「ふぃ〜…」
湯船へゆっくりと体を沈めていきながら、冷えていた体に染み渡るその温もりに大牙は思わず声を漏らした。
もくもくと浴室内の空に浮かぶ白い湯気を眺め、そのままズルズルと肩まで浸かっていく。
きっと液状になって溶けていくゲームのスライムか何かの感覚ってこんな感じなのだろう、なんて現実ではありもしない事を考えながら、目を閉じれば「はぁ〜…」とまた腑抜けた声が漏れた。
浴槽を洗い湯船を溜めるまではどうしても面倒な気持ちが強いのに、こうして浸かってしまえば、その労力も無駄ではなかったと軽く掌返ししてしまう自分の単純さがおかしく思えた。
いい具合に指先まで熱が行き渡り温まって思考が蕩け始めた矢先、脱衣場からバタバタと忙しない音が聞こえるのに気付き、うつらうつらと伏せ掛けた瞼を持ち上げていると勢いよく浴室の扉が開いた。
「オレもい〜れて!」
「えぇ〜…」
そこには既に全裸の晶がにっこりと満面の笑みで立っており、呆けている大牙が有無を言う間もなく向かいから浴槽の中へと体をねじ込ませてきた。
大牙が肩まで浸かって満杯だった風呂の湯は、容赦なく溢れて流れていく。
「なんでわざわざ一緒に入るんすかー…」
「だって起きたらお前いねーんだもん。てかやっばせっま!」
押し込められる形で脚を畳んでしまったせいで大牙は膝を抱えて縮こまり、対して晶は遠慮なく大牙の脚の外側へと広げすっかり寛ぐ体勢を整えている。
そもそも晶が大牙の部屋へと訪れ、迎え入れるなり「疲れた〜」とベッドに突っ伏してしまい思いの他そのまま熟睡してしまったのだ。今日は湯を張るつもりで準備も済ませていたし、寝ている隙に入って出てきてしまおうと思って蕩けていた大牙は、寝起きのテンションとは思えない晶の一連の行動に眉を顰めていた。その反応すら愉快なようで、晶はケラケラと笑っている。
「てか、文句言うなら出てってくだせーよー」
「え〜つめた〜い。てか、すげー流れちゃったしオレが出たらこんなんしかなくなるぜ」
晶は口を尖らせながらお互いの脚の間に手を浸からせると、大牙のふくらはぎ辺りを指でつついて示した。
全く悪びれた様子もなく、晶は大牙の顔を覗き込みように首を傾けてくる。
「いやいや、無理やり入ってきたあんたさんのせいでしょーが」
「そうそう、オレのせいだから、観念して一緒に温まろ〜ぜ」
どうやっても都合良く上手く言いくるめてくる晶の調子の良さが、それが存外悪くないからこそ、大牙は誤魔化す為に盛大な溜息を吐き出しながら火照る自らの頬に手を当てる。
絆されて悔しいはずなのにニヤけてしまいそうな口元を捻らせて紛らわした。
「もう、十分ホカホカっすわー」