ミーンミンミン……ジリジリジリ……
八月上旬の恐ろしく暑い午後四時。
蝉の絶叫。灼けたアスファルトの匂い。汗で張りつくワイシャツ。外出を後悔するには充分な日和である。
最寄駅まで歩いて電車に乗る。いちど乗り換え、下車し、また歩く。改札を出れば閑静な住宅街にぶつかった。百メートル先の角を曲がれば古くて大きな日本家屋にたどりつく。
数寄屋門をくぐり、石畳をなぞって玄関にあがる。框をのぼり板敷の床を踏む。
白昼夢のように続く畳の間をいくつも通り抜ける。幾枚目か、幾十枚目かの襖を開けたとき、それまでと打って変わって、漆塗りの座卓が置かれていた。若い女性が書き物をしている。
節足動物達の合唱が遠のく。この部屋だけ少し涼しい。
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