俺は階段を見上げてため息を付いた。用があるのは二階の事務所で、用を済ますにはこの階段を上らなければいけない。
俺の名前は王庭。年は60を越えたところで、どこにでもいる普通の男、いや普通の爺だ。平凡を極めた両親の間に生まれ、最低限の学業を修め、どこにでもある工場に勤めた。こんな平凡な俺の特徴を、強いて上げるとすれば、大柄なカンフースターにそっくりだったことぐらいだろう。でたらめなカンフーの動きをして、映画の台詞を決めれば、飲みの席は必ず盛り上がった。平凡な俺でもキラリと輝く場があったのだ。
そのモノマネを誰よりも笑ってくれた子が彼女となり、その彼女と結婚した。慎ましいながら家を建て、子供をもうけ、その子も成長し嫁に行き、孫も生まれた。
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