お菓子作り Ver.1 それはある日の事だった。
「ア、アイク……その、わたし、お菓子作りをしたいので、教えてくれませんか?」
「君が……お菓子作り?」
アイザックが驚くのも無理はない。アイザックがいる時の食事は全て任せっきりでコーヒーを淹れる時以外、あまりキッチンに立つことはない。
「は、はい、どうしても自分で手作りして、食べてもらいたい人がいるんです」
教えては欲しいが手出しはせず、あくまでも自分一人の力で作りたいのだと。もごもごと口にする。
俯き、指をもじもじと捏ね、頬を染めあげるその姿にアイザックは誰の為に作るのか察した。ちくりと痛む胸の痛みを隠し、優しい笑みを浮かべる。
「勿論構わないよ。君が僕を頼ってくれて嬉しい限りだ」
そう、理由は何であれ、モニカが頼ってくれるのは喜ばしいことだ、大変喜ばしいのだが……。
アイザックの顔から美しく優しい笑みが消え、真顔になる。なんなら眉間には皺が寄っている。
「ア、アイク? どうかしましたか?」
「……オーブンを使わず、出来れば火を使わないお菓子……湯煎もやめておいた方がいいかな……?」
「…………ぁぅ」
ぼそっと呟かれた言葉にモニカは返す言葉もない。
アイザックは口元に指をあて、菓子作りをするにあたり、何が良いのか思案し始める。焼き菓子がリストから外されているのは料理スキルを察しての事だろう。
「……モニカ、そのお菓子、日持ちは気にしなくともいいかな?」
「は、はひ」
アイザックの真剣な声色にモニカは何度も頷く。
「……じゃあ」
貯蔵庫から取り出されたのはヨーグルトやドライフルーツや季節のフルーツ——これはアイザックが本来使おうとしていたものだろう——に木の実などなど……。
食器棚からガラスの器を取り出し——。
「ここにある材料で盛り付けるところから始めようか」
「……」
ヨーグルトパフェだよ。と告げるアイザックの言葉にこれは《作る》の内に入るのだろうかという言葉を飲み込み、モニカは材料に手を伸ばすのだった。