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    yuno_tofu

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    yuno_tofu

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    「発端」ではあんな感じだった弥琴ですが、こういう所もある…という話。始まりが急な短編2話。

    ①アヤが弟子になって間もない頃、大儺の仕事を終えた後の話。(弥琴視点)
    ②アヤが弟子になって暫くしてからの話。(アヤ視点)

    金平糖─ ① ─

    「ゆの、口を開けな」

    「え…?」

    驚きと共に小さく開かれた口に、金平糖を一つ放り込む。
    そうすればすぐにゆのは目を見開いて驚いた様子だったが、流石に今更遠慮のしようも無いだろう。

    「何か分かるかい?」

    「……金平、糖?」

    「おや、よく分かったね」

    「昔…1回だけ貰ったこと、あるから…」

    「そうか。美味しいかい?」

    「美味しい、ですけど…」

    そう言ってゆのは戸惑ったような顔をしていた。人の機微には聡いのに、どうしたって「自分に向けられる優しい感情」だけは理解…いや、受け入れる事が出来ないのだろう。
    …子供というにはあまりにも大人で、けれど大人というにはあまりにも子供だ。

    「君は今日、確かに頑張った。引き際を誤らず私を頼ったあの時の判断は、君からすれば納得出来ないかもしれないが…私からすれば満点だ」

    言いながらゆっくりと、出来るだけゆっくりとゆのの頭に手を近づける。それでもやはりまだ頭に触れる寸前でゆのは怯えるようにぎゅっと目を閉じたけれど、気にせず優しく触れてそっと撫でてやった。

    「…よく頑張ったね。その金平糖は、ご褒美さ」

    それだけ。たったそれだけの、肯定言葉と行動
    それでも、見た目よりずっと心が幼いまま育ってしまった目の前の少女は“まるで初めて褒められたかのように”驚いた目に涙を溜めて、静かに溢れさせた。

    …きっと、この子の心が育つまでにはまだ時間が掛かるだろう。
    私に完全に心を開いてくれるのも、死にたがりの癖が治るのも、そう簡単な話では無い。

    けれど、私にはいくらでも時間があるのだ。
    それならこの、卑屈だが真っ直ぐで純粋な少女の面倒くらい見てやろうじゃないか。
    ─なんせ私は、師匠なのだから。

    「君はちゃんと、頑張れていたよ」

    包み込むように抱き締めてやりながら、怖がらせないように小さく言う。そうすれば益々涙は止まらなくなってしまったようだけれど、それからずっと、泣き疲れて眠ってしまうまで私は彼女を抱きしめ続けた。




    ─ ② ─

    「ねぇ、ラギさん」

    「ん?なんだい?」

    そう言いながらラギさんは金平糖を1つ摘むと、私の口の前に持ってくる。だから私もついついパクリと食べそうになるのを我慢してからジッとラギさんの黒い瞳を見つめた。

    「金平糖って…高い、のでしょう?」

    私の生まれ育った世界では、金平糖は別に普通のお菓子だった。
    スーパーに行けば子供のお小遣いでも買える値段で売っている。…私はお小遣いを貰ったこともお菓子を買って貰ったことも無いけども。

    でも、この世界では話が違う。
    金平糖は高い…というか、神使への献上品として選ばれることもあるくらいの貴重品で、庶民では早々お目にかかれない物らしい。
    なのにラギさんはどんな些細な事でも、私を褒める時はいつも金平糖を食べさせてくれた。

    ─その理由が、どうしても私には分からない。

    確かに私達は師弟関係だけれど、ラギさんが私を弟子にしてくれたのは大切なお友達の孫娘である結望ちゃんを守る為だろう。だから私に厳しくする理由はあっても優しくする理由なんて。

    「確かに金平糖は高価だねぇ」

    「なら、なんで…」

    「…実は私は金平糖が好きでね」

    唐突にそう言うとラギさんはポカンとする私を見てイタズラぽくクスリと笑って、それから人差し指を口の前に立てた。

    「これは秘密だよ?結望ちゃんも知らないからね。…ということで、これは口止め料さ」

    まるで有無を言わさないかのように摘んでいた金平糖をグイッと私の口に近づけて、ラギさんはまた笑う。
    果たしてこれは嘘なのだろうか。それとも本当?

    ラギさんは感情がよく出る方だと思うし、嘘は基本分かりやすい。
    けれどどうしたって本音は覗けないし、たまに嘘も嘘だと分からなくなる。それはきっと「全て嘘」か「嘘の中に本当が混ざっている」の違いなのだろうけれど、今回は一体何が嘘で何が嘘じゃないのだろう。

    「(やっぱり読めない…か)」

    多少使い慣れて来た読心術も、より深く読む為に視界内に捉えるだけじゃなくて直接目を合わせたって何故だかラギさんには通用しないから、どうしても真意は分からない。…けれど。

    「ふふっ」

    ようやく諦めて金平糖を口に運んだ私を見て、ラギさんは小さく…けれど嬉しそうに、そして優しい目を私に向けながら笑みを零していつものように頭を撫でてくれた。
    …その感情が分からない。でも、確かに温かくて。

    「(甘い、なぁ…)」

    ぼんやりそんなことを考えながら、口の中で金平糖を転がす。
    決して噛み砕いてしまわないように、この幸福が終わらないように、甘さが消える最後の最後まで大切に味わい続けよう。
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