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    パイプ

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    パイプ

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    本編本筋に突入前に番外編(?)
    まだ出会って間もない頃の日和とジュン。
    attention
    ジュン(4さい)の一人称が「ジュンくん」日和のことを「おひしゃ」「ひぃしゃ」など舌っ足らずな呼び方をする。

    いわゆるアレです。
    なんでもおいしく食べられる方だけどうぞ、のやつです。

    #ひよジュン
    Hiyojun

    【番外編】九尾の日和と人の子ジュン番外編

    寝ぼけたジュンくんはかわいい。いや、ジュンくんはいつだってかわいいんだけれど。いまだって、半分眠りながらぽやぽやと今日の楽しかったことを教えてくれる姿がたまらなくかわいい。
    日和はやさしく相槌をうちながらジュンの背中をとんとんと眠りに誘うようにたたく。まだ話したい事があったのか、ジュンはもにょもにょ言いながら、それでも心地よい眠気には抗えず夢の世界へと旅立った。

    安心したような顔で眠りにつくジュンを見つめながら、日和が思い出すのは二人が出会って間もない頃のこと。懐古だなんて日和には縁のないものだと思っていたけれど、そのおはなしの登場人物がきみとぼくなら少しくらいは思い出話に浸ってみるのもいいかもしれないね。と柄にもないことを思いながら頬を緩ませる。

    これは、日和とジュンがまだ出会って間もない頃のとあるいちにちのおはなし。

    「ひぃしゃん、ひぃしゃ、」
    幼い声に眠りについていた意識が呼び起こされる感覚がする。もう、この人の子をひろってきて数週間経つというのにまだこの感覚には慣れない。どうしたんだろう。お腹が空いたのかな?寂しくなっちゃった?ジュンは想像していたよりもずっと手のかからない子どもではあったけど、やはり人という弱い生き物を育てるのにはめんどくさいと思ってしまうこともないとは言えない。
    「んん、ジュンくんどうしたの?ぼくはまだ寝ていたいね?」
    呼ばれているのを放っておく訳にもいかず、目は開けないまま返事をする。
    「ひいしゃ、ぽっぽがあそぼって、ジュンくん、ぽっぽとあそんでくる?」
    なるほど、外に出ていいかを伺いにきたらしい。
    「う〜ん、まだ一人でお外に出ちゃだめだね。お外には危ないことも沢山あるからね。」
    しゅん、と分かりやすく肩を落とすジュンに仕方ないなぁと窓を開けてやる。
    「ほら、小鳥さんとお歌を歌いたいのならここで歌うといいね。きみが歌えばすぐに小鳥さんは遊びにきてくれるね。ぼくの尻尾のところにおいで?」

    ベッドに腰掛け、ふわふわの尻尾でジュンを誘惑してやる。ジュンはこのふわふわが大好きなのでこれで釣れないことはないだろう。ジュンは放っておくと日和の元へ自ら寄ってきたり、呼びかけてきたり、そばで丸まって眠っていたりするのに、日和から触れられることを恐がった。いや、正確には尻尾で触れる分には大丈夫。手を翳されることを異様に恐がるのだ。
    日和はジュンと出会った時に額をあわせてジュンの記憶を視ているので、最初に恐がられた時「ああ、そうだよね」とすぐにその理由を理解した。頭ではすぐに理解したが、それとは別に心は寂しいままだ。どうすれば恐くない大人の手もあるのだと、日和はジュンに危害を加えないのだと教えてあげられるのだろうか。この小さく愛おしい存在をもっともっと愛してやりたいのに、触れずに愛を伝えるということは存外難しい。

    んしょ、とベッドに登ってきたジュンはそのまま日和の尻尾のあいだに滑り込み、ご満悦に歌っている。こうしてジュン自ら日和に触れることに怯えを見せない為、日和のことを恐がっているわけではないと思っているのだが、最初に視て依頼、日和はジュンの記憶や思考を視ることをやめてしまったので真相は分からない。———あんなに辛く悲しいものを正直、視ていられなかったし、ジュンにももう思い出さずに幸せに生きてほしいと願っている。

    この子の歌声は不思議なもので、鳥や兎、草木や花々をも喜ばせるのだ。ジュンが歌い出すと日和の家の庭は動物たちでたいそう賑やかになる。もう一度目を閉じて惰眠を貪ろうと思っていた日和だったが、こうも賑やかに楽しく歌われては自分も参加せずにはいられない。妖とは愉悦を求め、おもしろおかしく生きる生き物なのだ。

    結局、小鳥や森の生き物たちと歌って過ごした賑やかな昼下がりはジュンの腹のなる音で幕を閉じた。人の生き方は知らないが、妖はその時にしたい事を選び生きるので、ジュンには「お腹が空いたら一緒にごはんを食べようね。ごはんを食べたらまた好きなことをして過ごそうね」と教えた。人の食べ物の作り方は昔、村で女房たちが作っているのを見た事があったので、記憶を手繰り寄せながら真似てみている。出来がどうかはよく分からないが、ジュンが食べるのでひとまずはよしとした。日和の作業を見るや、自分もやってみたいと目を輝かせるジュンに簡単な作業を割り振り、監視しながら自分の作業を進めることは最初こそかなり摩耗したし、難しかったが少しずつ慣れてきた。

    やっとの思いで準備した昼食をぺろりと食べ終え、ジュンの希望で庭に出て時折そよぐ風にまどろんでいた時、日和の視界の端で遊んでいたジュンが消えた。・・・消えた?!
    「ジュンくん?!」
    慌てて駆け寄ってみると何か動物が掘ったのだろうか、大きな穴に落ちてしまったジュンがぽかんと空をみつめていた。ほっとすると共に笑いが込み上げてくる。
    「あははは!ジュンくん、穴に落ちちゃったの?ふふ、大丈夫?どんくさいね!」
    大笑いしながら失礼極まりない発言をする日和の言うことを分かっているのかいないのか、ジュンもつられて笑い出す。
    「あはは!おひしゃ、たのし?あは!ジュンくんおちちゃったね〜」
    助けてやろうと手を差し出して、しまったと思う。伸びてきた日和の手を見てジュンの身体にぴくりと力が入る。———恐がらせてしまったか。せめてこれ以上恐がらせないようにとすっと手を引く。日和の手が離れていくのを視認したジュンの瞳が潤み出す。そんなにも嫌だったのかとショックを受ける日和の耳に思ってもいなかったジュンの言葉が響く。
    「うっうぇ、ひ、しゃ、ジュく、きらい?う〜、わるいこ、だからっきらいなのぉ、っくひっく、」
    嗚咽を上げながら自分の事を嫌いなのかと問い謝るジュンを、触れると恐がらせるかもしれないなどと考える間もなく慌てて抱き上げ、そのまま強く抱きしめる。
    「ジュンくん、どうしちゃったの?ごめん、ごめんね。ぼく、ジュンくんのこと大好きだよ。嫌いな訳がないね。泣かないで。」
    オロオロと戸惑いながらも言葉と、抱きしめる手で精一杯に愛を伝える。好きだよ、大好きだよと伝えながら撫でていると次第にジュンが落ち着き出した。
    「あのね、ジュンくん。ぼくはジュンくんのことが大好きで大切だね。これだけは絶対に変わらないね。・・・だから、どうしてジュンくんがぼくに嫌われてると思っちゃったのか教えてくれる?」
    だいぶと落ち着いたジュンを安心させるように目を見て聞いてみる。
    「ひぃしゃ、ジュンくんのこと、さわってくれないの。よしよしも、ギューもないくてジュンく、いたいいたいだったの。」
    ジュンの告白に激しく胸を衝かれた。怯えさせまいと触れなかった事で逆にジュンを傷つけていたとは思わなかった。ジュンに手を伸ばした時に怯えたように見えていた身を縮こませる仕草は反射あるいは癖と呼ばれる類のものだったのだ。それをジュンの心が恐がっていると決めつけ、滅多に泣かないこの子をこんなに泣かせるまでに寂しい思いをさせてしまった。そう気づいた時にはもう涙が流れてしまっていて、今度は日和が泣く番だった。
    「ぅ、ジュンくんっ!ごめん、本当にごめんねっ!きみに寂しい思いはさせないって、いやというほどに愛してやるんだって決めてたのにっ、ぼくは、きみのことを分かったフリをしていたんだね。今日からはたぁくさん、抱きしめるねっジュンくんが嫌って言っちゃうくらいにぎゅうぎゅうしてあげるからねっ」
    泣く日和につられて、折角泣き止みかけていたジュンの涙もまた流れ出す。互いに互いをぎゅうっと抱きしめたまま、その日は明るく照らしていた太陽が傾くまで泣き続けた。

    「くちゅん、」とすっかり黄昏となった森にちいさなジュンのくしゃみが響いてからの日和の行動は千年以上生きてきた中でもダントツで早かった、と日和本人はこの日を思い出す度に語ることになるだろう。くしゃみをしたジュンをすぐに抱えて風呂にいれて、乾かして、温かいスープを食べさせて、布団に一緒に入ったところで、やっとジュンは自分の状況に追いついたかのようにぱちりと瞬きをしたあとに笑い出した。
    「ジュンくん、おにわにいたのに、あわあわもごはんもしておふとんだね?ふふ、おかしいね!」
    ケラケラと笑うジュンがあまりに愛おしくて日和はジュンの頭を撫でる。やはり触れる瞬間、ジュンの身体に力は入るが本人が恐くないというのだから、たくさん触れて、触れられると"いたい"ではなく"きもちいい"と覚えてもらうことにした。きっと触れる瞬間に身体を強張らせなくてよくなる日はそう遠くないと信じて。


    「ほんと、しあわせそうなお顔しちゃって。」
    当時の日和が信じた通り、ジュンの怯えグセはすぐに鳴りを潜めた。代わりに、と言ってはなんだがジュンは撫でられ待ちや抱きしめ待ちの仕草をするようになった。実は、大人になった今もこれは続いているのだけれど。———本人に言ってしまうと照れてやめちゃうだろうからぼくだけの秘密だね。誰に言うでもない日和の昔話と内緒話。ジュンがもっと大人になったら、その時は一緒にこのお話をするのもいいかもしれないね。と、目の前にあるジュンの額に触れるだけのキスを贈り、さらりとその前髪を撫で付け、日和も瞼をおろす。あの日から欠かさずに毎晩こうしてジュンを抱きしめて眠る。日和の隣にいて寂しいなんてもう決して思わせないように。

    その寝顔を見て「ほんと、しあわせそうな寝顔してますねぇ」と微笑むのは翌朝のジュンだけの秘密。
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    Replies from the creator

    パイプ

    PROGRESSお久しぶりです。
    久しぶりすぎてこの世界観に帰ってこれてないかもしれない...
    今回、一旦最終章となります。
    生きる時間の違う九尾と人の子は果たして同じ時間を同じ気持ちで生きていくことはできるのでしょうか?
    九尾の日和と人の子ジュン「燐音先輩。」
    「きゃはは!どうしたァ?ジュンジュンちゃんよお。そんなマジな顔しちまって。遂に俺っちにホレちまった?」
    「人の子って大人になっても変化していくもんですよね?」
    「は?」

    日和が会合とやらで出掛けていると風たちが噂しているのを聞き付けた燐音がジュンで遊んでやろうとこの家に遊びに来たのが凡そ一時間前。ところが今日のジュンはどこか浮かない顔をしていて、いつもならやれやれと言う顔をしながらも燐音の悪戯や遊びに付き合うジュンだが今日はそれさえもなく、やっと口を開いたかと思いきや先の一言だ。

    「ナニそんな当たり前のこと聞いてンだ?成長して老化して死んでいくっしょ?ニンゲンなんてモンはよォ?」
    その当たり前さえコイツは知らないままここに来たんだっけかと燐音が思い直しているとジュンは「そっすよね」と知っていたような口ぶりで返して視線を完全に窓の外へとやってしまった。
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