、ふと目の前に蓮がいることに気がつく
蓮「……」
海斗「……」
海斗:無視して通り過ぎようとする
蓮「あの、お喋りな人から聞きました……」
蓮:構わず喋りかける
海斗(お喋り? ……ああ、あいつか)
海斗:モブAの顔が脳裏に浮かぶ
蓮「男好きだなんて、嘘ですよね?」
海斗「ああ、嘘だな……俺、女が好きだし」
海斗:あっさりと認める
蓮「だったら、なんで否定しないんですか!? 別に同性を好きになることが悪いって言ってるわけじゃありません……だけど、男好きだなんてあらぬ噂を広められてるばかりか、影で笑い者にされたり、酷いことを言われてるんですよ!?」
海斗「お前、何しに来たんだよ」
蓮「……っ!」
蓮:勝手に感情的になって勝手に怒鳴っている自分とは違い、落ち着いた態度で冷たく突き放すような言葉を投げかけてくる海斗の態度に一瞬だけ閉口すると、ショックを受けたように目を見開く
蓮「……」
蓮:いたたまれない気持ちになって、床に視線を落とす
蓮「海斗さんは、あまり有名なモデルじゃないって……さっき、知りました……それなのに、人気アイドルの俺と撮影をさせるように、誰かから圧力がかかってきてたって……俺の、マネージャーさんが……」
蓮:自分で自分のことを人気アイドルなどと言いたくはなかったものの、マネージャーが口にしかけた言葉が真実なのかを問いただそうと、震える声で海斗に語りかける
海斗:そんな蓮の様子にも一切動じることなく、はっと自分へのあざけりも交えながら、最近出会ったばかりの他人の問題に対して敏感になり、本気で傷ついている様子の蓮を嘲笑する
海斗「人気アイドル様と、無名モデルのコラボレーションか……なんで、そんなことが起きるんだろうな」
蓮「あの社長が、手を回したんですよね。それくらい、俺にも分かります。でも、ただ一つ分からないのは……なんで海斗さんが有名になっていないのかってことです。枕営業って、お互いの利益のためにすることじゃないんですか? 海斗さんは、モデルとして成功するため……あの社長は、その……海斗さんの体を……手に入れる、ため……」
海斗「……」
蓮:まだ性的なことへの耐性がないのか、言いにくそうな様子で言葉尻を小さくしていく
海斗:そんな蓮の様子を無表情で見つめた後、口を開く
海斗「俺は、モデルとして成功したいなんて思ったことは一度もない」
蓮「……!」
蓮:驚いたように目を見開く
海斗「普通の仕事より、少しでも多く金が稼げればそれでいい」
蓮「意味が、分かりません……だったら、それこそなんで枕営業なんかしてるんですか……それに、有名になったほうがお金を稼げるじゃないですか……!」
海斗「俺が有名になれないのは、単に実力がないだけだろ。だから、枕営業なんて汚いことをやってでも、少しでも多く金を稼ぐしか手段がない……」
海斗:自分でもおかしなことを言っていると気がついているのか、だんだんと声のトーンを落としていきながら、わずかに声を震わせる
蓮「ですから、お金を稼ぎたいだけなら、仕事はいくらでもあるじゃないですか……!」
海斗「……」
海斗:だんだんと苛立ちを覚えてきているのか、指先が白くなるほど強く両手を握りしめながら蓮を睨みつける
海斗「皆が皆、お前みたいに単純に生きてると思うか……世の中ってのは、複雑にできてるんだよ……成功しか知らないお前には、分から……」
蓮「だったら、もっと複雑にしてあげましょうか? 海斗さんのことが、好きです……好きに、なっちゃいました……」
海斗:蓮の口から予想もしていなかった言葉が飛び出てくると、驚いたように目を見開く
蓮:海斗が抱えている心の闇は、これまで何の不幸も感じることなく幸せに生きてきた自分には想像もできないものなのだろうと思うと、じわりと瞳に涙を浮かべる
蓮「だから、俺は海斗さんにも、もっと単純に生きてほしいんです。普通に生きたいなら普通に生きて、夢があるなら夢を追いかけて、楽しい時は笑って、悲しい時は泣いて……そんなふうに、単純に生きてほしいんです……!」
海斗「……け、んな」
蓮「……え?」
海斗「――……っ! ふざけんなって言ったんだよ! 俺は、男好きなんかじゃない! 男に告白されたって、ただの迷惑なんだよ!」
海斗:モブBを含め、これまで沢山の男達に無理やり犯されてきた時の光景が脳内でフラッシュバックすると、その光景を見まいとするように目元を手で押さえて叫ぶ
海斗「あのジジイに、ジジイが代わる代わる連れてくる男どもに、今度はお前かよ! どいつもこいつも、俺を弄びやがって……!」
蓮「ま、待ってください! 俺は海斗さんを弄ぼうなんて、そんなつもりは……!」
海斗「うるさい……!」
海斗:叫びながら脱力すると、ガクリとその場に崩れ落ちる
海斗「もう、まっぴらだ……っ、俺は、こんな……っ、こんな、の……嫌、なのに……」
蓮「家まで、送ります……」
蓮:海斗が肩を震わせて泣きだすと、更にトラウマを刺激することのないように気をつけながら、背後からぎゅっと抱きしめる
~場面転換~
蓮「海斗さん、着きましたよ」
蓮(ここで、あってる……よな……?)
蓮:閑静な住宅街にあるごく普通の一軒家の前に到着すると、泣き疲れたのかタクシーの中で眠ってしまった海斗の肩を軽く揺さぶりながら声をかける
蓮(寝顔は、子供みたいだな……)
蓮:無意識のうちにふっと微笑むも、すぐにハッと目を見開くと我に返る
蓮(つい、可愛いなんて思っちゃったけど……年上相手に失礼だろ、俺……)
蓮:タクシーから降りて眠っている海斗に肩を貸すと、いくら細身とはいえかなりの身長差がある海斗を運ぶのに苦労しながらも、やっとの思いで玄関まで到着する
蓮「海斗さん、家の鍵は?」
海斗「……」
海斗:蓮に呼びかけられても反応はせずに、すうすうと規則正しい寝息を立てて眠っている
蓮(どうしよう……さっき勢いで告白したら警戒されちゃったし、海斗さんに対して何とも思ってない人が鍵を探すのを理由に体を探るのはいいとしても、海斗さんに対して好意を持ってる俺がそんなことをするのは、まずいよな……あ、そうだ……海斗さん、ご家族はいるのかな……?)
ピンポーン……
蓮:海斗に家族がいることを願いながら、チャイムを鳴らす
ガチャッ……
蓮「あ、あの……!」
蓮:どうやら海斗には家族がいたらしく、内側からドアが開いたため挨拶をしようとして身構えるも、中から出てきたのは小さな女の子で、予想外の事態に目を見開く
~場面転換~
蓮「未来ちゃん、お兄さんのお部屋は?」
未来「あそこだよ」
蓮「そっか、ありがとう、ベッドに寝かせてくるね」
蓮:未来に教えてもらった海斗の部屋に入り、海斗の体をそっとベッドに横たえさせると、不躾な行いだと分かっていながらも、思わずといった様子で部屋の中を見まわす
蓮(質素な部屋……生活に必要なもの以外、何も置かれてない……モデルの仕事でそれなりに稼いでるのかなと思ってたけど、とても、そんなふうには見えない……)
蓮:海斗の体に布団をかぶせると、部屋を後にする
未来「お兄ちゃん、どうしちゃったの?」
蓮:部屋を出てすぐに、心配そうな表情で自分を見上げる未来の存在に気がつくと、目線を合わせるようにその場にしゃがみこみ、少しでも安心させようと笑顔を浮かべる
蓮「お仕事で疲れてたみたいで、タクシーの中で寝ちゃったんだ」
未来「そっか」
未来:心配するようなことは何もないと分かったのか、安心したように笑顔を浮かべる
蓮「えーっと……俺は、鏡音蓮っていうんだけど……」
未来「知ってる、テレビに出てるもん!」
蓮「あ、知っててくれたんだ、嬉しいな」
未来「蓮お兄ちゃんって呼んでいい?」
蓮「いいよ」
蓮・未来:お互いに、にっこりと笑いあう
未来「あのね、この前お兄ちゃんとテレビを見てた時にね、蓮お兄ちゃんを指さして、未来も蓮お兄ちゃんみたいな、皆を笑顔にできるアイドルになりたいって言ったの、そしたら、お兄ちゃんが応援してくれたんだよ!」
蓮「優しいお兄さんなんだね」
未来「うん! 大好きなお兄ちゃんなの!」
蓮:未来の言葉に照れくさそうに頬をかき、嬉しいような恥ずかしいような気持ちから思わずはにかみ笑いを浮かべると、やがて何かに気がついたかのようにキョロキョロと周囲を見まわす
蓮「……お父さんと、お母さんは? もう遅い時間だけど、共働きなの?」
未来「いないよ?」
蓮:未来がキョトンとしながら口にした言葉に、思わず目を見開く
未来「あのね、お父さんとお母さんは、未来が生まれてすぐに、借りたお金を返さないで、いなくなっちゃったんだって。だけど、お兄ちゃんがね、学校を卒業して働けるようになってからは未来を引き取ってくれて、モデルのお仕事を始めて育ててくれたの」
蓮「……」
蓮:未来の話に聞き入りながらだんだんと目尻に涙を溜めていくも、その涙をこぼさないようにぐっと歯を食いしばる
海斗「……」
海斗:蓮が運んでくれた部屋の中で目を覚ます
未来「でもね、お兄ちゃん、モデルのお仕事をやめたいって言ってたらしいの。だけど、まだ借りたお金が沢山残ってるから、やめられないんだって。お隣りのおばちゃんが噂してるのを、聞いちゃったの」
海斗:しばらくの間何をするでもなく天井を眺め、やがてゆっくりと体を起こすと、重たい足取りで部屋を出る
蓮:ついに堪えきれなくなったのか、ぽろぽろと涙をこぼす
未来「蓮、お兄ちゃん……?」
蓮「俺が……お兄さんと、君を助ける……! 絶対に……!」
蓮:思わず未来を抱きしめるも、ふと目の前に海斗がいることに気がつくと、まだ未成年とはいえいい年をした男が幼い妹を抱きしめている光景を海斗が目の当たりにしていることに気がつき、顔からサーッと血の気が引いていく
海斗「お前、俺の妹に何やってんの?」
蓮(わあ! 最悪のタイミング……!)
~場面転換~
海斗「妹から聞いた話は、それで全部か?」
蓮「……」
蓮:二人の両親がいなくなったことや、海斗がモデルの仕事を始めた経緯について聞いたことは話したものの、海斗がモデルを辞めたがっていることを未来が知っているということは話すことができず、どう答えるべきかと視線を落とす
蓮(きっと、妹さんに対しては弱い部分を見せないようにしてきたんだろうな……それなのに、あんなふうに弱音を吐いてしまっていたことを、妹さんに知られていただなんて……言えるはずがない……)
蓮「……全部、です」
海斗「……」
海斗:蓮の嘘を見抜こうとしているのか、それともすでに見抜いているのか、数秒ほどじっと蓮の顔を見つめ続けるも深くは追及せず、すぐに視線を外す
海斗「借金を肩代わりしようなんて思うなよ、同情されるのはまっぴらだ」
蓮「……分かっています」
蓮:海斗ならそう言うだろうと思っていたため、床に視線を落としたまま力なく頷くと、無力感に押し潰されそうになりながらも、そっと顔を上げる
蓮「あの、妹さんは何歳ですか?」
海斗「七歳」
蓮「……」
蓮(七歳、か……海斗さんは、いま二十五歳で、十八歳の時からモデルの仕事を始めたって、あのお喋りな人が言っていたような……)
蓮:頭の中で二人の年齢を引き算してから、ぐっと唇を噛みしめる
蓮「海斗さんは、生まれたばかりの妹さんのために、七年間も頑張ってきたんですね……」
海斗:蓮が声を震わせながらそう呟くも、その呟きには一切返答することなく、表情を変えずに口を開く
海斗「お前、どうやって俺と妹を助けるつもりなんだ?」
蓮「それは、まだ考えていません……俺がアイドルの仕事で稼いだお金で借金を肩代わりすれば、簡単に助けられるんだろうけど……たった今、それは駄目だって言われたばかりだし、そもそも、海斗さんにそう言われる前から、海斗さんはお金に物を言わせるやり方は好きじゃないだろうなって思ってたので……仮にそんなやり方で助けることができたとしても、海斗さんのプライドを深く傷つけてしまうと思うと……それだけは、絶対に嫌なので……」
海斗「似たようなことを前にも言った気がするけど、なんで赤の他人にそこまでできる? 俺のことが好きだから?」
蓮「……」
蓮:元々男性が恋愛対象というわけでもないのに、長年にわたって多くの男性から体を弄ばれ続け、そのせいで男好きだというあらぬ噂を流され、ずっと耐え続けてきたにも関わらず、今度は男性である自分から告白され、まるでダムが決壊するかのように、好きという言葉一つにあれほど取り乱していた海斗が、一転して淡々と問いかけてきたことに戸惑いつつも、ゆっくりと口を開く
蓮「最初から、善人ぶるつもりはありません……借金で苦しんでる人は、海斗さんの他にも大勢いるだろうけど……俺が助けたいのは、海斗さんだけです」
海斗「……」
海斗:蓮からの嘘偽りのない正直な返答を耳にして、しばらくの間無表情で蓮の顔をじっと見つめると、突然体を近付けてキスをする
蓮「――……っ!? か、海斗さん!? ……っ、ん……」
蓮:一瞬何が起きたのか分からずに目を見開くも、海斗にキスをされたことに気がついた途端に顔を真っ赤にすると、予期せぬ初めてのキスに戸惑いながらも目を閉じる
蓮(海斗さん……なんで、キスなんか……? さっきは、あんなに……ううん、好きな人がキスをしてくれてるって時に、余計なことを考えるのはよそう……なにがなんだか、分かんないけど……もう、なんだっていいや……)
海斗:しばらくの間、ついばむようなキスを繰り返してから唇を離す
海斗「……」
蓮「……」