10回ゲーム隣で肩を並べて歩く風太が、指折り何かを一生懸命数えている。
ちらりと盗み見てはみたが、尖らせた唇の動きだけではもにょもにょしているだけで聞き取るのは難しそうだ。
「なあなあ絋にい」
「ん、なんだ?」
「お願いばあると」
両手分の指が10本丁度折られたところで1つ頷いたかと思えば、自らの手元へ注いでいた眼差しが俺の方へ向けられる。
純粋無垢なそれはまるで仔犬のようで、わしゃわしゃしてやりたい衝動に駆られるのをぐっと堪えた。毎度の事ながら、これがわざとではなく天然であるから困ったものだ。
「絋兄ちゃん?とがんしたと?」
「あ、いや。なんでもない。それで、お願いって何なんだ?」
「えっと、“好き”って10回言ってほしいんやけど」
「え?」
突拍子のないのはいつもの事だ。慣れている。が、それにも限度というものはある。
確かに俺は風太が好きだし、それを言葉にする事もある。だが、当人からねだられて言うのはまた別の話だ。
つい足を止めてしまった俺の前に風太が回り込んできて、並べていた肩は目の前で傾いた。
「だから、好きって10回言っ」
「そ、そうじゃなくて」
折られていた指の回数だったのか?何か意図があるのだろうか。
遮られてもなお怯むことは無く、寧ろ追い討ちをかけるように覗き込んでくる眼差しは期待に満ちていて、更に真っ直ぐ俺を射抜いてくる。
これは素直に言う事を聞いておいた方が良さそうだ。
「はいはいわかったよ。じゃあ行くぞ」
「うん!」
「好き、好き、好き…」
ゆっくりと1つずつ俺の口から紡がれるワードを掬っては、風太は頷く。2回、3回と重ねていく度、俺を映す空色はますます輝いて見えた。
「…好き、好き。」
「俺も!だいだいだーい好きばい!」
10回目を言い終え、かちりと視線が交わると同時に、腕をいっぱいに広げながら満面の笑みを浮かべてくる風太に思わず吹き出してしまった。
「ぷっ…なんだよそれ」
「えっへへ、絋にいからの好きがいっぱい欲しかったんよ」
種明かしをされてみれば裏も表もなく、上手くいったと満足気な太陽の頭をくしゃりと撫でてやった。
本当に、ところ構わずこれだから困るんだ。
「ほら、早く帰るぞ」
「はーい」
そんなお前に、俺は満たされ、救われているんだ。