酸欠で頭がくらくらする。力の抜けた身体はぐったりとイドの胸にもたれかかり逞しい腕に支えられる。
「……すまない」
申し訳なさそうに眉を下げ細められた目がローランを見ている。大剣を握る太い指が優しくローランの口元を拭った。飲み込みきれなかった唾液がつぅと溢れていたのだ。
「あんたを前にするといつも加減が効かなくなる」
付き合い始めてからそれなりの月日は経っている。すまないと口で謝りながらも欲の灯った瞳で真っ直ぐに求められることは嫌ではなかった。色恋事と無縁そうな(実際付き合い始めの頃はキスすら慣れていなかった)人間に、そんな目で見つめられるのは悪い気分じゃない。
しかし、最近のイドには余裕が出てきたのは少し面白くない。それが不満というわけではないのだが。
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