僕は電話派。携帯開いて文字打って。『今』用があるのに、すぐ返事が来るとも限らないメールでのやりとりより、サクッと電話して終わりにしたい。無機質な文字の羅列より、耳元で感じる相手とのやり取りの方が、齟齬がなくて済む。
それはなにも仕事上の話だけではない。プライベートでも『今』そう思ったから電話をかける。相手が出れないならそれまで。
でも今の子はそうでもないらしい。今の子なんて白々しく言ったけど、悠仁の事だ。
悠仁は電話をかける前に、電話をかけていいかメールをくれる。律儀と言うか、それが彼なりの気遣いらしい。『先生は忙しいから』なんて。忙しかったら電話は取れないんだし、一々気にしなくていいのに。
しかし最近の僕は、そんなメールとやらが好きになってきた。勿論ただのメールじゃない。悠仁からのメール限定で。ああ今はラインって言うんだっけ。
ポコンとあらわれるスタンプから始まり、たいして中身のない文章が送られる。
『今日の昼カレーだった』
とか、
『見て先生! 玉犬に似てる!』
なんて。
別に会った時に話せばよくない? みたいな内容だけど、むしゃくしゃした日にそんなラインが届いていれば、僕の心はすっかり穏やかになるって訳。
あの子の明るく元気な声が聞こえずとも、この小さな電子機器の箱の中の文字列が悠仁の声で再生されて。
「悠仁!」
「あ、先生おかえり!」
長期出張から帰ってきた僕の視界にピンクの髪が揺れたから、ちょっと遠くても声をかければ、子犬のように駆け寄って来る。勢いあまって止まれぬ急ブレーキ。広げた両手は僕をがっちりとハグで包む。
「ふはっ、びくともしねぇ。流石先生!」
「まったく。僕じゃなかったら大事故だからね」
暖かい体温。向けられるとびきりの笑顔。汗の混ざる悠仁の匂に、高揚した声。
結局のところ。電話よりもラインよりも。こうして五感で堪能できる悠仁に勝るものはないのだ。
しかしこの一連の感情の出所を、まさかこの後の恒例お土産密会で、悠仁からの告白を受け自覚する事になろうとは、今はまだ知る由もない——。