ドモンから呼び出されたツバサは、頑丈に椅子に括り付けられて身動きひとつ取れなかった。
ただ、目の前のベッドに大胆に脚を寛げて座るドモンの顔を睨みつける。
余裕の笑みを見せるドモンの視線は噛みつきそうな勢いのオーラを放つツバサに向けられている。
「相変わらず鋭い目つきじゃのー。ショウ君と似とるわ。やっぱり、好きもん同士似るもんなんかの?」
「クソウゼェんだよてめぇ。からかいたいだけなら解け」
「まぁ聞けや。ツバサ君が大人しくしてくれたら考えてあげてもえぇけど…生憎今のわしにその気がないんじゃ」
ベッドから飛び降りたドモンはゆっくりとツバサににじり寄り、椅子を脚で勢いよく蹴り倒した。
縛られたまま倒れたツバサは痛みに呻き、愉快に見下ろすドモンを更に鋭い目つきで睨みつける。
「なぁツバサ君。ちぃと聞いてみたいんじゃが………ショウ君のカラダどやった?」
「……ア?」
「したんやろ?ショウ君と、セックス」
半分笑って、けれどどこか内に渦巻く黒いものを押し殺している様なトーンでドモンが尋ねる。
どうしてそんな言葉がドモンから出たのか、それよりも以前にどうしてそんな事をドモンが知っているのか、ツバサは頭の中でぐるぐると考えを巡らせる。
あれはひと月前。
はっきりと言葉を交わしたわけではないが、ショウと一般的に言う恋仲になったツバサは一度だけ、ショウと身体を重ね合わせた。
きっかけはなんだったのか。どうして行為に至ったのかと改めて説明を求められてすぐに答えられるような回答は出来ないだろう。
ただ、なんとなく、求めて欲しくて、求めたくて堪らなくなったと言うべきだろうか。
気付けば手が伸びていて、二人でベッドに沈み込んでいた。
単に、ショウというヒトに興味が湧いた。もっと知りたくなった。
言葉で伝えて分かられるほど簡単な感情じゃなかった。
「テメェには…微塵も関係ねぇ」
「……ほうか…残念じゃのぉ……知らんっちゅうんは…」
「だから…さっきから焦ったい言い方してんじゃねぇ。噛み殺されてぇのか?」
「その状態で反撃出来るもんじゃったらな。それに…わしは喧嘩したい訳じゃないんじゃ。ただ……お知らせしとこう思うての」
「知らせだ?」
ドモンの口から何が報告されるのか疑問に思いながらツバサはどう拘束から逃れようか策を講じてみる。
その間にドモンは後ろの閉ざしたドアを開けて、奥からある人物を引っ張り込んでくる。
その見慣れた姿にツバサは目を見開く。
「ショウ!どうしてここに」
「わしが呼んだんじゃ。丁度3日前にの」
「…3日前…?」
ドモンの口から放たれた期間にツバサはハッとする。昨日、ショウの親友からショウの居所を聞かれた事を思い出したからだ。
なんでも約束していた奉仕活動の場所に来なかったからといってツバサに聞きにきたらしい。
まさか、ドモンの所にいたとは思いもしなかったツバサは嫌な予感が胸の奥で渦巻いて変な鼓動を叩いている。
「…まさか、ショウに何か変なことしたんじゃねぇだろうな?」
「とんだ濡れ衣じゃの。わしは何もしとらんで?ショウ君が望んでここにきたんじゃ」
「嘘つけ。わざわざ罠張ってる所に来る程ショウは馬鹿じゃねぇ」
「……そやのう。ショウ君は賢い選択をしてここに来た」
何かを含んだようなドモンの言葉に騒つく心音は徐々にツバサの情緒を乱していく。
ふとショウの方へ視線を移せば、項垂れたまま動く気配がない。
明らかに様子がおかしい。
それに、微かに香る嗅ぎ覚えのある香り。
「…お人好しすぎて反吐が出るわ。ネンショーの頃のショウ君は……こんなに生温くはなかったのにのぉ……」
ドモンの手がショウの髪を引っ張り自分の方へ無理矢理引き寄せると、虚ろな表情のショウに向かって呟く。
「…のぉ、ショウ君。ツバサ君に教えたったら?自分がどんだけ、立派な人間かをのぉ」
温度すら感じない声で囁きながらドモンがショウの衣服に手をかける。
見せつけるようにシャツの中へと潜り込ませた手に漸く反応を見せたショウの瞳が微かに揺らぐ。
「てめぇ、ショウから手離せ」
「言うた筈じゃ。ここに来たんはショウ君から望んだ事じゃ。今から抵抗出来ん理由をツバサ君に教えたるわ」
ドモンは懐から一枚の紙を取り出してツバサの目の前に差し出して見せた。
そこには短くこう記してあった。
『大事な大事なツバサ君がクスリ漬けにされとうなかったら一人でわしの所に来い。ショウ君が来てくれたらツバサ君には手を出さん』
まるで脅しのような文言にツバサの頭の中で糸が音が鳴る。
「こんな脅迫めいた事して、恥ずかしくねぇのか!?」
「こうでもせんとわしの気が済まんのじゃ。純朴なフリして接してるショウ君が、憎たらしくてしゃーないんじゃ」
奥歯を噛み締めながら呟くドモンの表情から笑みが消える。
引き裂くように衣服を破り開くと、ツバサの方にショウの身体を向き合わせた。
所々に残るあざと、赤く散ったあとにツバサが息を呑む。
これを見ただけで何をされたのか分かってしまう。
そしてそれは、自分を守る為に受けたものだと。
「なぁ、ツバサ君。わしに汚されたショウ君見てどう思った?いくらツバサ君でもこんな身体、いらんやろ?」
「黙れよ」
「いいや黙らん。ツバサ君にはもっとショウ君の汚い所見てもらうで?」
再び狂気を含んだ笑みを浮かべ乱暴にショウの唇を奪うと、呼吸さえ許されない苦しさにドモンの胸を叩く。
息も絶え絶えに離れると、変わらず身動きを取れないツバサの前で首筋に唇を落とす。
首に走った痛みにショウの表情が歪む。
「ツバサ君よぉ、ちゃんと本当のショウ君見てやらんといけんと違う」
「うるさい。今すぐこれ引きちぎってでも止めてやる」
「威勢がいいのぉ。ショウ君とのセックスもさぞかし欲望丸出しじゃったじゃろうの」
「っ、テメェ…」
「遠慮せんととことんショウ君の乱れた姿にコウフンするとええわ」
言葉では強がっても、拘束から逃れられないもどかしさと手首の痛みにツバサは唇を噛み締める。
その間もドモンの手はショウの肌身に触れていき、散々掻き抱いた身体を暴いていく。
間違いなくアメシガを摂取するように脅されたショウの様子が目に見えて毒されているのが分かる。
局部にまで伸ばされた手が触れただけで乱れる息遣いが漏れ始めている。