「どうして枯れた薔薇を飾るの?」
その瞳はどこまでも純粋で、穢れなく、真っ直ぐ俺に問いかけてくる。
薔薇は所謂ドライフラワーなので、枯れた薔薇、という表現も間違ってはいない。
小さな花瓶へ2本、ピンクの薔薇を挿した。
きっと生けている時は鮮やかであったであろうその色は、乾燥して淡く褪せており、既に息をしていないその色には優しさすら滲んで見える。
「頂き物だからな。既に枯れているから、水をやる手間もかからないだろう」
瞳の対象は俺から薔薇へと移り、不思議だと言わんばかりに首を傾げながら小さく唸っている。
好奇心の先である薔薇は、当然ながら視線にも動じることはない。
「そっか。もう死んでいるのだから、手間は確かにかからないね。なにもしなくても現状維持が出来るのなら、それはすごい事、なのかな。生き物は死んだら普通腐るのに、この薔薇は腐らないんだね。」
「……ねえ、玲司くん。君は、この薔薇を綺麗だと思う?」
「…、」
早口になったかと思えば徐々にその声色は、最初の問いかけの時よりも柔らかくなっていく。
それなのに、頭の先から足の先までの神経にピリッと電流でも流されたかのような感覚が走る。
蛇に睨まれた蛙とは、この事を言うのではないだろうか。このまま頭から丸呑みされてしまうのではないかとさえ思った。
既に息をしていない薔薇は、やはり何事もなく花瓶に挿されている。
答えを待つ彼の視線は、再びこちらへ真っ直ぐ注がれているが、底知れない眼差しに怯みそうになるのをぐっと堪えた。
「…ドライフラワーには、海外では“永遠”や“永久”という花言葉があるらしい。だが、俺は、」
今、息をしている俺は、
「永遠を、美しいものだとは思わない」
「……うん、そっか」
頷き、ふわりと柔らかな髪が揺れた。
対象から興味が削がれたようで、枯れた薔薇ではなく俺に向けて微笑む唯臣を、俺は“美しい“と思った。
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ドライフラワー…欧州では、朽ちない事から「永遠」「永久」などの花言葉がある。ありのまま自然を大切にする文化は日本にはまだない。