❏設定❏
・とくになし
❏本文❏
彰人「冬弥、驚かないで聞いてくれるか……」
冬弥「……? 急にどうしたんだ、彰人……約束はできないが、話してみてくれないか」
彰人「……」
冬弥「彰人?」
彰人:意を決したような表情を浮かべて冬弥の手を掴むと、その手を導くように引っ張って自分の胸を触らせる
冬弥「――……っ!? 彰人、一体なにを……!」
冬弥:驚いたように目を見開いて反射的に手を引っ込めようとするも、なぜか男の胸を触っただけで大袈裟な反応をしてしまったことに気がつくと、すぐにその理由に思い至ったのか彰人の胸を触ったままの状態で硬直する
冬弥「彰人、これは一体……? 胸が、膨らんでいるような気がするのだが……」
彰人「信じてもらえねえと思うけど、今朝、突然こうなってた……」
冬弥「……」
冬弥:困惑したような表情で固まっている
彰人:冬弥の手を離すと、自嘲気味の笑顔を浮かべる
彰人「そう、だよな……昨日まで男だった相棒が、突然女になってました……なんて、信じられるわけがねえよな……」
冬弥「いや、そうじゃない……実は、思い当たる節が一つあるんだが、まさかと思ってな……」
彰人「は……?」
~場面転換~
彰人:引きつった表情を浮かべている
彰人「今、お前から聞いた話を要約すると……前からオレに女になってほしいと思ってて、昨日セカイに行った時もそのことを考えてたら突然光が見えて、気のせいかと思ってたら、オレが女になってしまっていた、と……」
冬弥「そうだ」
彰人「そうだ、じゃねえ……! あそこはオレ達の想いでできてるって話だし、今までも不思議な出来事は沢山起きてきたから、セカイが原因だって考えればこの状況にも説明はつく……けどな、なんでお前がオレに女になってほしいと思ってたのかは、いまだに謎のままなんだが……」
冬弥「それは……」
冬弥:一瞬発言をためらってから、意を決したような表情を浮かべる
冬弥「最高の相棒である彰人と肩を並べて、RAD WEEKENDを超えるという同じ目標に向かって突き進んでいけることはとても嬉しい。だが、RAD WEEKENDを超えることができたとしても、その先は一体どうなってしまうのか。そんなことを考えているうちに、いつまで彰人と一緒に歌っていられるのだろうかという不安が芽生えた。いずれ、彰人にも好きな人ができて、結婚をして、家庭を築くはずだ。俺もそうなるかもしれない。だけど、その時も今のままの距離感で隣りにいることはできるのだろうか、と……」
彰人「冬弥……」
冬弥「だから、いっそのこと彰人が女性になってくれれば、家庭を築く相手が俺になって、いつまでも隣りで歌い続けていられるのではないかと、そう、思ったんだ……」
彰人「おい、なんでそうなった?」
冬弥「すまない、彰人……俺のせいで……」
彰人:ようやく原因が判明したにもかかわらず、冬弥の理解不能な発言によって更なる混乱に見舞われてしまうも、必死に冷静さを取り戻そうとする
彰人「どうすれば、元に戻るんだ……?」
冬弥「分からない……ミク達に聞けば、なにか分かるかもしれないが……」
彰人「嫌だ、ミクはもちろん、杏やこはねにも絶対に知られたくねえ」
冬弥「では、カイトさんに聞いてみるのはどうだろう……女性には話しにくいことでも、カイトさんなら話しやすいのではないか?」
彰人「……ったく、仕方ねえな、お前もついてこい」
冬弥「もちろんだ、こうなったのは俺の責任だからな……だが、俺達の想いでできたセカイの住人である皆には、すでに知られてしまっているかもしれないぞ」
彰人「そん時はお前をぶん殴る」
冬弥「分かった……だが、手加減はしてほしい……」
彰人「冗談だよ、バカ」
~場面転換~
KAITO「う~ん、そっか……昨日見た光は、そういうことだったんだね」
彰人「……」
冬弥「カイトさんにも、見えていたんですか?」
KAITO「ボクだけじゃなくて、皆にも見えてたらしいよ。でも、とくに変わった様子はなかったから、今の光はなんだったんだろうねって話してたんだよ」
彰人「そう、っすか……」
彰人:全員に知られていなかったことが分かり、ほっと胸をなでおろす
KAITO「それで、元に戻る方法についてなんだけど……」
彰人「分かるんですか?」
KAITO「冬弥くんは、彰人くんが女性になれば二人で家庭を築くことができるかもしれないって思ったんだよね?」
冬弥「はい」
彰人「……」
彰人(はい、じゃねえよ……お前は一体どんな思考回路をしてんだっての……)
KAITO「だとすると、彰人くんと家庭を築くっていう冬弥くんの願いが叶うまでは、その姿のままになってしまうんじゃないかな」
彰人「……は?」
彰人:思いもよらないKAITOの言葉に限界まで目を見開くと、素っ頓狂な声を上げる
彰人「それって……冬弥と結婚しない限り、ずっとこのままってことっすか……?」
KAITO「……」
KAITO:彰人に同情の視線を向けながら沈黙する
彰人:沈黙を肯定と捉えると、絶望感に打ちひしがれるようにガックリと肩を落とす
彰人「そ、そんな……」
冬弥「すまない、彰人……まさか、こんなことになるとは……」
彰人「……」
彰人:冬弥の声が耳に入っていないのか、魂が抜けたように呆然としながら立ちすくんでいる
KAITO「冬弥くん、他に願ったことはない?」
冬弥「え?」
KAITO「彰人くんと家庭を築くという願いの他にも、彰人くんが女性になることで叶えたいと思ったことがあれば、その願いを叶えることで元に戻ることができるかもしれないと思ったんだ」
冬弥「一つだけ、あります……」
彰人「……!」
彰人:二人の会話が耳に入ったらしく、ハッと息を呑みながら正気を取り戻す
彰人「マジかよ……じゃあ、その願いを叶えてしまえば……お、教えてくれ、冬弥……!」
彰人:冬弥の肩をガシッと鷲掴みにすると、完全に冷静さを失った形相でその肩を激しく揺さぶる
冬弥「彰人、カイトさんがいる前で言っても大丈夫なのか?」
彰人「いいから、早く教えろって!」
冬弥「……」
冬弥:少しの間なにかを考えるように押し黙ってから、ゆっくりと口を開く
冬弥「彰人が女性になったら、きっと彰人を女性として見るようになるだろうと考えたのだが……彰人と交際している光景や、体の関係を持つ場面まで想像したら、その……いつの間にか、彰人とそういうことをしたいと思うようになってしまっていた……」
彰人「……」
KAITO「……」
冬弥「……」
三人:シーンと静まり返る
KAITO「え、えーっと……それじゃ、ボクはこれで!」
彰人「待て! 逃げようとすんな!」
KAITO「これ以上、ボクにどうしろと!?」
彰人「マジで、冬弥の願いを叶えるしか元に戻る方法はないんすか!?」
彰人:今度はKAITOの肩を鷲掴みにすると、その肩をガクガクと揺さぶりながら問いかける
KAITO「ほ、他に方法があるとすれば、彰人くんが元の体に戻りたいと強く願うことだけだと思うけど……現時点で彰人くんの体が元に戻っていないということは、冬弥くんの願いのほうが、彰人くんの願いよりも強いってことだと思う……」
彰人「それって、つまり……」
KAITO「うん、冬弥くんとエッチしてさっさと元に戻ってしまうか、冬弥くんと家庭を築くまでずっと女性として過ごすしかないってことになるだろうね」
彰人「――――…………っ!?」
冬弥「彰人……その、すまな……」
彰人「~~っ!! 冬弥、お前な……そうやって謝られたところで、この状況が解決するわけじゃねえだろうが……!!」
冬弥「……」
冬弥:しゅんと落ち込んだ表情を浮かべると、地面に視線を落とす
彰人「一日くれ……それまでに、覚悟を決めてくる……」
冬弥「ああ、分かった……」
~場面転換~
彰人:自室のベッドに突っ伏して、枕に顔を埋めている
彰人(まさか、冬弥がオレのことをそんな目で見てたなんて……ずっと女の姿でいるくらいなら、いっそのこと、明日、冬弥と……だけど、そんなことになっちまったら、この先、冬弥を相棒として見ることができるのか……?)
彰人「……」
彰人:緩慢な動作で体を起こす
彰人「他に方法があるとすれば、元の体に戻りたいと強く願うこと、か……」
彰人:険しい表情で何秒か目を閉じた後にその目をそっと開くと、ちらりと胸元に視線を落とす
彰人「……」
彰人:しっかりと膨らんだままの胸が目に映ると、一人きりの部屋の中で小さく肩を落とす