※小説として書き進めていた文章を会話文に変更したものなので、ところどころレンくんの独白が入ります。
※小説の文体から会話文の文体へ変更しにくかった場所は、話の流れ的に違和感があっても強引に独白を入れています。
❏設定❏
・人間設定のレンカイ
・蓮(レン)=大学生
・海斗(KAITO)=大学生
❏本文❏
蓮視点の独白:あれから二年の月日が流れて、俺は海斗さんと同じ大学に通っている。だけど、つい先日、海斗さんがあと一年で大学を卒業してしまうと悲嘆にくれていたところ、海斗さんから、そもそもなんで俺と同じ大学に入ったんだと今更な質問を投げかけられ、俺は正直に海斗さんと同じ大学に入りたかったからだと答えた。すると、海斗さんは露骨に引いたような表情を浮かべたばかりか、人のことをストーカーだのなんだのと揶揄してきたのだが、好きな人と一分一秒でも長く一緒にいたいと思うのは当然のことだと、なかば言い訳がましく主張したころ、まさかの事態が起きた。その日は、俺の二十歳の誕生日だった――。
蓮「……」
蓮視点の独白:今、俺は海斗さんが住んでいるマンションの部屋のドアを前にして、一本の鍵を大事に握りしめていた。誕生日のお祝いと称して、海斗さんがプレゼントしてくれた、海斗さんの部屋の合鍵だ――。
過去の海斗「一分一秒でも長く、一緒にいたい、ね……」
過去の蓮「と、当然じゃないですか……つーか、恋人をストーカー呼ばわりしないでくださいよ……」
過去の海斗「そんじゃ、はい」
過去の蓮「へ?」
過去の海斗「それ、お前にやるよ」
過去の蓮「なんですか、これ……鍵? はっ……か、海斗さん、まさか……」
蓮「……」
蓮視点の独白:俺があの言い訳をすることを見越して、わざとストーカー呼ばわりしてきたのではないかと疑ってしまうほど、なんとも自然な流れだった。さすがの海斗さんでも、まさかな……と、思ったけど、海斗さんならありえないことではない。俺の誕生日に渡すつもりで、あらかじめ合鍵を用意してくれていたみたいだから、十分にありえると思う。ちなみに、その時、俺は海斗さんから合鍵を渡されるという人生最高の一大イベント(?)に感動するあまり、しばらくの間涙が止まらないほど号泣したあげく、海斗さんに腹を抱えて笑われたのだった――。
蓮(……同棲……海斗さんと……俺が……)
蓮視点の独白:海斗さんと知り合ったばかりの頃の俺は、年齢も中身もまだまだ子供だったけれど、今は海斗さんに釣り合う大人の男になることができていると信じたい。俺が海斗さんを想う気持ちは、昔となんら変わっていない。それどころか、あの頃よりずっと、今のほうがもっと、海斗さんのことが好きだ。早く会いたい。顔が見たい。抱きしめたい。匂いをかぎたい。セックスしたい――。
蓮「……」
蓮視点の独白:昔より少しだけ変態になってしまった気がするが、男の成長とは得てしてそういうものだと、俺は自分に言い聞かせる――。
蓮「海斗さん、ただいま」
蓮視点の独白:合鍵を鍵穴にさしてドアノブを回す。家の中に入ると同時に、甘い香りが鼻孔をくすぐった。香水や芳香剤の香りというよりは、アイスやその他のデザートのような、美味しそうな匂い――。
蓮(海斗さんの、匂いだ……)
蓮視点の独白:これからはずっと、この匂いをいつでも堪能できるのか……なんてことを考えたが、さすがにその思考はかなり変態くさくないかと反省した――。
蓮「海斗さん?」
蓮視点の独白:玄関で靴を脱いで、廊下を歩いてリビングに向かう。その途中で海斗さんからの返答がないことを不思議に思った俺は首を傾げた――。
蓮「海斗さーん、いな……い、わけないか……」
蓮視点の独白:玄関には海斗さんがいつも履いている靴が無造作に脱ぎ捨てられていた。たった今、その靴を丁寧に揃えて家の中に上がってきたばかりなのだから、家の中にいないわけがない。これだけ呼びかけても返答がないということは、恐らく――。
蓮「……やっぱり。寝てたんだ、海斗さん」
蓮視点の独白:俺がさっきからずっと声をかけていた人物……そして、俺が愛してやまない人物である海斗さんは、リビングのソファに仰向けになった状態で、すうすうと規則正しい寝息を立てて眠っていた――。
蓮「こんなところで寝てたら風邪引くよ、海斗さん」
蓮視点の独白:俺はありがちな言葉をかけながら海斗さんの細い肩に手を添えると、その体を軽く揺さぶった。あの頃……俺が高校生だった頃から全く変わっていない海斗さんの細い肩が、俺の手の動きに合わせて左右に揺れる。海斗さんの体格は、この二年間で全くと言っていいほど変わっていない。反対に、あれから奇跡の成長を遂げた俺は、すっかりと海斗さんの身長を追い越してしまっていた。言うまでもないことかもしれないが、海斗さんからは、急に成長しすぎてキモイとか、第二次性徴期が遅れてやってきたのかとか、とにかく言いたい放題に好き勝手なことばかり言われ、挙句の果てには地球外生命体呼ばわりされたりもした。だけど、そんなことは些細なことだ。ずっと年下扱いをしてきて、おこちゃまだとか、童貞だとか、そんなふうに馬鹿にしてきた俺が急成長を遂げてしまったことで、海斗さんなりの悔しさや寂しさが発露したのだろうと、勝手な想像をして一人で納得している。今の俺の手には海斗さんの肩はすっぽりと収まってしまって、あの頃から変わっていないはずの海斗さんの体が、やけに細く、小さくなったように感じる――。
海斗「う……ん……」
蓮「起きてよ、海斗さん」
海斗「あと五分……」
蓮「そうじゃなくて、ベッドで寝てください」
蓮視点の独白:デートの約束や、セックスをする予定があるならば、寝起きはいつも機嫌が悪くなる海斗さんに殺される覚悟をしてでも起こそうとしたかもしれないが、残念なことに今日はそのような色めいた話は一切出ていない。つまり、本気で起こすつもりはなかったが、ソファで居眠りをしたせいで風邪を引いてほしくもなかった。ベッドまでの数歩の距離、時間にすると数秒間くらいは起きてもらわなければいけないが、それまでの辛抱ですよと心の中で訴えかける。それにしても、「あと五分」もありがちな寝言だなと、つい笑ってしまった――。
海斗「……」
蓮「仕方ないな」
蓮視点の独白:しばらく海斗さんの様子をうかがっていたが、いつまで経っても起きる気配はない。俺は海斗さんの背中と膝の裏に腕を回すと、そのまま海斗さんを抱き上げた。いわゆる『お姫様抱っこ』という抱き方で――。
蓮「軽……今まで、ちゃんと食ってなかったのかな……」
蓮視点の独白:海斗さんを抱き上げたのはこれが初めてではない。だけど、いつも同じ疑問が浮かんでしまう。同棲を始めてからは俺が海斗さんの分も料理を作っているけれど(ついでに言うと、家事全般を押し付けられているけれど)それは、つい最近になってからの話だ。高校生の頃とは違って、海斗さんより身長が高くなって、体格も良くなったとは言っても、俺もどちらかと言うと細身なほうだ。そんな俺が抱き上げても重さを感じないのだから、心配になってくるのは当然だろう。騎乗位や対面座位のような、海斗さんが上に乗る体位でセックスをしている時もついそのことを考えてしまって、集中しろなんて言われて怒られることもある――。
蓮「……やっば、ムラムラしてきた」
蓮視点の独白:海斗さんを抱き上げながら過去の情事を思い出してしまったせいだろうか、男の生理現象に襲われて焦りを覚えながらも、よからぬ考えが頭に浮かんだ俺は、自分の腕の中で無防備に眠る海斗さんを見つめて、ごくりと生唾を飲み込んだ――。
蓮(海斗さんを無理やり起こして、付き合ってもらうわけには……いかないよな)
蓮:そんな自分勝手な頼み事をしようものなら、一瞬で海斗さんの機嫌が悪くなるということは、長年の付き合いで嫌になるほど分かっている。海斗さんは主導権を握るのは好きでも逆に握られるのは嫌いだし、気分で人を振り回すのは好きでも逆に振り回されるのは嫌いだし、とにかく我儘放題な人だから、一度機嫌を損ねたら宥めるのが大変だ……と、本人の前では決して口にできないようなことを心の中で考えていると、ふいに俺の腕の中で海斗さんが身じろぎをした――。
海斗「ん……っ、れ、ん……」
蓮「……?」
蓮:海斗をベッドで寝かせるために寝室に連れて行こうと思い、前方へと向けたばかりだった視線を落として海斗を見る
蓮「なんですか、海斗さん」
海斗「……」
海斗:蓮の問いかけには答えずに、再びすうすうと規則正しい寝息を立てはじめる
蓮「なんだ、寝言か」
蓮:ふっと微笑みながら寝室に向かって歩きだすも、すぐにピタリと足を止める
蓮「……って、あれ? 海斗さん、今、寝言で俺の名前を呼んだ?」
海斗「……」
蓮「……」
蓮:寝言で名前を呼ばれたということは、いま海斗さんは俺の夢を見ているのか……という考えに至ったところで、プツンと理性という名の糸が千切れ、虚しく宙を舞って地面に落ちていくイメージが脳内に浮かび上がる
蓮(おめでとう、下心……お前の勝利だ。これで、連戦連勝だな……)
蓮:清々しい表情を浮かべながら心の中でそう呟くと、無防備に眠っている海斗を寝室に連れ込み、ぎしっというスプリング音を響かせながらベッドの上に押し倒す