Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    しぃー

    ☆quiet follow Yell with Emoji ⚾ 👓 💉 💖
    POIPOI 7

    しぃー

    ☆quiet follow

    8/9 お題『ハグ』お借りしました! +3h

    #オロイフワンドロワンライ
    #オロイフ

    そばに 最近、オロルンの姿を見ていない。
    あいつのことだ、どうせミツムシの巣でも覗いてて手が離せないんだろう。……いや、野菜の世話かもしれない。大根だの、豆だの。
     イファは診察が終わり、診療所の窓際で書類を片付けながら、頭上でせっせと医療器具を運ぶ相棒を見上げた。

    「なあ、カクーク。最近、オロルン見てないけど、アイツ大丈夫かな……」

    「しんぱいだ、きょうだい」

     カクークは、小さく首を傾げて鳴いた。ふわふわした羽毛を揺らしながら、イファの頭に乗っかる。

    「だよな……アイツ、ちょっと放っておくと、すぐ塞ぎ込むし……」

     その時、くるくると回りながら入ってきたのは、花びらのような羽を持った式神だった。見慣れた模様──これはシトラリの使いだ。
     カクークがくちばしで追い払おうとするのを制し、小さな羽の根元に結ばれた紙切れをほどいて広げると、墨の香りとともに短く一言。

    “仕事が終わったら来て。シトラリ”

    (……ばあちゃん、もしかして)



     シトラリの家を訪ねると、彼女はすでに待っていた。

    「ちょっと、イファ。あんた、いま暇?」

    「ばあちゃん。まあ、手が空いてるには空いてるけど、もしかしてオロルンのことか?」

    「そう。新種の紫大根、オロルンがずっと大事に育ててたの。名前まで付けて」

    「……名前……?」

    「うん、“むらさきさん”。ばかみたいでしょ。でもね、ちょっと気温が急に下がって、葉が全部やられて……」

     イファは思わず頭を掻いた。

    「それで、あいつ……」

    「家で落ち込んで蹲ってるの。あんた、様子見がてら慰めてあげなさいよ。ほら、これで乾杯でもすれば少しは気が紛れるでしょ?」

    「慰めてって言われてもなぁ……」

    「……そういうの、あんたの方が向いてると思うから」

     ため息をひとつ。結局イファは、瓶を受け取って家を後にした。


     オロルンの家を訪ねたとき、扉の向こうからは何の音もしなかった。

    「……オロルン?」

     返事はない。扉を開けるとカクークがスッと家のなかに入っていく。

    「だいじょうぶか、きょうだい」

     カクークの声が聞こえ、覗くと居間の隅で膝を抱えて蹲る黒髪が目に入る。

    「……オロルン、夕飯はまだか?」

     コクリと頷く。

    「今からタタコス作るから、一緒にたべよう。……それと、ばあちゃんからこれも」

     イファは瓶をテーブルに置くと、黙って台所に向かった。

     温かい香りが部屋に満ちていく。生地の焼ける音、プリプリのえび、とろっと溶けたチーズ。こういう時、無理に話しかけるより、静かに待つのがいいと知っている。

     やがて、トレーを持って戻ったイファの前で、オロルンがゆっくり顔を上げた。

    「……イファ」
     赤くなった目が恥ずかしそうに伏せられる。

    「むらさきさん……死んじゃった」

    「うん、聞いた。……でもまぁ、お前のことだから、次はもっと丈夫なやつ育てるんだろ」

     小さく乾杯し、食事をとるうちに、オロルンの表情も少しだけ和らいできた。果実酒の効果もあるのか、顔がほんのり赤い。

     それより先に、酔いが回ったのはイファの方だった。

    「んー……ふふ。ばあちゃんの酒、意外とうまいじゃないか……」

     言葉がとろりと甘くなる。座ったまま伸びをしながら、イファは空になったグラスを見つめていたが、ふとオロルンに視線を向けて、にや、と笑う。

    「……おまえ……ちゃんと、頑張ってるぞ」

    「え……?」

    「俺、……好きだぜ。そういうとこ」

     酔ってるからだ。こんなこと、普段なら絶対口に出せない。

    「イ、イファ……?」

    「おまえ天然だけど……優しくて、献身的なところ……俺、好きだからな」

    「……っ」

     言いながら、イファはすっと立ち上がった。ふらりと足元がよろけてオロルンの方へ倒れこむ。

    「わっ、イファ!? だ、大丈夫……?」

    「平気、平気……」

     そのまま、イファはオロルンの肩に顔を寄せ、両腕をゆるく回した。

    「……あったかいな」

     肩越しに落ちる吐息が、ほんのり酒の香りを含んでいる。

    「イファ……」

    「泣いていいぞ。俺んとこで」

     耳元に落ちた低く甘い囁きに、オロルンの背筋がぴくりと震えた。

    「……イファ、カクークも……ありがとう」

    「どういたしまして、きょうだい」
     カクークが羽をふわりと揺らして笑うように鳴く。

    「……お礼ならばあちゃんに言え。結構心配してたんだぞ?」

     言いながらも、イファの口元は少しだけ緩んでいた。

     オロルンは何も言えず、ただ小さくこくこくと頷いた。
     イファの心音が、すぐ耳のそばで響いている。
    どく、どく、どく──酔っているのに、それがどこか安心できて、嬉しかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖☺👍💖🙏☺☺☺💖💖💙
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works