そしてポルコは考えるのをやめた「お前、ドベと喧嘩でもしたのか?」
「え?」
うららかなやさしい春の陽気の中、ポルコは欠伸まじりに、のっぽの幼馴染に対する違和感を指摘した。
眠気を誘う春の空気と同じく、ぽわぽわとした雰囲気を纏うベルトルトの様子はいつもと変わらない。優秀だが驕らず、飾らないベルトルトの質をポルコは好んでいた。
ただ一つだけ、ポルコにとって目の上のたんこぶ…いや、横にある棘のような男であるライナーと、いつも行動を共にしているということだけは理解が出来なかったのだが。
「おまえらいつも暑苦しいくらい一緒だろ。何かあったのか」
「ポルコ、もしかして心配してくれてる?」
「別にそんなんじゃねえよ。ただ気になっただけだ」
ポルコの問いに、曖昧な表情を浮かべていたベルトルトは一呼吸を置くと、逆にポルコへと問いかけてきた。
「僕って、そんなにライナーとべったりだった?」
「お前アレで自覚無かったのかよ」
ベルトルトの発言にポルコは吹き出した。まるで雛のようにライナーについて回るベルトルトの様子は日常茶飯事だったが、それでも本人に自覚は無かったらしい。
「常にデカいのとゴツいのが並びあってて、邪魔だなと思ってたぞ」
「そっかぁ…ごめん」
「冗談だよ」
ポルコの言葉に、照れと困惑がないまぜになった様子でベルトルトは話を続ける。
「その…わざと距離を置いてるんだ。そうしないと彼に迷惑かけちゃうから」
「迷惑?何が?」
「ライナー、最近人脈増えて、いろいろなところに引っ張りだこでさ。それについて回ってたら、初対面の人に、”いつも一緒いるけど、あんた何?ライナーのこと好きなの?ホモなの?”って揶揄われて」
「はぁ?」
「無視してたんだけど、ライナーにもそういう揶揄いの言葉かけてるみたいで…僕、自分が陰でどう言われても気にしないけど、僕のせいでライナーに迷惑がかかるのは嫌で…」
「そりゃお前のせいじゃないだろ」
「それにほら、ライナーってクリスタ…あ、ユミルと仲の良い金髪のかわいい子だよ…ポルコも知ってるよね?その子のことが好きみたいなんだ。だから僕なんかのせいで変な噂が広まったりしてライナーの恋路を邪魔しちゃったら……いや、僕と彼がどうこうっていうのはありえない話だよ?でも実際そうやって揶揄われてるから罷り間違って変な勘違いが起きたら大変だし…」
「……んん?」
真剣に聞いていたポルコの頭にポンとハテナが浮かぶ。
「だから距離を置いていたんだけどライナーってば、何だかんだ僕のこと見つけてくれるんだ。…人気者の彼みたいな人に頼りにされるの、僕はとっても誇らしくって」
「へー……」
最初は幼馴染に絡んでくる輩の話に怒りを覚えていたが、後半の話はまったく耳に入ってこなかった。
その後二時間ほどベルトルトの口から垂れ流されるライナーとの惚気話を聞かされ、限界を迎えたポルコはベルトルトを殴って止め、そしてそのタイミングでベルトルトを探しに現れたライナーに「ポルコ、お前何してる」と問い詰められ、子供の時以来の大乱闘が始まるのであった。