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    yuno_tofu

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    yuno_tofu

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    Shayt ②[2]

    山々に囲まれた穏やかな農村、夢見草くらみかや
    桜色の蕾が彩り始めたその村を一望する山の上には、氏神うじがみを祀る神社と氏神に直接仕える妖、神使しんしである桜月さつき家の営む茶屋がある。

    「あっ、弥琴お姉さんいらっしゃい!」

    「あぁ、お邪魔するよ」

    ようやく神社に続く長い長い階段を登り終えた私を箒片手に花のような笑顔と銀の狐耳を揺らして迎えてくれたのは、桜月さつき家の現当主である結望ゆのちゃん。
    相変わらず成人しているとは思えない風貌と人懐っこく素直な様は彼女の祖母であり私の友であった・・・純白の妖狐とはやはり大違いだなと思いながら頭を撫でてやっていると、茶屋の中から慌てたように駆けてくる人影が一つ。

    「ラギさん!!」

    顔は相変わらず白布の面に覆われ見えないが、声は間違いなく心配の色を帯びている。そんな人影こと弟子からちらと結望ちゃんの方に視線だけ向けると小さく苦笑いを返された。……どうやらずっとこの調子だったらしい。なんとも弟子らしいことだ。が、それはつまりそれだけ心配する理由があったということだろう。

    「そう心配しなくて良い。私は見ての通り無事さ」

    「よ、良かった……」

    「だが。……君、さてはあの者の正体を知っていたね?」

    「えっ。あっ、えっと……」

    「ゆーのー?」

    「う…。しっ、知ってはいますけど……で、でも多分ラギさんが思っているのとは違うというか…!」

    「ほう?悪魔ではない、と?」

    じりじりと笑顔のまま詰め寄っていけば、弟子は少しずつ後退って行く。それを見て結望ちゃんまでもがやんわり私を止めようとしているのを見るに、どうやら二人とも知っていた事らしい。

    「はぁ、全く……」

    「た、確かにシェイムお兄さんは悪魔さんなんだけど、それだけじゃないというか…!」

    「結望ちゃん、それフォローになってないです…」

    「んぇ。えーっとえっと!」

    「分かった分かった。ともあれ判断は話を聞いてからにするさ」

    軽く額を抑えながら、あわあわと彼を庇おうとする二人を止める。そうすればすぐに二人は揃って首を傾げたが。

    「ということで、呼んでくれるかい?侑李君、とやらを」

    にっこりとそう言った私を見て、弟子は小さく「…え」と声を零した。


    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
    茶屋の中に移動し、客席に座っては弟子が淹れてくれた茶と私が買ってきた甘味を味わう。
    その向かいの席では弟子が、前に私も弟子から貰った四角い機械(確か「すまほ」とやら)を手に小さく溜息を吐いていたが、私の視線に気づいたらしく意を決して何か操作を行う。そうすればそれはすぐに少しくぐもった人の声を届け始めた。

    『……もしもし?』

    「あ、ゆ、侑李……君?」

    『そーだけど……珍しいな、ノアから電話くれるなんて』

    微かに聞こえた声はどことなく嬉しそう。
    けれど逆に弟子の表情は曇り、一方の私は確か弟子が「結望ちゃんと私は下の名前が同じだからややこしいでしょう?」なんて言って一部の者に名乗っているのが「ノア」という名前だったなぁと思い出しながら甘味を口に運んだ。

    「え、えぇと……あの、ね」

    『うん』

    「今から茶屋に、来れます?」

    『今から?』

    「……今、すぐ」

    『随分急だなw でも問題ないぜ』

    「良かっ…、……ごめんなさい、私のせいで怒られるかも」

    『え?なんかあったのか?』

    「あ、ある意味…。ごめんね、ほんとあの…ごめんなさい!」

    私のにこやかな表情にたじろぎながら電話とやらをする弟子を眺めるのは中々に楽しかったが、流石にそろそろ限界だったらしい。そのまま弟子は彼の返事を待たずに電話を切るとそれを机に置いて大きく溜息を吐いていた。

    「何もそう謝らなくて良いだろう」

    「だって……」

    「別にそこまで心配せずともただ話を聞くだけさ。ほら、私の隣においで。その方が君は気兼ねないだろう」

    「……うん」

    小さく頷き、私の隣に座る。
    そんな弟子に甘味を一口食べさせ、晩御飯の仕込み中らしい厨房から心配そうに顔を覗かせた結望ちゃんには「気にしなくていい」と言わんばかりに手を振った。そして。

    「……えっと、失礼します」

    音もなく境内に現れた気配。それはそっと茶屋の中を覗くもすぐに私がにこりと目の笑っていない笑顔を向ければ僅かに表情を引き攣らせ、何かを察したように素直に向かいの席に正座で座る。

    ──青い髪の少年。確かに先のシェイムとはよく似ており弟のようにも見えるが、果たして。

    「急に呼び出して済まなかったね。私は柊 弥琴。既にこの子から聞いているだろうけれど、大儺たいなの師匠を務めている者だ」

    「あ…いえ……えっと、初めまして。俺はプラム…です。……あの、俺今から怒られるのか…?」

    「…おや?侑李君ではないのかい?彼から・・・そう聞いたのだけれどねぇ」

    彼の問いには答えず、淡々とした口調を崩さないまま少しだけ言葉を強調する。そんな私に隣の弟子は慌てて私の方を向き彼に助け舟を出そうとしたようだったが。

    「彼?…っ、ノア!アイツお前になんかしたのか!?」

    これは少し予想外。私に萎縮しながらも真っ先に弟子の心配をするとは。勿論弟子は声にびくりと肩を跳ねさせてから何も言えずに少し顔を逸らしたが、その姿を見ても彼はすぐにばつの悪そうな、けれどなんとか安心させようとするような苦笑いを浮かべていた。

    「わ…わりぃ、大声出して…」

    「だ、大丈夫です…」

    一見するとぎこちない二人ではあるのだが、弟子は気まずさはあれど怖がってはいないようだし、彼も弟子に終始心配そうな目を向けている。……であれば二人が友であることは疑わなくても良いだろう。
    そう思ってわざとらしく溜息を吐いては、漂い始めていた重い空気を破る。そろそろ本題に入る頃合だ。

    「はぁ。まぁこの際、彼がこの子にやったことについては目を瞑ってやろう。けれどこの和の国に悪魔を連れ込むのは頂けなくてねぇ。是非彼の親しい者だという君に話を聞こうと思ったのだよ」

    そう言うと、彼はハッとしたように私に向き直る。
    ひるむことのない、真っ直ぐな淡い青と緑青ろくしょうの目を向けて。

    「なら順を追って情報を提供したいんだけどいいか…いや、いい…ですか?」

    「ふむ、お願いしよう」

    「まず侑李ってのは俺の本名であってる。プラムって名乗ったのは、俺が時系列の狂った別世界に閉じ込められたことがあって数百年ぐらいこの名前で生きていたから癖で使っちまっただけで、弥琴さんを騙す気は全くない」

    「…そうか。ならその言葉を信じよう。それで?」

    「次に悪魔だけど、あれは俺が作ったAI。名前はシェイムだ。えっと…ここの世界だと「自我を持った傀儡」って言えば通じるかな?生物ではないから人間が出来ない計算や情報管理が得意だ。どの種族にも属さないしどの種族にもなれる。悪魔…というか夢魔はその中でも気に入ってるのかも」

    「…なるほどね。要は好んで邪鬼の姿をする式神、と言った所か」

    彼の言葉を噛み砕き、思案。
    確かにあの邪気に近い…いや、それよりもどこか禍々しく感じた力は気になる所だが、少なくとも彼は邪鬼に準ずる存在ではない。そして製作者らしい侑李君からは全くその力を感じないことを考えれば、確かに彼女らが見過ごしていた気持ちも理解は出来る。
    勿論、その力を弟子ゆの友の孫娘結望ちゃんに向けると言うのであれば話は変わるが。

    「この子らに危害は加えないと言えるかい?」

    「…俺と関わりのある奴らを保護対象として見てるから命に関わるようなことはしないけど、何をするかは俺にも分からねぇ。もしノアに二度と関わらせたくないのなら、方法は「俺とノアの関係を切ること」だけだ」

    「…ふむ。それで?ゆのはどうしたいんだい?」

    やや煮え切らない答えではあったが、おくさず正直に話す姿勢は評価に値する。そう思いながら話を振れば、弟子は少し肩を上げてからこくこくと小さく頷いた。

    「えっ。……大丈夫、です。今回は少し驚いただけなので…」

    「そうか。…なら私から言うことは無いよ。君にはもう少し彼の上手い手綱の握り方を学んで欲しいところだけれどね」

    一気に表情を和らげてそう言えば、二人はぽかんとしたように私の方を向き、それから顔を見合わせる。その様子が何だか面白くてくすりと笑えば、侑李君は驚いた顔をした。

    「俺は…てっきり関わるなって言われるかと……」

    「まさか。この子のこれからはこの子自身が決めることさ。そして君は彼について責任を持つと言うなら私は別に構わないよ。本物の悪魔でもないようだしね」

    「勿論アイツが何かしたら親である俺の責任だ。ちゃんと償わせて貰う」

    「なら、その覚悟で充分さ」

    言いながらにこりと。そうすれば弟子は安心したように胸を撫で下ろし、侑李君はというとべたぁという効果音でも合いそうな勢いで目の前の机に伏せた。

    「良かったぁ……。弥琴さんに関わるなって言われたら断るつもりでいたからすげぇ気抜けたぁ…」

    「おや、私の弟子を泣かせておいて断るつもりだったのかい?」

    「ちょ、ちょっとラギさん…!」

    すぐに弟子は「なんで言うの?!」とでも言いたげに声を上げる。けれど侑李君はこちらを少しだけ見ては、困ったように、そして当然のように、小さく呟いた。

    「俺だって泣かせたくはないけど……でもノアのこと任せられたから離れる訳にもいかねーじゃん」

    瞬間、弟子の肩はびくりと跳ねてそのまま固まる。その不自然な反応を見れば……彼が、誰に・・、弟子を任せられたか。それは一目瞭然だろう。

    (親友の存在は忘れても……約束は忘れない、か)

    ふと、過去に思いを馳せる。
    ──私は、友との、そしてあの娘・・・との約束を、守れているだろうか。

    今はもう、面と向かって私を見て…そして叱ってくれるのは弟子だけ。けれどその弟子にも私は己を明かせないでいる。
    なんとも弱いものだ。すっかり偽りまみれの一人での生き方に慣れてしまった。

    しかし、弟子は。
    この子はまだ、一人では無い。

    「…へぇ?それならしっかり見ておいておやり。この子はすぐに無理をする癖があるからね」

    そっと弟子の背を撫でてやりながら、優しく話す。
    こうして気にかけてくれる者がいるのであれば、弟子はきっといつかまた前を向き、そして自分の道を歩めるだろう。
    そう思いながら言った私に対し、二人は。

    「……弥琴さんって良い師匠さんだな」

    「……たまに変なことしますけどね」

    なんて言って表情を和らげた。


    その後、気を遣った結望ちゃんが侑李君にも茶と自家製の甘味を出し暫し団欒だんらん。と言ってもしていた話と言えば。

    「あーそうだ。シェイムがもし邪魔するなら手加減しなくて良いぜ。どうせ量産型の体使ってるからすぐ復活する」

    「ん?あぁ、式神なら形代があればいくらでも呼べるものね。……まぁ私はそういう手荒な真似は好かないが」

    そんな話。勿論内心ではその方法はどうなんだと思いはしたが、それくらい侑李君にもぎょしきれていないのだろう。彼は本当に「ああ言えばこう言う」という言葉がよく合いそうだった。

    となれば、そんな頑固な彼が自ら宣言したことを反故ほごにするとは思えない。つまり、私の家に来るのは確定事項だろう。

    「そうだ、彼が近い内に私の家に来るそうでね。ここの隣街の天満あまみで「一輪堂はどこだ」とでも聞けば分かるだろう。それと、土産を期待していると伝えておいてくれるかい?」

    何の気なしに、侑李君を見て言いながら首を傾げる。
    別に家に来るのは構わないが、その為に弟子に案内させるだなんてことは辞めて欲しい。土産はただ彼を知るには良い機会になるかもしれないというだけで大して期待もしていないが。

    と、至って気にすることなく言った私の隣で弟子はぎょっとしたように「えっ?!」と声を上げていたが、侑李君は特に驚くことなく首を傾げ返した。

    「土産?なら何が欲しいか教えてくれるか?多分俺を通してこの会話聞いてると思うし……」

    今度は侑李君の発言に弟子が「えぇ…」と零す。確かに会話を聞いているとは思わなかったが、まぁ別に問題も無いだろう。そう思いながら、にこりと笑みを浮かべた。

    「おやおや、何を選ぶか分かっていたら面白みが無いだろう?彼が想いを込めた物ならば、何でも良いさ。けどそうだね、食べ物や動植物は遠慮しようかな」

    「そんなもんか?俺はスモモ食べたいけど……」

    「酒なら彼に貰わずともよく貰うからね」

    勿論私でも酒以外──例えば桃や甘味は好んでいるが、今回彼に貰うのは物でなければならない・・・・・・・・・・
    それらは是非二度目以降があれば土産として頼むことにしよう。

    「それじゃぁ、私はここで帰るとするよ。あぁそうだ、君も暇ならいつでもおいで。手伝いは何人いても助かるからね」

    淀みなく言いながらにっこりとして、席を立つ。
    弟子には「もう帰るの?」とでも言いたげに見上げられたが……恐らく友達同士、そしてあのに関わる者同士で積もる話もあるだろう。きっとまだ、部外者の出る幕ではない。

    「君もまたおいで」

    軽く頭を撫でては、たもとに入れていた小包を渡す。
    そうすれば弟子はすぐに中身が金平糖私の大好物だと分かったようで何か言いかけたが、私の表情を見て大人しく受け取り小さく頷いたのを見てから外へと出た。

    さて、それでは早く天満あまみに帰って心配症な彼女・・が乗り込んで来た時の為の酒でも見繕いに行くとしよう。
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