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    kapiokunn2

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    kapiokunn2

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    グリアオ色々楽しい!ねつ造!

    『地獄みたいな現場だった』

     スグリの言っていたことを思い出した。焦土と化した楽園。絶望的なニュースが宇宙の端から端まで伝わったその頃、アオはまだ幼い子どもだった。
     縁あって宇宙警察に刑事として配属され、それなりに現場をこなしてきた。ANIMSほど大きな勢力で怖いもの知らずの海賊はそうそういない。制圧するのは、難しいことではなかった。
     アオはまだ仲間の死を経験したことがなかった。だがそれもついさっきまでの話だ。
    これが、初めて見る『地獄』だった。

     なんで制服を白なんかにしたんだ。首に巻いていたスカーフは煤けて灰色で、自分のものかそれとも返り血かわからないほどの血が散っていた。それを左腕にぎゅっと巻き付け、硬く結ぶ。警察学校で応急処置を嫌になるほど叩き込まれたのは、こんなときに体が勝手に動くようにするためなのかもしれない。光線銃が軽く掠っただけなので致命傷ではないが、皮膚を焼かれた痛みは消えなかった。この状況下なら止血できれば十分だ。
    「いけるか」
    「はい!」
     自分の前を行くグリムの方が、よほど酷い傷を負っていた。制服の上、体の右半分を覆う特殊素材の透明なマント。ナイフも銃弾も通さないそれを、使えとアオに投げてきたのはついさっきのことだ。だがいくら丈夫な素材でも限界はある。この通路を抜けられれば仲間が脱出の用意をしているはずだが、果たして彼らも生きているか、そして、自分たちがそこまでもつかどうかはわからない。アオの持っている銃の残弾はあと二発。グリムはサーベルを持っているが、利き手はついさっきやられた。相手のナイフに毒が塗られていたのだ。命に関わるものではないが、傷付けられた手は痺れて使い物にならない。
    しかしグリムは武器を持つ手が利き手と反対だろうと、恐ろしく強かった。白い制服はやはり血で汚れ、あちこちが裂け、穴が空いてボロボロだ。もしかしたらここで死ぬかもしれない、と思った。ぞわりと首筋が冷たくなったとき、腰につけていた通信機から声がした。あ
    『アオ、まだ無事か』
    「スグリさん……!はい、何とか」
    『その通路の先のハッチを開けろ。そこまで来たらすぐにここを離れられる』
     グリムの通信機はとっくに壊れていた。アオと繋がって良かったとスグリが言う。
    「グリムさん、」
    「聞こえた。いいか、一気に抜けるぞ」
     ちょうど良いことに足元にナイフが転がっていた。この船の持ち主であるテロ集団のロゴマークが入ったそれを使うのは正直気が進まないが、そんなことを言っている場合ではない。痛みも今はどうでも良かった。守られてばかりでは駄目だ、自分もこの人を守らなくては、と強く思った。

     そこから先の記憶は曖昧だ。気がつくと、アオは病室の天井を見上げていた。
    「痛……っ」
     体を起こそうとしたが、背中を数センチ浮かせただけで再びベッドに沈んでしまった。どこの痛みかわからない。なにせ全身が痛む。
    「起きたか」
     白いカーテンを開けたのはグリムだった。白のシャツとスラックス姿で、ギプスで固定した右腕を布で吊っている。
    「丸二日寝てたんだ、無理に体を動かすな。今医者を呼んでやる」
    「すみません……あの、足を引っ張ってしまって」
    「は? 引っ張られた覚えはないが……」
    「いえ、あの、本当に引っ張った訳では」
     眉を顰めていたグリムが表情を和らげ、ああ、と頷いた。
    「いや、お前のお陰でどうにか脱出できた」
    「あまり覚えていないんです。多分夢中で……」
    「そうか。まあ、覚えてなくても別に良い。……お前は案外度胸があるんだな」
    「俺が……?」
     グリムが笑った気がして、アオは驚いてまた背中を浮かせた。そして痛みに声をあげる。今度は呆れた声で「大人しくしてろ」と言われてしまった。
    「しかしトレーニングが圧倒的に足りてないな……。食事メニューも改善した方が良さそうだ」
    「足りてるはずですが……」
    「軽くて驚いたぞ」
    「え、」
     グリムはあの怪我と、片手が痺れた状態でアオのことを運んだのだろうか。どうやって、どんな姿で運ばれたのだろう。何となくだが、記憶が飛んでいてよかった気がした。というかアオより酷い怪我を負っていたはずなのに、グリムは何故立って歩けているのだろうか。これがトレーニングと食事の違いなのか、と思ったが恐らくそういうことではなさそうだ。
     医者と入れ違いにグリムは出て行った。医療スタッフ達に手伝ってもらい、ようやく体を起こすことができた。怪我だけでなく、筋肉痛らしき痛みが全身に走る。これは本当に、トレーニングを増やすべきなのかもしれない。検査や診察であちこち回らされ、ようやくベッドに戻ってくると再び眠気が襲ってきた。
     笑った顔、見たかったな。
     いつかまた見る機会があるだろうか。そんなことを思いながら、アオは目を閉じた。

    🪐

     宇宙には朝も夜もない。宇宙警察に入隊すると、最初の半年ほどはそんな環境に慣れることに費やされることになる。アオもそうだった。生まれ育った惑星は朝の光で目を覚ますことができるところだ。太陽の光がよく届く、水と緑の豊かな星。父親がどこからか手に入れてくれた、今では出回ることのない、紙の植物図鑑が子供の頃は大好きだった。今も大切に取っておいてある。
     アラームの音で目を覚まし、まだまだ寝ていたいと思いながら顔を洗って制服に袖を通す。食堂は、階級によって食事の場所や時間が分けられている。アオは一番朝早い時間帯だ。正直朝には弱く、それほど食べられる方ではない。それでも食べておかないと体がもたないことは、ここに入ってから痛いほど実感した。
     食事は、自分で選んで好きなものを取る。アオは大体決まっていて、生地に卵をたっぷり使ったパンをひとつ、ヨーグルトとフルーツが盛られたボウル、そしてコーヒー、それだけだ。入隊当初は良く同僚に「それで足りるのか」と驚かれたものだが、今となっては皆慣れてくれたらしく、何も言わない。窓から見える景色はいつ見ても大して変わりはしないが、それでも何となくいつも窓際に座ることにしていた。
     一人黙々とパンを齧っていると、「おい、それだけで足りるのか」と突然声が降ってきた。顔を上げるとそこには食事のトレーを持ったグリムが立っていた。
    「おはようございます…っ」
    「お早う。いや、大丈夫だ座ってくれ」
     慌てて立ち上がったせいで椅子の音がずいぶん大きく鳴ってしまった。恥ずかしくて、今度は音を立てぬよう注意して再び座る。グリムはアオの正面の席にトレーを置いた。
    「急に予定が変わってな。食事の時間を早めた」
    「そうでしたか…。普段ここで幹部の方に会うことなどないので…大きな音を出してしまって申し訳ありません」
    「いや、驚かせたのは俺だ」
     ほら食べろ、と食事の続きを促され、アオはヨーグルトのスプーンを取った。グリムのトレーには、アオでは到底食べきれないような量の食事が乗っている。
    「それで足りるのか、って以前よく同期に聞かれました」
    「ああ…驚いた」
    「本当に、これくらいで十分なんです。無理に食べ過ぎて動けなくなると困りますし」
    「まあ、燃費がいいというのは宇宙船での生活では悪くないことだな」
     警察の宇宙船ということで食材や燃料の補給は十分に受けられる。しかし渡航中は何が起こるかわからないため、そのどちらに対しても節制は常に求められていた。パンをいくつか、それにボウルいっぱいのサラダと果物、ソーセージと野菜を煮込んだもの、茹で卵。グリムはもりもりと片付けていく。気持ちのいい食べっぷりだ。アオにとっては今くらいが丁度いい量だが、茹で卵くらいなら明日から増やしてみようと思った。
    「生まれはどこなんだ?」
     アオが出身地の惑星の名を言うとグリムが、へえ、とくだけた相槌を打った。
    「ご存知ですか?」
    「緑が豊かなところだな。父と立ち寄ったことがある。確か、大きな資料館が…」
    「! そうです、有名なところで…。古い建造物をそのまま使っていて、紙の本をあれだけ保存している所は他にはなかなかありません。昔からよく連れて行ってもらいました。生物園もあるのをご存知ですか?」
     はっとアオは手で口元を押さえた。相手は上司なのに、一方的に長々と喋ってしまうなんて失礼なことをしてしまった。グリムは少し驚いた顔でこちらを見ている。しかし気まずさに何も言えないでいるアオに、驚いたことにグリムはふっと笑った。
    「いや、そういう話ならいくらでも聞かせてくれ」
    「え……」
    「紙の本なんてほとんど読んだことがないな。また行ってみたい」
    「もし機会があったら、ご案内します」
    頼む、と言ってグリムは席を立った。
    「ああ、それから」
    「はい?」
    「食事、いきなり増やそうとか思うなよ」
    「え……っ」
    「まあ……茹で卵くらいなら増やして良いんじゃないか。トレーニングもしたいならたまには付き合ってやる」
     それだけ言うとグリムはさっさとトレーを持って歩いて行ってしまった。やっぱり、もっと笑ったらいいのにな。あの人は何が好きなんだろう。頭は堅いけど、怖い人ではない。

     久しぶりに故郷に帰りたい気持ちになった。仕事に就いてからは、実家に帰れるのは年に一度か二度くらいだ。生き物の化石や、珍しい植物のレプリカ、昔の本や機械。それら全てに触れることができる資料館。大きな生物園では生き物たちが自然と変わらぬ環境で自由に飼育されている。グリムも意外と動物が好きだったりしないだろうか。この仕事をしていると、『今度一緒に』が叶えられないことは珍しくない。今日も明日もあさっても生きてこの艦に戻ってこられるように。そして、生まれた星に笑顔で帰ることができるように。
     少しでも、あの人の力になれるようにアオはもっと強くならないといけない。

     翌朝は、いつものことだが一人の朝食だった。パンとヨーグルト、フルーツ。そして丸い小さな器でころんと揺れる茹で卵を見てアオは自然と笑顔になっていた。
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    kapiokunn2

    REHABILI二人は俺の推しCP。的な感情の至視点の同棲丞紬です。
    春も嵐も。 遊びに行くのは二回目だった。一回目は、二人が引っ越してすぐ。あの時はまだ開けていない段ボールがいくつかあったけど、あの二人のことだから今はすっかり片付いているだろう。シンプルで無駄なものがなくて、でも所々にグリーンやちょっと独特のセンスな雑貨が置いてある、それぞれの譲れないところがよくわかる部屋。駅からの道は何となく覚えている。わからなくなっても地図アプリ使えばすぐわかるし、と俺は記憶を頼りにぶらぶらと歩いた。ぶら下げた保冷エコバッグの中には大量の差し入れ。ここに来る電車の中では、カレーのにおいが車内に充満してしまわないかとちょっと不安だった。
     確かコンビニがあったはず、と角を曲がった。記憶は間違っていなかったようで、すぐ先にコンビニがあって、そこからまた少し進んだところのマンションの前で俺は足を止めた。エントランスの脇に小さな花壇があり、カラフルな花たちがそこを彩っていた。片手に持っていたスマホで電話をかけた。着いたよ、と伝えてエレベーターで三階へ。三階くらい階段上れ、と誰かさんには言われそうだが俺はなかなかに重い差し入れを持っているのだ。許されたい。廊下の突き当たり、一番奥の部屋。思えばもうそれなりに付き合いの長い友達の家なので緊張するのもおかしな話なのだが、インターホンを押すのはちょっと勇気が必要だった。そういえば俺、友達の家に行くとかもほとんどなかったし、一応付き合ったことのある彼女の家なんて一度も行ったことない。きっとここに住んでる二人は、お互いの家もまるで自宅みたいに行き来していたんだろうな。よし押すか、と俺は人差指でインターホンのボタンをロックオンした。するとだ、押してないのにドアが勝手に開いた。俺もついに不思議な力に目覚めたのかと思いきや、ドアの向こうから現れたのは家主の紬だった。
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