1225「玲司くん、誕生日になにか欲しいものはある?」
「いや、その気持ちだけで十分だ」
「そっか」
唯臣の問い掛けに玲司は迷う事なく即答した。
玲司の事は貪欲な人間だと思っていた。だがその対象は遥か先を見据えてのもので、目先のものにはまるで興味が無いと言わんばかりに。
きっと自らの事に対してはそうなのだ。
唯臣にはそれがとても不思議で、妙に好奇心を煽られるものだった。
どうしたら喜ばせる事が出来るだろうか。
どうしたら、この表情を、感情を揺さぶる事が出来るだろうか。
唯臣から見た玲司は、平静を装っている割には思いの外表情豊かであって、きっとそれに一番気付いていないのは本人だ。
現に、問いかけに答える玲司の表情は普段よりも柔らかく見えた。
きっと気にかけてくれた事自体は嬉しかったのだろうと思う。
「この場合、本当に何も渡さないのが正解なのかな…」
空に問い掛け直しても、誰も答えてはくれない。
考えよう。他でもない玲司の事だ。
“友達”はどうしてたっけ。
以前は失敗してしまったから、今回こそは間違えないようにしよう。
“形のあるもの”だから要らないのかな。
それなら“形のないもの”ならどうだろう。
唸りながらじっと見つめてくる唯臣の視線が、玲司に痛く刺さった。
せっかくの気持ちを無下にしてしまっただろうか。唯臣の気持ちを他所に、玲司は玲司で眉間に皺を刻んだ。
それを見た唯臣はきょとんと不思議そうに首を傾げる。
なんでそんな顔をするのだろうか。
唯臣にはわからなかったが、胸がざわりと騒ぐ感覚に任せ玲司との距離を縮めていく。
「どうした?」
「どうしたんだろうね?」
「聞き返すな」
「ふふ」
怯む玲司に構わず、唯臣はその両手で玲司の頬を包んだ。
血が通っているのかわからない程冷えた指先に、玲司が顔を顰める。
もっと見たい。もっと見せて。
「ッ、つ」
そのまま鼻先に噛み付いてみる。
身を引こうとする玲司を許さず引き寄せ、今度は噛み付いた場所へ口付ける。
ビクッと体が跳ねた。
「っ、おい、なにして…」
「何もいらないなら、僕がもらおうと思って」
「何を、意味のわからない事を」
「ねえ、ちょうだい。18歳になる前の玲司くん」
唯臣の親指が玲司の頬に食い込み、マリンブルーの奥深くから囚われる感覚に陥る。
逃げられない、と。
鮮やかなマゼンダが揺れると、唯臣は恍惚の笑みを浮かべる。
間違いであっても、きっとこれもひとつの“正解”なのだと。
「ねぇ、玲司くん」