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    パイプ

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    お久しぶりです。
    久しぶりすぎてこの世界観に帰ってこれてないかもしれない...
    今回、一旦最終章となります。
    生きる時間の違う九尾と人の子は果たして同じ時間を同じ気持ちで生きていくことはできるのでしょうか?

    #ひよジュン
    Hiyojun

    九尾の日和と人の子ジュン「燐音先輩。」
    「きゃはは!どうしたァ?ジュンジュンちゃんよお。そんなマジな顔しちまって。遂に俺っちにホレちまった?」
    「人の子って大人になっても変化していくもんですよね?」
    「は?」

    日和が会合とやらで出掛けていると風たちが噂しているのを聞き付けた燐音がジュンで遊んでやろうとこの家に遊びに来たのが凡そ一時間前。ところが今日のジュンはどこか浮かない顔をしていて、いつもならやれやれと言う顔をしながらも燐音の悪戯や遊びに付き合うジュンだが今日はそれさえもなく、やっと口を開いたかと思いきや先の一言だ。

    「ナニそんな当たり前のこと聞いてンだ?成長して老化して死んでいくっしょ?ニンゲンなんてモンはよォ?」
    その当たり前さえコイツは知らないままここに来たんだっけかと燐音が思い直しているとジュンは「そっすよね」と知っていたような口ぶりで返して視線を完全に窓の外へとやってしまった。
    ジュンの疑問と態度に思い当たる節が出てきた燐音は馬に蹴られるのはゴメンだからな・・・と早々に退散を決める。
    「俺っち、そろそろ帰るわ。ジュンジュン、その話は日和ちゃんと直接すべきだと思うぜ。年上のお兄さんからのアドバイスってな。じゃあな」
    礼儀の正しいジュンだ。普段なら燐音が帰るといえば玄関先まで見送りに来てお辞儀をしてから控えめに手を振って見送ってくれるのだが、今日は「うす」と小さく返事を寄越しただけで動こうとはしなかった。

    ———ジュンの身体の時間は止まっている。
    言わずもがな、日和の仕業だが、まさか本人の了承を得ずにやっているとは思わなかった。ヒトと妖怪。違う時間を生きるアイツらが互いに愛しあう中で望んでその状態に落ち着いたのだとばかりおもっていた。
    「日和ちゃんは何考えてンのかね」
    考えたところで他人の愛の形なんてわかるワケがない。そんなことは解っているはずなのに、それでも燐音の気が晴れないのは、
    「いつの間にかアイツらも俺っちの大事な隣人になってたってワケか。」
    キャラじゃないが願わくば、大事になった隣人が人生という賭けに勝てればいいと思う。
    「ま、俺っちの知ったことじゃネェな」
    燐音の立っていた場所には旋風だけが残った。


    日和が何も言わないまま、ジュンの成長を止めていることはなんとなくだが気づいていた。本に書いてあった二次性徴とされる時期を迎えても髭というものは生えたことがなかったし、幼い頃から世話を焼きたがる日和が楽しみにしていたジュンの爪切りもそういえば長い間その必要を感じていない。
    そうだとは思っていたのだが、日和からの説明がない以上は確信を得ることができずにモヤモヤしていた。・・・燐音もあれ以上の事は教えてくれそうにないし。と、ため息をつく。
    「やっぱりおひいさんに聞いてみるしかないっすかねぇ?」

    今日は鳥たちと歌をうたう気分にもなれない。庭に集まってこちらの様子を伺う彼らには申し訳ないが、日和が帰ってくるまで少し眠ることにした。

    「・・・くん、ジュンくん、」
    優しい声に誘われて目を覚ます。
    「ん、ひぃさ、」
    「ふふ、ただいま。よく寝ていたね。疲れちゃってた?ご飯はどうする?」
    いつの間にか帰ってきていた日和の優しい笑みが視界いっぱいに広がってジュンの頬にも自然と笑みが浮かぶ。
    「おひいさん、おかえりなさい。」
    まだ少し回らない頭のまま、目の前の日和に抱きつく。
    「今日は随分甘えたさんだね?」
    「いやです?」
    「嫌なわけないよね。・・・ただいまジュンくん。」
    あまいその声にとてつもなく安心する。大好きなおひいさん。大好きだから、ちゃんと教えてほしい。
    「ねぇ、おひいさん。」教えてほしいことがあるんです。



    帰宅して珍しくベットでお昼寝しているジュンに驚いて気持ちよさそうに眠っているところを起こしてしまった。とろっとろに溶け込んだ蜂蜜のような瞳が自分を映すだけでこんなにも幸せを感じられるのだから我ながらお安いものだ。
    起きたジュンが珍しくかわいい甘え方をしながら「教えてほしい事がある」だなんてねだるものだから二つ返事で了承をしてソファに移動する。

    「おひいさん。」
    ここにきて急に変わったジュンの纏う雰囲気に日和の表情が凍る。あぁ。この時がきてしまったのだなと本能的に察してしまう。

    「俺の成長って、「止まってるね。」
    「どうして、ですか。」
    まるで深い海の中に落とされたようだと思う。息がしづらいほどの重たい空気になんとか耐えながらなんとか視線だけは逸らさずに向き合う。
    「おひいさん」
    続きを促すジュンの声に日和は詰めていた息を細く吐き出してから小さく、懺悔するように話しだす。

    「・・・そう、だね。うん。成長を止めているっていうのは正確にいうと違うんだけどね。ぼくはきみの生きる時間を止めてるの。」

    ———分かってきいたはずなのに、日和本人からそう言われると予想していた以上の衝撃が身を貫いた。
    「きみの生きる時間を変えてしまうということはとっても残酷なことだって、頭では理解しているんだけど。それでもついこの間、言葉尻が丸くなくなったばかりだと思っていたきみがいつの間にかこんなに大きくなって、ぼくの愛を同じ気持ちで受け止めてくれて・・・どんどん素敵な青年になってきて。怖くなっちゃったの。こんなに早く成長しちゃったらすぐにジュンくんとお別れしなきゃいけなくなっちゃうって。二度と会えなくなってしまうことが怖くてたまらなくて、でもこんなことジュンくんにどう相談すればいいんだろうって、ごめんね。」
    頭の中でぐるぐると日和の言葉がまわってジュンはゆるく首を振る。
    違う。違うんです、おひいさん。そんな言葉が聞きたいんじゃなくて、

    「あのね、ジュンくん。きみの人生を勝手に歪めてしまって、どう謝れば許してもらえるのかわからない・・・ううん。もうきみは許してくれないかもしれないね。さっきのお話なんだけど、正確にはぼくが止めているのは“きみ“の生きる時間じゃなくて“この家で過ごすきみ“の時間なの。だから、きみが望むのなら、この家を出てニンゲンの世界に身を置いていれば自然と元の速度で生きられるように「おひいさん!」
    つらつらとジュンの目を見ずに話す日和を止める。違う。ジュンが聞きたかった言葉はそうではないのだ。
    「・・・すみません。今日はちょっと頭を冷やさせてください。」
    今、ジュンの気持ちをうまく日和に伝えられる自信がない。
    このぐるぐると渦巻く怒りにも哀しみにも似た感情をぶつけてはいけないと鳴る頭の中の警報に素直に従うことにした。


    外に出てふと空を見上げる。
    雲一つない星空のはずなのに先ほどから頬を伝う雫はなんなんだろう。
    同じ時間を生きられないことを怖がった日和が選んだのは同じ時間を生きられるように細工する道だった。それ自体はいい。ジュンだってできることならあの人を置いて死にたくはない。もとより、生きられるのなら共に生きたいと星に願った数はもう数え切れないほどなのだ。・・・だけど。日和は手段を選ばなかったけれどジュンに共に生きて欲しいとは言わなかった。そう言ってくれたら、なんだって許せたのに。1番ほしい一言の代わりに日和が発したのはジュンを手放そうとするもので。
    ここで生きると決めた幼い時分からジュンの全ては日和で、今更ニンゲンの元に戻ろうだなんて考えたこともなかった。大好きな日和がいればそれだけで幸せだったから、命ある限りは何があっても日和の隣にいるとジュンなりの覚悟を持って生きてきたし、日和にもそう伝えていたつもりだった。
    その覚悟が伝わっていなかったのがあまりにも哀しい。

    雫と一緒にモヤモヤしとしたこの気持ちを振り払うように大きく首を振ってからジュンは鬱蒼とした森の中へと吸い込まれるように歩き出した。
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    久しぶりすぎてこの世界観に帰ってこれてないかもしれない...
    今回、一旦最終章となります。
    生きる時間の違う九尾と人の子は果たして同じ時間を同じ気持ちで生きていくことはできるのでしょうか?
    九尾の日和と人の子ジュン「燐音先輩。」
    「きゃはは!どうしたァ?ジュンジュンちゃんよお。そんなマジな顔しちまって。遂に俺っちにホレちまった?」
    「人の子って大人になっても変化していくもんですよね?」
    「は?」

    日和が会合とやらで出掛けていると風たちが噂しているのを聞き付けた燐音がジュンで遊んでやろうとこの家に遊びに来たのが凡そ一時間前。ところが今日のジュンはどこか浮かない顔をしていて、いつもならやれやれと言う顔をしながらも燐音の悪戯や遊びに付き合うジュンだが今日はそれさえもなく、やっと口を開いたかと思いきや先の一言だ。

    「ナニそんな当たり前のこと聞いてンだ?成長して老化して死んでいくっしょ?ニンゲンなんてモンはよォ?」
    その当たり前さえコイツは知らないままここに来たんだっけかと燐音が思い直しているとジュンは「そっすよね」と知っていたような口ぶりで返して視線を完全に窓の外へとやってしまった。
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