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    みゆけん新刊導入部
    初っ端から別れてる
    まだチェック1回しかやってないのでおかしい日本語とかあったらごめんなさい

    #みゆけん
    miyuPrefecture

    「別れよう」
     それは何の前触れもなくいきなり、何気ない声で投げられた言葉だった。その言葉を言い出した賢汰は揺れずに、無味乾燥は目をしていた。もしかしたら聞き間違えたのではないか、そう思ってしまいそうになるくらいに。
    「…は?」
    「別れようと言った」
     しかし聞き間違えではないと深幸の頭に叩き込むように、帰ってくる答えはさっきと変わらず同じものだった。
     いつかこういう突然な別れの通報をされるかもしれないと、思ってはいた。付き合う前から里塚賢汰がこういう奴だということは知っていたし、付き合うようになってからもこいつが俺に接する態度は何一つ変わってなかったから。この関係がいつか終わるかもしれないと、何度も思ってはいた。それがこんな味も素っ気もない感じになるというのも、寂しいけど想定範囲内だった。そう。いつかこうなると、予想はしていたけど。
    「…はあ。ざあ、理由でも聞くか。何でだよ?」
    「お前と付き合うことで生まれるメリットが分からない」
    「……はあ?」
    「感情にすぐ左右される関係という不安要素を抱いてまで続く価値があるのか、わからない」
     いくらなんでも、ここまで最低なやつだとは思ってなかったのによ。恋愛にメリットを問うとは。いや、まあ、いい。そういうやつだってことも既に知っていた。賢汰の全ての情熱は那由多に、正しくは那由多の歌を世界の舞台に立たせることに偏っているから。そんな賢汰だから、恋愛というものに注ぐ熱情なんて残ってもいないはず。
     こいつが告白を受けてくれたのも、結局は自分の感情に従ったものではなかったということを。ただそれがジャイロをもっと高いところに連れていくことに役立つと判断したからだということを。賢汰のその一言だけで気づくことができた。
     感情の重さだけで言うなら深幸だって同じだ。深幸も心臓が一番熱くなる瞬間は那由多と一緒のステージに立ってドラムを叩く時だから。ステージの上で那由多の音楽を、那由多の声を支えながらドラムを叩く時。他とは比べ物にならないほど最高の瞬間だと、そう確信している。GYROAXIAのドラム。それが、その座が深幸の最大のプライドだ。ライブをするたびに恋愛なんかじゃ決して味わえないほど熱い熱気を浴びるだけあって、ライブ以外のものでこんな熱気を味わえるとは想像すらできない。
     しかし、深幸は賢汰のように一つのことだけにしがみついて、全ての情熱と感情をそれだけに注ぎたくはない。GYROAXIAのドラマー界川深幸、鴨川大学の学生界川深幸、そして里塚賢汰の恋人としての界川深幸まで。どんな立場にも手を抜く気もないし、それが何であれ最善の努力と熱情を尽くすつもりだ。全てを出し切った後に見えるはずの、今以上の熱気をこの身で味わいたいから。
     だからこそ深幸には賢汰のことが理解できないわけだ。自分と違うからといって他人の考え方を全部否定するつもりではないけど、賢汰の考え方だけは違った。利益だけを思う恋愛。用が済んだらすぐ投げ捨てる計算的な性格。那由多の歌だけを求める人生。こんなのは、深幸の常識ではどう考えても間違ったものだった。
     深幸が賢汰を睨んだが、賢汰は相変わらず淡々とした顔で話し続ける。
    「どうせお前は俺と別れたってジャイロに居続けるはずだから。別れても問題ないはずだし」
    「お前さ…、ホントにそう思うとしても、もう少しオブラートに包んで言えねえのか」
    「お前相手には必要ないだろ? そもそもお前がたかがこんな理由で振られたからといってジャイロをやめるやつだったら、付き合ったりもしなかった」
     いつもジャイロ、ジャイロ。自分の気持ちを後回しにしてバンドにだけ気を使う賢汰の態度にはもううんざりしていた。そんな中、「お前相手には必要ない」と、賢汰が自分によく言っていた言葉を耳にすると、頭に上っていた血が一気に冷めるような気がした。いつもはこの言葉を聞くと賢汰に少しは頼りにされているような感じがしたのに。今は何の期待もないと言っているようにしか聞こえなかった。
     そっか、こいつは変わらないんだ。いつまでも、同じなんだ。こんな状況でさえも何一つ変わらないんだ。深幸は賢汰を冷たい目線で睨んでは、ため息をつきながら頷いた。
    「……はあ、もういいや。わかった、別れよう」
    「ああ」
     深幸のその答えに、賢汰は満足げな笑顔を浮かべながら机に置いていたタブレットを手に取った。
    「それじゃ、次のライブの練習スケジュールのことだが……、」
     そして、何事もなかったかのように話を続ける。…元はと言えば賢汰の部屋に来た理由がこれだったな。なのに急に「その前に話がある」と言っては先に言い出したのが「別れよう」という、その言葉だった。本当、全く理解の出来ないやつだ。
     深幸は、賢汰が嫌いだ。深幸にとって賢汰は何でも平気な顔でこなすやつ。その才能を生かせばきっと何でもできるはずのやつ。なのにその才能を使うのはあくまでも那由多を頂点に導くのに関わったことだけのやつ。誰が傷ついても、崩れても気にもせず、誰でも道具として使うやつだ。那由多のことすらも賢汰にとっては自分の目的を果たすための道具に過ぎないのではないかと思ってしまうくらい、賢汰の行動と考え方は冷たいものにしか見えない。深幸の性格にそんなことを許せるわけがない。
     そして、賢汰のことがムカつく以上に、そんな賢汰を正しい道に導きたいとも思っている。賢汰の歪んだ考えを直してあげたい。それはただ同じバンドのメンバーだから、という理由だけではなかった。
     何があっても人には言えない話だけど、賢汰は深幸がずっとなりたかった理想の姿をそのまま具現化したような存在だった。だからこそ,自分の思う理想とはかけ離れた彼の行動がさらに気に食わなかったってことだ。
     異性に愛される、能力のある人。その一方で、自分の仕事をスマートにこなし、バンドまでリーダーとして引っ張りながら自分の夢に向かって真っ直ぐに進んでいく男。深幸が片思いで何度も挫折して自分の姿を変えようと決めた時から頭の中に描いていた、なりたい自分に近い存在だった。片思いしていた女たちの隣にいた男たちのいいところだけを全部集めたような、そんな存在に見えていた。彼の内面に気づいていなかった時には。
     近くで見た里塚賢汰は、ステージの下から見上げた時とは全く違う男だった。みんなを引っ張る包容力のある素敵なリーダーではなかった。外で見せる優しい姿とは全く違う差別的な態度に、どこまでも「理性」でしか考えない感性の乾いた人。そんな賢汰は、深幸にとっては如何にも「ムカつく」やつだ。
     でも、そんなやつでも変われると信じていた。自分がそうだったように。人間の本質は変わりうるものだと信じていた。彼の歪んだ考え方を直すことだってできると思っていた。もちろん、自分の力で一から直すような大げさな考えはしていない。しかし、少しの変化。たった一歩くらいなら。それくらいだけでも導くことができたらジャイロは、里塚賢汰は、きっと今よりもっと高いところに飛ぶことができると信じていた。
     しかし。…どうやら、その考えは傲慢だったようだと、深幸はそう思った。里塚賢汰は変わらない。この男はいつまでもこうして生きていくに違いない。
    「聞いているか?」
    「…はあ、聞いてるさ。俺の予定ね」
     少し思いふけっていた深幸は、聞こえてくる声に賢汰が持っていたタブレットをひったくるように取り上げては適当にスケジュールを書いた。まあ、予定を教えたっていつも那由多が優先されるからこれに意味があるのかも疑問だけど。そんなことも今には慣れたことだった。…そういうところをなんとか直してあげたかったんだけどな。賢汰に押し出された以上、自分じゃ力不足だって認めるしかないと。深幸はそう思いながら賢汰にタブレットを返した。
     …大丈夫。賢汰とは付き合う前にも、付き合ってからも、ずっとこんな感じだったから。今のこの状況が次のライブに響くことはないだろう。深幸は内心小さくため息をつきながら賢汰の部屋を出た。
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