②「はぁ」
大きな溜め息に、視線を移すと同僚の踪玄が頭を
抱えている。連休の前にデスクに積んであった大量の書類が鞄から溢れていた。
「……また仕事持ち帰ったんですか?」
「えぇ、まぁ…」
どうして家に帰ってまで仕事をするのだろうかと理解に苦しむ。が、それはいつもの事だ。あまり気にはならなかった。それよりも先程の深いため息が気になって。
「終わらなかったんですか?」
いつもなら、持ち帰ったものの大半は終わらせて。もう少し持ち帰ればよかったなんて、こちらが驚くような事を言う人が。
「…いえ……それが。……持ち帰った仕事に集中しすぎて、気がついたら夜が明けていまして…。…鈴蘭殿……恋人と出掛ける約束をしていたのですが、疲れているのに無理して出掛けなくて良いと、家で過ごす事に…」
「はぁ……」
仕事に集中しすぎて夜が明けていた。という所で、理解は追いつかなくなり、話半分で聞いていた。でもまぁ、気を遣ってくれる良い恋人じゃないかと思うが。
「……本当は色々、行く場所を考えてくれた様なのですが…そういう事は決して口には出さないので……謝っても忙しいんでしょう。仕方ないよ。…と…」
随分と落ち込んでいる様で、仕事で行き詰まった時にも見せない様な苦々しい顔は、本当に悔やんでいるように見えた。
けれど、珍しい。約束をすっぽかすなんて。集中しても、時間は守るタイプだと思っていたが。
「……てか、そんなに急ぎの案件ありました?」
「…有給で迷惑を掛けては申し訳ないですから、…できる物を前倒しておこうかと…」
鞄から、書類を取り出し終わったものとそうでないものを分ける。そうでないもの、と言ってもほんの僅かだが。
「…もしかして、有給取ってるの秘密にしてるんですか?」
「よく、分かりましたね…」
仕分けられた書類を綺麗に整えていた手が止まる。驚いたと言わんばかり、キョトンとした顔でこちらを見つめられた。
「言ってたら、誕生日に休みたいからと言えますからね。…別に、そんなに頑張らなくても大丈夫ですよ。1日だけだし。いつも仕事速いんですから」
「はぁ…」
「それより、お誕生日のお祝い、上手く行くと良いですね」
サプライズなんて苦手そうなのに。恋人の事になると、らしくない事をするんだなぁと。何でも卒なくこなす彼の事を応援しなくてはと思ったのは初めてかもしれない。