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    yuno_tofu

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    yuno_tofu

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    たまには三人称視点。
    縁側で弥琴の膝の上に緊張しながら座る菫と、シェイムさんの膝の上にルンルンしながら座るナコ、そして和む夫婦が見たかった…のだけど、そこまで書けなくてなんか中途半端になった。

    親子のような街に活気が溢れ随分と賑やかになる昼12時前。
    ふんわりと土間から漂ってくる良い香りに弥琴はそろそろ昼食が出来そうだなと思い、開いていた帳簿を閉じてから席を立った。

    昼休憩はおおよそ1時間だし、この時間に客は滅多に来ない。
    けれど、折角の2人で過ごす休憩なのだから出来ることなら邪魔をされたくない。
    ということで店の表に掛かっている「開」と書かれた札をひっくり返そうと引き戸を開けた訳だったが。

    「っ…」

    「…おや」

    どうやら丁度戸を開けようとしていた人物がいたらしく、一瞬2人揃って動きが止まる。
    けれどすぐに来訪者にじっと視線を向けられ、先に口を開いたのは弥琴だった。

    「ゆのを連れずに来るのは珍しいね、リア君」

    「まぁ…。……出掛けるとこ?」

    「いいや、昼休憩の為にその札をひっくり返そうとした所だよ」

    「札?あー…これ?」

    弥琴が指をさし、来訪者ことリアもそちらに目を向ける。そして札を手に取ると1度弥琴の反応を伺い、コクリと頷かれてからそっとひっくり返した。

    「ありがとうね」

    「いや…休憩時間に、悪い」

    「構わないよ。けれど急にどうしたんだい?菫とナコを連れて」

    純粋にそう聞いて弥琴は首を傾げたが、リアはまた少しだけ固まった。なんせ確かに菫とナコを連れて来てはいるけれど、この2体の付喪神は現在姿を見せておらずただリアは依代であるバングルと指輪を持ってきただけ。それなのに言い当てられて、驚かない方が難しいだろう。

    「よく分かったな…」

    「ん?菫とナコがいることがかい?」

    「うん…」

    「その子らには私とシェイムの力が混じっているのだよ?当然さ」

    「あー…そういうもん?」

    「そういうものだよ」

    否、半分は嘘である。
    確かに自身の力と愛する旦那の力を感じれはするが、そもそも弥琴はこの国で生まれた者の中で唯一の「付喪神の気配を感じ取り、いつでもその姿を見ることが出来る」存在なのだ。なので最初からリアの傍に紫の蝶ナコ黒い金魚が見えていた、というのが正しい。
    勿論そのことは自身の正体を明かすと同義になるので言わないが。

    「とりあえず中で要件を聞こう」

    そう言って手招きし、リアが店内に入ってから戸の鍵を閉める。
    それからバングルと指輪をポケットから取り出し弥琴に向けるリアの話を聞いた。

    「今アヤとハルが寝込んでて…」

    「それは…邪鬼の仕業かい?」

    「いや、ただの風邪」

    「…相変わらず病弱だね、あの子らは」

    「ほんとに」

    「それに同時に風邪を引くだなんて…」

    「あーいや…うーん…」

    「ん?」

    「…ハルが風邪引いて、アヤに移った」

    「……。はぁ、君と結望ちゃんは?」

    「全然元気。ハルとアヤも落ち着いてはきた」

    「良かった…」

    「んだけど、まぁ…異世界の風邪な訳だから完全に治るまで外に出る訳には行かねーじゃん?村の奴らに移すと不味いし」

    「そうだね」

    「だから今は2人ともサツキの家で大人しくしてんだけど、それならそうとコイツらも暇かと思って」

    「……それで預けに来たのかい?」

    「うん。ハルとアヤに頼まれた」

    「なる…ほど…」

    一応、菫とナコは弥琴とシェイムがアヤとハウルの為に作った魔具に宿った付喪神であり、持ち主を守ることを至上とする。なので基本片時も離れないのが普通ではあるが、確かに使われてこその存在でもある。
    となればリアの言う通り、強力な結界に守られた安全な場所にずっとおりやることの無い付喪神達は暇…というか、恐らく持ち主2人は熱に浮かされつつも純粋に付喪神達の身を案じ、それならせめて製作者達の傍にいれば消える心配も無いのではないかと考えたのだろう。

    「確かに付喪神が不安定な存在だと念を押したのは私なのだけれど…」

    少なくともこんなに大切にされているのに数日使われなかったからと言って消える程やわでは無い。
    けれどアヤとハウルは付喪神を持つのが初めてな訳だし、心配になるのも仕方の無いことではあった。…それならそうともう1体の付喪神の所在も気になる所ではあるが。

    「茜は連れてきていないのかい?」

    アヤの槍に宿った付喪神こと茜。
    弥琴の力の1部とも言える彼女は他の付喪神と違い堕ちもしないし弥琴がいる限り消えもしないという例外中の例外ではあるが、そのことをアヤ達は知らない。なので不思議に思い聞いた弥琴だったが、リアは少し困惑したような表情を浮かべた。

    「あー…アイツはなんか行きたくないって言い張ってて…。んで自分は木で出来てるからゆえの力の届く所の方が良いって…」

    …どうやら駄々をこねて留守番しているらしい。
    もっとも、茜的には一輪堂に来る理由がないというか来ても楽しくないというのが1番の理由なのだろうけれども。
    それにしたって苦し紛れの言い訳にゆえこと夢見草くらみかやの氏神の名前を持ち出したことをアヤ達はどう思ったのだろうか。そう思いつつ、弥琴はコテンと首を傾げるリアに苦笑いを向けた。

    「だから一応確認に来たんだけど、アイツ放置してて大丈夫?」

    「大丈夫だよ…。というか、菫もナコも数日程度じゃ消えたりしないよ」

    「そなんだ…。んじゃ何日くらい?」

    「日数というより、大事なのは大切にされているかどうかだ。例え毎日使っていてもそこに心が篭っていなければ堕ちてしまう」

    「あー…え、じゃぁ連れて来なくて良かったってこと?」

    「あぁ。実際菫もナコも断ってはいただろう?」

    「うん…。でもいっつも菫は遠慮がちだし、ナコはちょっと悩んでからだったから…」

    「なんというか、そういう所はゆのとハウル君に似たねぇ…」

    「…確かに」

    きっと菫もナコも「ぬし様」と呼び慕う製作者夫婦に会いたい気持ちを抑えていたのだろう。けれどその様子を見て寝込み中の姉弟はいつものような察しの良さが発揮されなかったらしい。
    なら、ここは一旦預かって安心させてやる方が良さそうだ。

    「とりあえず事情は分かった。菫とナコはこちらで預かるからあの子達が回復したら迎えにおいで」

    「ん、分かった」

    そっと、弥琴の手にバングルと指輪が乗せられる。
    折角なら傷も直してやろうと思いチラッと見るも、元の頑丈さと持ち主の性格故か傷1つ無いし、とても綺麗に手入れされている。そのことに弥琴は少し表情を和らげてからしっかりと握り、そして満足して帰ろうとするリアを呼び止めた。

    「リア君」

    「ん?」

    「シェイムを呼んで来ようか?薬がいるだろう」

    「…でも今飯作ってんだろ?」

    「別に遅くなっても問題無いさ。その分昼休憩が伸びるだけだからね」

    「……相変わらずだなぁ」

    そう言ってリアは少し呆れた顔をしたけれど、弥琴は「褒め言葉として受け取っておくよ」と笑ってから土間に向かおうとした。が、その前に。

    「これを」

    「おや、早い」

    土間どころか居間にも着く前の廊下でタイミング良く鉢会い、けれど弥琴は特に驚くことなくシェイムの差し出す袋を受け取り何種類かの薬が入っているらしい袋の中を少し覗いて首を傾げた。

    「これはリア君に使い方を説明しなくて大丈夫なのかい?」

    「リアに口頭で伝えても覚えられないだろう。中に薬の説明書きを入れたから結望君なら分かるはずだ」

    「それなら大丈夫そうだね。渡してくるよ」

    「あぁ」

    短い返事の後、2人何か言うでもなく自然と流れるように軽い口付けを交わしてから小さく微笑み合う。それからすぐに2人とも踵を返して弥琴はやや不服そうな顔をするリアの元に戻った。

    「お待たせ」

    「…いや早くね?」

    「君が私とシェイムの会話を聞いていたように、シェイムも聞いていただけさ。白虎は五感が鋭いからね」

    「まーそうだけど…」

    「ともあれそれは結望ちゃんに渡しな。あともし何かあればすぐにおいで」

    「…うん」

    「それじゃぁ」

    「ありがと」

    そう言うと、リアは律儀に少しだけ頭を下げてから薬を受け取り帰って行った。その姿にたった数年で随分丸くなったなぁと思いつつ、弥琴も表情を和らげてから居間に向かう。そして、ようやくずっとオロオロしていた2体に声を掛けた。

    「菫、ナコ」

    呼ぶと同時に少女の姿をした付喪神達がふわりと現れる。
    けれどいつもなら遠慮がち、もしくは嬉しそうに飛びついてくる2体だが今日は少し不安そうな表情をしていた。…それもそうだろう、2体にとってはあるじを守るという命令を遂行出来なかったも同義だ。上手く持ち主達を安心させられなかった申し訳なさもあるのだろう。─だからこそ、弥琴はいつものように優しい表情を向けた。

    「ほら菫、そんな顔はしなくていい。ナコもいつものようにおいで?」

    「…!主様っ」

    弥琴が両手を広げると、ナコはパッと嬉しそうな表情を浮かべて弥琴に抱きつく。一方の菫は相変わらず遠慮がちではあったけれど、後ろから優しく頭を撫でられてすぐに振り返った。

    「物には休息メンテナンスが必要不可欠だ。落ち込む必要は無い」

    「主様…」

    ようやく菫の表情も和らぎ、ほのぼのとした空気が流れる。
    その光景はまるで親子のようで、特に弥琴は嬉しそうに目を細めていた。
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